ビジネスアナリシスとは?BABOK®・PMIの知識体系とサイト制作への活用

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今回もブログを担当します、Webディレクターの佐藤です。
前回は「AI時代にサイト制作はどう変わる?『AI活用のメリット」と『制作会社の価値』」という記事を書きました。その中で「上流工程こそ制作会社の価値が発揮される」とお伝えしましたが、今回はその上流工程で特に重要となる「ビジネスアナリシス」について書いていこうと思います。

本記事でご紹介する内容は、効果的なサイト制作を進めるうえではマストで対応すべきこととなります。もし自社での対応が難しいと感じられた場合は、ぜひ我々のような制作会社にご相談いただければ幸いです。

ビジネスアナリシスとは?

ビジネスアナリシスの定義は団体によって若干の違いがありますが、国際的な専門家団体であるIIBA(International Institute of Business Analysis)は、次のように定義しています。

「ビジネスアナリシスは、ニーズを定義し、ステークホルダーに価値を提供するソリューションを推奨することにより、エンタープライズにチェンジを引き起こすことを可能にする専門活動である。」

引用:IIBA公式サイト

この定義をもう少し噛み砕いてみます。

  • ニーズを定義する
    組織の現状を深く理解し、「本当に必要なものは何か」という本質的な課題や機会を明らかにする。
  • ステークホルダーに価値を提供するソリューションを推奨する
    関係者(社員、顧客、経営層など)にとって最も効果的な解決策や改善策を、具体的に提案する。
  • エンタープライズにチェンジを引き起こすことを可能にする
    単なる提案で終わらせず、その変革を実現し、組織全体をより良い状態へ導く。

つまりビジネスアナリシスとは、目の前の問題を漠然と解決するのではなく「なぜその問題が起きているのか」、「本当に解決すべきことは何か」を掘り下げ、「組織全体にとって最適な解決策は何か」を導き出すことで、持続的な成長を可能にするための重要な活動と言えます。

ここまでの説明だけだと「現場の課題を解決する」といったニュアンスを強く感じられるかもしれませんが、それだけではありません。経営戦略から戦術レベルの施策を立案したり、ビジネス目標を達成するために何をすべきか意思決定したりするうえで、必要な情報を整理し支援することもビジネスアナリシスの活動に含まれます。

参考リンク:https://japan.iiba.org/page/aboutba (IIBA公式サイト)

ビジネスアナリシスの知識体系

代表的なものとして、IIBAの「BABOK®」と、PMIの「PMI ビジネスアナリシス・ガイド」があります。

IIBA 「BABOK® ビジネスアナリシス知識体系ガイド」

IIBAが発行する「BABOK® ビジネスアナリシス知識体系ガイド」は、ビジネスアナリシスの実践に必要な知識、タスク、スキル、テクニックを網羅的にまとめた、この分野で最も広く知られているガイドです。ビジネスアナリシスのあらゆる側面が体系的に整理されています。

BABOK®の主な構成

知識エリア (Knowledge Areas)

ビジネスアナリシスを実践する上で必要な、6つの主要な知識エリアに分けられています。

  • ビジネスアナリシス計画とモニタリング
  • 引き出しとコラボレーション
  • 要求のライフサイクル・マネジメント
  • 戦略アナリシス
  • 要求アナリシスとデザイン定義
  • ソリューション評価
基礎コンピテンシー (Underlying Competencies)
  • 優れたビジネスアナリストに求められる個人的なスキル(分析思考、コミュニケーション能力、人間関係のスキルなど)が定義されています。
テクニック (Techniques)
  • ビジネスアナリシスの各タスクで使える具体的な手法も紹介されており、実践的なアプローチを学ぶことができます。

※上記はバージョン3における内容のため、今後アップデートされる可能があります。

「PMI ビジネスアナリシス・ガイド」

PMI(Project Management Institute)は、プロジェクト管理の分野で世界的に権威のある団体です。PMIが発行する「PMI ビジネスアナリシス・ガイド」は、「プロジェクト管理知識体系ガイド(PMBOK® Guide)」と連携している点が特徴です。

PMI ビジネスアナリシス・ガイドの構成

  • パート1 PMI ビジネスアナリシス・ガイド
  • パート2 ビジネスアナリシス標準
  • パート3 付属文書、用語集、索引

パート2は「立上げプロセス群」「計画」「実行」「監視・コントロール」「リリース」といった、PMBOK第6版の内容に近い構成になっています。

サイト制作における「ビジネスアナリシス」の活用

それでは、ビジネスアナリシスがサイト制作においてどのように活用されるのかを具体的に見ていきましょう。

本来サイト制作はニーズによってコーポレートサイトや採用サイト、ECなどと種別されますが、ここでは特定のニーズや課題は設定せず、活用方法のイメージを掴んでいただくことを目的とします。

