こんにちは。好きなビールはアメリカのミラービール、タイのシンハービールのWebエディター・宮川です。
みなさん、ビールは好きですか? 私はもちろん大好きです! 今回はビール業界で生き残るのは難しいとされてきたクラフトビールを若者層に定着させ、市場に新たなブームを生んだ「ヤッホーブルーイング」のブランド戦略とPR事例を紹介します。ユニークなネーミングのビールをヒットさせ話題となり、低迷するビール業界の中でも存在感のあるヤッホーブルーイング。マーケティング戦略を駆使したPRの成功事例から、ブランディングの重要性と熱狂的なファンを惹きつける魅力について紹介します。
今回の記事は、下記のようなお悩みを持つ方に読んでいただきたい内容です。
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業界規模2兆3002億円(業界動向サーチ調べ)という日本のビール業界は、アサヒ、サントリー、サッポロ、キリンの大手4メーカーがほぼすべてのシェアを占めています。ビール消費量は、1990年代半ばをピークに横ばい状態となり、2000年代に入るとビールより価格が安い「発泡酒」の登場で縮小傾向に。ビールの出荷量は13年連続で減少するなど、「日本人のビール離れ」が止まらないというのが現状です。
高齢化と若い世代のアルコール離れといった要因のほか、コスト上昇などを理由に各社が一斉に発表した業務用ビールの値上げなども含め、ますますビール離れが進むのでは?と懸念されています。
商品展開や販売戦略の見直し、業界再編をよぎなくされている日本のビール業界。グローバル化が必要という声も挙がっていますが、世界市場における日本のビールメーカーのシェアはごくわずか。M&A事業も波に乗らない状況が続き、光が見えない様子です。酒税法の改正も大きな影響を受ける中、ビールメーカー各社はビール事業の強化を模索していました。
そうした状況下で2014年、キリンは「よなよなエール」を主力商品に持つヤッホーブルーイングに出資し、業務提携契約を締結。2016年からビール市場を切り拓くカギとして「クラフトビール戦略」を大々的に掲げました。
欧米国を中心に人気が高まっているクラフトビールが、日本でもにぎわいを見せてきたのがここ数年。小規模な醸造所でつくられる多様で個性的なビールは、これまでの大手メーカーが販売していたビールにはない豊富なラインナップと、経験したことのない際立った味わいが魅力的です。一部の愛好家だけでなく、大勢のビールファンに広く浸透し、第3次クラフトビールブームが巻き起こりました。そのきっかけをつくったと言われるのがヤッホーブルーイングです。
1996年に創業した同社は、軽井沢からその歴史をスタート。90年代後半には全国のご当地で飲める少量生産の「地ビール」ブームが起き、主力商品である「よなよなエール」もその波に乗って勢いを増しました。しかし、2000年頃に急激に売上が下がり始め、8期連続の赤字に。しかし、ECサイトでの地道な販売とファンを大切にするマーケティング戦略が実り、楽天市場の約4万店舗から選ばれる「ショップ・オブ・ザ・イヤー」を10年連続受賞。2008年から売上を伸ばし、11年連続増収増益を達成しました。
http://www.itmedia.co.jp/business/articles/1605/26/news018_5.html
この快進撃の裏には、同社の商品開発を軸にした「ブランディング」と企業とファンがリアルにつながる「イベントコンテンツの成功」があります。大手ビールメーカーでは成し遂げられなかった輝かしい実績の秘密はどこにあるのでしょうか?
