Interview
# 8
世界へボカン株式会社
代表取締役
徳田 祐希(とくだ・ゆうき)
コンテンツプロデュースカンパニーを標榜する株式会社ファングリーの松岡でございます。
「コンテンツ界隈ここだけ話」、第8話では英語サイトのSEOに精通し、「越境EC」や「海外Webマーケティング」といったホットな領域を主戦場としている世界へボカン株式会社の代表・徳田祐希さんをゲストにお招きしました。
日本の国内需要の停滞により海外展開を検討する企業が増える中、支援に携わる“海外マーケの仕掛け人”は、自社でどのようなマーケティング活動やブランディング活動を行っているのでしょうか。気になる「世界へボカン」というユニークな社名についても伺ってみました。
世界へボカン株式会社
代表取締役
徳田 祐希(とくだ・ゆうき)
1986年、神奈川県生まれ。イギリスへの留学を経て、海外Webマーケティングを行う企業に入社。取締役への就任を経て28歳で独立し、世界へボカン株式会社を設立した。特に英語サイトのSEOに精通しており、アフリカ向け中古車輸出事業の売上を30億円から1400億円に導くなど、海外Webコンサルティングや越境ECプロジェクトを通してさまざまな実績を残している。2022年4月に著書『はじめての越境EC・海外Webマーケティング』を上梓。
──「越境EC」や「海外Webマーケティング」は今日のコンテンツ界隈で注目度の高いキーワードです。徳田さんはそこで10年以上勝負してきたということで、お話が聞けるのを楽しみにしていました。本日はお時間をいただきありがとうございます。
こちらこそ、こういった機会をいただけて嬉しいです。よろしくお願いします。
──では早速なのですが、簡単に徳田さんの自己紹介をお願いします。「世界へボカン」を設立した経緯や、どんな事業展開をされているのかについてもお聞きしたいです。
「世界へボカン」は2014年設立の会社で、今年で11期目を迎えました。僕自身は独立以前から海外Webマーケティングに携わってきたので、この業界に入って17年くらいになりますね。前職で海外マーケティング事業部を立ち上げ、その事業部をMBO(経営陣や従業員が自社の株式や事業部門を買収して独立すること)によって取得してできたのが今の会社です。
──なるほど、MBOだったんですね。海外マーケティングに関わろうと思ったのはどんな理由からですか?
大きかったのはイギリス留学時の経験です。当時、日本には素晴らしいサービスや製品がたくさんあるのに、言語やマーケティングが障壁となってその魅力を世界に届けられず、衰退してしまった企業や産業がたくさんあると感じていました。父の会社がまさにそういった衰退産業の中にいたんですよね。結局父の会社は倒産してしまい、力になることはできませんでしたが……。
──日本に帰ったら、そのような企業や産業をマーケティングで応援する仕事をやりたいと。
おっしゃる通りです。帰国後は縁あって前職の会社に出会い、そこでインターンをすることになりました。以降、ずっと海外Webマーケティングに携わっています。最初から戦略的に何か考えてこの道を選んだというよりは、そういった原体験みたいなところがきっかけとしてはすごく強かったですね。
──携わっている海外Webマーケティングは、アウトバウンド(海外での事業展開)の支援がメインでしょうか?
基本的にはそうですね。ECサイトや製造業の海外マーケティングを中心に支援しています。日本における国内需要の停滞を敏感に感じ取り、「海外に挑戦しないとまずい」と危機感を募らせている会社も多いように見えますね。
──近年は特に国内マーケットがかなり頭打ちになってきて、大手企業を中心に事業のアウトバウンドに踏み切るケースが増えてきている印象です。
ここ5年ぐらいでは、年商数億から1億未満でも海外に挑戦する企業が増えています。これが何を意味しているかというと、海外展開にかかるコストが低下しているということ、そして商品の特性によっては大企業でなくても海外で「勝てる状態」を作れるということです。
──企業が海外展開を考える場合の動機としては、どんなケースが多いのでしょうか?
海外展開には大きく2種類あって、1つ目はすでに特定の製品に対するニーズがあるところに進出するパターンです。アフリカで中古車を販売する事業などはまさにそれですね。そして2つ目が、「困りごとはあるがそれを解決する手段がない」というところに、それを解消するための技術やアイデアを持って進出するパターン。言い換えれば前者が「プロダクトアウト」、後者が「マーケットイン」の考え方です。
──ASEANなどで内需を取りに行くとなると、費用感が合わないのでは?