BABOK®の知識エリアに沿って紹介していきます。

1. ビジネスアナリシス計画とモニタリング

「効果的な戦術、施策を導きだすための進め方を考える」

課題の特定や施策の検討にあたり、どのような手法で情報を集めるか、誰と協力して進めるか、施策の成功をどう判断するかといったビジネスアナリシスの計画を立てます。

サイト制作での活用方法

  • 情報収集方法の決定
    ターゲット層のニーズを深く探るために「既存顧客へのインタビュー」を実施するのか、それとも「市場調査データ」を分析するのか、最も適した手法を選定します。
  • 評価指標の設定
    サイトの成功を判断するための具体的な指標(KPI)を決めます。「毎月の問い合わせ件数を30%増加させる」「採用ページからの応募数を2倍にする」といった、ビジネス目標に直結する数値を設定します。
  • 関わる人とのコミュニケーション計画
    経営陣には定期的に進捗を報告する、現場の担当者とは定期的な意見交換の場を設けるといった、関係者間のコミュニケーションの進め方を設計します。

2. 戦略アナリシス

「なぜ、今、このサイトを作る必要があるのか?」

プロジェクトが始まる前に、まずビジネスの現状と将来の目標を分析します。市場での自社の立ち位置や競合他社との違い、顧客が本当に求めているものは何かといったことを明確にします。

サイト制作での活用方法

  • 現状の課題特定
    「当社のサービスは素晴らしいが、認知度が低い」「他社のWebサイトに比べて、情報が古く信頼感が薄い」といった課題を洗い出します。
  • 目指すべき姿の定義
    「3年後には業界トップの信頼性を確立する」「新規顧客の獲得数を2倍にする」といったビジネス目標を明確にします。
  • 解決策の方向性
    「認知度を上げるには、SNSと連携したブログを始めるのが有効ではないか」「信頼感の向上には、企業理念や社員の声を伝えるコンテンツが重要ではないか」といった、サイト制作が課題解決にどう貢献するか仮説を立てます。

この時点でサイト制作が有効な施策ではない、あるいは他に優先すべき施策があると判断されれば、別の施策を検討したり、他の施策との組み合わせを考えたりします。

3. 引き出しとコラボレーション

「多様な視点から、サイト制作に必要なアイデアと情報を引き出す」

経営層、営業、人事、現場の担当者、そして実際にサイトを使う顧客など、さまざまな立場の人々と対話します。彼らの「言葉にならない本音」や「隠れたニーズ」を深く掘り下げ、本当に価値のあるアイデアを発見します。

サイト制作での活用方法

  • ペルソナの深掘り
    「ターゲット顧客はどのような悩みを抱えているか?」「どのような情報があれば、私たちのサービスに興味を持つか?」といった問いを通じて、顧客の感情や行動を深く理解します。
  • ステークホルダーへのヒアリング
    部署ごとに抱える課題(例:営業資料を探すのに時間がかかる、採用応募が少ないなど)を聞き出し、サイトで解決すべき具体的な課題を特定します。
  • アイデアのブレインストーミング
    部署横断で集まり、「もし理想のサイトを作れるとしたら?」というテーマで、自由な発想でアイデアを出し合います。

4. 要求アナリシスとデザイン定義

「集まったアイデアを、具体的なサイトの「設計図」に落とし込み、見た目と使い勝手を決める」

引き出した多様な情報やアイデアを整理し、ユーザーにとって本当に必要な機能やコンテンツは何か、どうすれば使いやすいかなどを具体的に定義します。この段階で、サイトの全体像や骨格が形作られるだけでなく、サイトの雰囲気(トーン&マナー)や、ユーザーが触れるインターフェース(UI)の方向性も決定します。