ヤッホーブルーイングのPR事例から学べることは、「ポジショニング」と「マーケティング」からなるユニークなブランド戦略です。クチコミで広がる話題性のある「ビールづくり」、ファンがファンを呼ぶ「リアルイベント」、社員満足度を高める「自由な社風」という3つのポイントを紹介します。
「よなよなエール」「水曜日のネコ」「インドの青鬼」など同社が生み出す個性的なビールは、一見ビールらしからぬ風変わりなネーミングであふれています。このネーミングこそ、攻めの姿勢を貫く同社の企業ブランディングを表しています。
小さなビールメーカーが出す商品だから、ありきたりな名前では大手メーカーに埋もれてしまう――そう考えた創業者の星野佳路さんは、当時開発したビールに「いままでにないエールビールをよなよな(毎晩毎晩)飲んでほしい」という想いを込め、よなよなエールと名づけました。自社ブランドの代名詞ともいえるビールの誕生です。事業を引き継いだ現社長の井出直行さんは「ヤッホーブルーイングらしいネーミングの法則」を確立させ、商品を次々にヒットさせました。
ヤッホーブルーイングのネーミングの法則とは、「他社では考えつかないもの」「相反する言葉の組み合わせでインパクトが強いもの」を商品名にすることです。同社のビールを100人が見たときに、1人でも「おもしろい名前だな。どんな味なんだろう」と買ってもらうことこそ、同社の狙い。「ヤッホーブルーイングのビールを誰に届けたいか」「どんな人に飲んでもらいたいか」というプロダクトブランディングを意識した製品開発が、他社製品との差別化を可能にし、価格面だけの市場競争から抜け出ることに成功しました。
ホワイトエールという小麦を原料とした「水曜日のネコ」もその法則と綿密なマーケティングによって生まれた人気商品のひとつ。お酒が大好きな働く女性をペルソナにしたビールのコンセプトは“リラックスしながら自分へのごほうびとして飲んでほしい”というもの。
をリサーチしたところ、“週のまんなか水曜日”と “癒される動物のネコ”にたどりつき、このネーミングに至ったという経緯があります。
ビールを飲まない層を取り込むという徹底したマーケティングで、大手が見落としていたユーザーを囲い込むことに成功しました。
https://www.instagram.com/p/BrXVE_-FtQl/
このように、固定概念に捉われない発想から生まれる企画力と徹底されたマーケティングによる商品開発が同社の強みであり、企業ブランディングの真髄です。「このビール会社はなんだかおもしろい商品ばかり売っているな」という、他ブランドと異なるポジションを築くことで付加価値を生みました。思わず手にとってしまいたくなる個性的なネーミングと品質の高さが好評で、着実にファンを増やし続けていったのです。
ヤッホーブルーイングでは、「100人中、たった1人が熱狂的に同社のビールを好きであればいい」というスモールマスを狙ったブランド戦略を打ち出しています。その熱狂的ファンを着実に増やしていったのが同社主催による「大規模イベント」です。
「超宴」は軽井沢のキャンプ場でビールを飲みつつファン交流ができるイベントで、予約困難なほどの人気です。よなよなエールのファンが楽しむのはもちろん、参加者が友人を呼ぶことでさらにファンが増えるのがこのイベントの最大の特徴です。社長や社員も参加して、ファンと一緒にブランドを盛り上げていく――このリアルな体験が仲間意識を強め、ブランドへの愛情を深めていくキラーコンテンツとなったのです。
大規模ビールイベントではドイツ発祥のオクトーバーフェストがありますが、熱気と連帯感は超宴のほうが圧倒的に上。熱狂的ファンづくりのためのスモールマス戦略で、確実にシェアを広げています。
ヤッホーブルーイングのV字回復の功労者は、社長の井出直行さんです。企業ブランディング成功の立役者といえます。くだらないけど面白いことをマジメに実践しているのが同社の企業風土で、社員をお互いニックネームで呼び合ったり、“早く帰れる夜をふやそう”を合言葉に定時退社協会という団体を立ち上げたりと、とにかく自由で枠に捉われない仕事の楽しみ方を追及しているのが特徴です。
「楽しく幸せに働いてほしい」という井出社長の想いによる同社のブランディングは、1人でも多くのビールファンにヤッホーブルーイングのクラフトビールを届け、一緒にハッピーになろうという経営理念が根底にあります。
大手ビールメーカーとの圧倒的差別化を実現する商品開発やイベントの成功は、社長の井出さんも含めスタッフ全員が“仕事を楽しもうという姿勢”や“チームビルディングによる結束力”に裏づけされています。ビールをつくる人たちの顔が見えるユニークなプロモーションがファンの心を打ち、ファンを巻き込みながら、ブランドを盛り上げているのです。
いまでこそ全国のコンビニや百貨店で販売され、繁華街に専門の飲食店が立ち並ぶほどに認知度を高めたクラフトビールですが、もとはスモールマスの商品です。このスモールマス戦略のトレンドは、SNSを活用する若年層を軸に化粧品やメンズコスメ、生活用品、アウトドアアイテムなどジャンルは多岐に渡ります。
日本のクラフトビールの質が向上し、全国にビアパブやビアイベントが増えて盛り上がったという背景はありますが、一過性のブームで終わることなく着実にファンを増やし続けているのが「ヤッホーブルーイング」です。ビール市場のなかで抜きん出た存在感を放つのは、ほかでは味わえないブランド体験を発信し、ファンと一緒に盛り上げていく同社の企業ブランディングがなせるワザだと言えます。
「どのようなPR戦略やブランド戦略を打ち出せばいいか分からない」「企業ブランディングを始めて、中長期的な経営戦略を考えたい」という経営者や広報担当者の方は、魅力的なコンテンツを発信し、この先100年ファンに愛されていく会社に必要なブランディングに注目してみてはいかがでしょうか?
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