サイト制作での活用方法

  • ユーザーフローの作成
    「サイト訪問者が、問い合わせをするまでにどのような道のりをたどるか」を一本の線で書き出し、プロセスに無駄がないかを検証します。
  • 情報アーキテクチャの構築
    どのような情報を、どのページに、どう配置すればユーザーが迷わずに済むかを考え、サイト全体の構造(サイトマップ)を設計します。
  • コンテンツ戦略の策定
    「会社の信頼性を高めるために、社長インタビューの動画コンテンツを制作する」「サービスへの理解を深めるために、導入事例を豊富に掲載する」といった、掲載するコンテンツの方向性を具体化します。
  • デザインの方向性の決定
    • トンマナ(トーン&マナー)の決定
      「プロフェッショナルで信頼感のあるサイト」にするのか、「親しみやすく、活気のあるサイト」にするのかなど、サイト全体の雰囲気を言語化します。競合サイトや参考サイトを分析し、目指すべきイメージを共有します。
    • UI(ユーザーインターフェース)の方向性
      「問い合わせフォームは、入力項目を減らして手軽さを重視する」「製品一覧ページでは、大きな画像で直感的な操作を可能にする」など、ユーザーが実際に触れる部分の設計方針を固めます。
    • ワイヤーフレーム・プロトタイプの作成
      上記の方向性に基づき、ページの骨格(ワイヤーフレーム)や、実際に操作できるデモ(プロトタイプ)を作成し、関係者間で「このサイトは本当に使いやすいか?」を具体的に検証します。

5. 要求のライフサイクル・マネジメント

「決めたことを、常にビジネス目標と照らし合わせながら管理する」

プロジェクトが進むにつれて、新しいアイデアや要望が出てくることがあります。その際、安易に受け入れるのではなく、「この変更は、当初のビジネス目標に本当に貢献するのか?」を常に問いかけます。

サイト制作での活用方法

  • 変更要求の影響分析
    開発中に「新しい機能を追加したい」という要望が出た場合、「その機能は本当に必要か」「予算やスケジュールへの影響はどうか」を冷静に分析し、ビジネスにとって本当に価値のある判断を下します。
  • 要求の優先順位付け
    多くの要望がある中で、「最も重要なビジネス目標に貢献する要求」はどれかを明確にし、優先的に実装すべき機能を決定します。

6. ソリューション評価

「サイトが完成後、本当にビジネスに貢献できているか検証し、改善策を見つける」

サイトは公開して終わりではありません。設定した評価指標(KPI)を定期的にチェックし、サイトがビジネス目標を達成できているか、また、今後どうすればより良くなるかを考えます。

サイト制作での活用方法

  • 効果測定
    Google Analyticsなどのツールを使って「問い合わせ件数」「ページ滞在時間」「離脱率」といった数値を定期的にモニタリングします。
  • 顧客フィードバックの収集
    サイトの利用者から直接「どこが使いにくいか」「どのような情報が欲しいか」といった生の声を集めます。
  • 改善提案
    数値データや顧客の声をもとに、「フォームの入力項目を減らす」「製品の写真を増やす」といった具体的な改善施策を提案し、サイトを継続的に進化させます。

まとめ

ビジネスアナリシスという言葉を知らない、もしくは普段使わないという方でも、これまでのサイト制作において同じようなフローで対応した経験がある方も多いのではないでしょうか。施策の検討や要件定義にどこまで時間をかけるかといった視点もあり、これらの工程を部分的にお客様側で対応されるケースもあるかと思います。

ビジネスアナリシスは、施策を検討する段階から、決まった施策をさらに具体化していく段階まで、どのフェーズでも有効です。自身の経験として、お客様から「施策から考えてほしい」といったご要望をいただいた場合には、前述した1~4を実行し、制作が始まれば5を、公開後は6を実行します。たとえ、既に施策が明確に決まっている状況であったとしても、「本当にそれが最善の解決策か」といった視点で、他の可能性を検討するようにしています。

特にサイト制作では、制作中も公開後も、お客様のリソースを割いていただく必要があります。「そのリソースを確保できるのか」「現状では別の施策を行ったほうが、早く効果が期待できるのではないか」といった検証は、プロジェクトを成功させるうえで重要です。また、納期や予算の問題が発生した場合でも、目的から施策を再検証することで、解決策を探れるでしょう。

ビジネスアナリシスはプロジェクトマネジメントにおいても非常に重要で、予算超過やスケジュール超過、品質エラー、請負側の赤字案件や見積ミスといった事態を防ぐうえでも効果的です。最大の目的は施策の有効性の確度を高めることにありますが、プロジェクトの失敗は双方に深刻なダメージをもたらす場合があるため、ビジネスアナリシスとプロジェクトマネジメントの両立は必要不可欠と考えています。

もし施策の検討段階でつまずいていたり、アイデアの具体化が難しかったりといったお悩みがありましたら、ぜひ当社にご相談いただけると幸いです。

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