先進国に比べてユーザーが手を出す価格帯が安過ぎる、というのはありますね。ただ、独自ドメインのECサイトでメーカーが商品を出していくようなケースでは、必ずしも「高過ぎるのでアウト」とはなりません。首都や大都市に住む可処分所得の高い方が買ってくださるからです。岡山がデニムの街として有名なのは、ご存知ですか?
──確か、倉敷市が国産ジーンズ発祥の地なんですよね?「デニムストリート」があることは知っています。
そうです。私も岡山のデニムメーカーさんの海外マーケティング支援をやっているのですが、インドネシアやイスラエルなどいろんな国の方が買ってくれるんですよ。岡山のデニムなどは、地域を問わず、興味関心軸で全世界のユーザーが買ってくれる商品の代表例だと思います。
──なるほど。越境ECといっても販売する商品の選択は大事なポイントですね。
相性がいい商品とそうでない商品があります(笑)。プロダクトの人気がそもそもないとか、文化的・宗教的な理由でニーズがないとか。海外展開する際は、そのあたりのリサーチが非常に重要です。
──相性が悪い商品をECで売りたいという相談もあるのでは?
そっちのほうが多いですね。検索ニーズがないものに関しては海外で探している人もいない(少ない)ので、それを理由にお断りすることもあります。営業が「行ける!」と思ったら受注できてしまうケースもありますが、勝つ見込みがないならそもそも受けないほうがお客様に対して誠実ですよね。予算も高くなりますし。なので、僕たちは勝てないならその事実や理由をしっかり伝えるようにしています。
──ちなみに、初期的にはどんな相談が多いのでしょうか?
悩みとして一番多いのは、「越境ECサイトを立ち上げたけどうまくいっていない」というパターンですね。僕たちは、そんな越境ECや海外マーケティングで困ったお客様の「駆け込み寺」でありたいと考えています。「何をしたらいいかわからん!」とお手上げのお客様に代わって現状を調査し、戦略を立て、何をどう直せばいいのかを考えます。コンテンツを作ったり、CRMを導入したりもしますね。グロースのフェーズでは、広告を使って売上を伸ばしていくことを得意としています。
──コンテンツというお話が出ましたが、具体的にはどんなコンテンツを作っているのですか?
広島に熊野筆という特産品があるんですけど、それを化粧筆として販売するECサイトで「お肌の悩み別、化粧筆の選び方」みたいなコンテンツを作りました。選び方や品質基準などを解説し、海外のお客様に判断軸を与えるような記事です。当社には日本人、アメリカ人、オーストラリア人、マレーシア人、中国人などさまざまな国籍の社員がいるので、ローカライズや翻訳に関しても現地のお客様に伝わるトンマナで発信しています。
──そのような多国籍な制作体制はどうやって作ったのですか?
私はYouTubeで情報発信をしていて、その動画を見て応募してくださったり、一緒に仕事したいと言ってくだったりする方も多いんですよね。その中で、お客様に対する考えやスタンスが合致する方と一緒にやらせていただいています。
──海外にもスタッフが?
はい。アメリカなど海外各所にいるスタッフでネットワークを構築しています。そこでニーズを調査したり、リアルな現地の声を収集したりしていますね。
──自社のブランディング活動について教えていただきたいのですが、その前に「世界へボカン」という社名の由来を知りたいです!
社名については、割とインパクトがあるなと思っています(笑)。
──確実に一回で覚えてもらえそうですよね。
もともと、前職の会社で立ち上げたサービスサイトの名前が「世界ヘボカン」だったんですよ。MBOを実行するタイミングで「社名どうしよう」という話を立ち上げメンバーにしたら、「『世界ヘボカン』という社名なら海外に特化していることが分かるし、退路を断つっていう意味でもすごくいいんじゃないの?」という話になって。「だったら自分もライフワークとしてやっていこう」という決意や覚悟も含めて、そのまま社名にすることにしました。
──社名だけ聞くとちょっと別の意図をイメージしてしまうかもしれません。徳田さんの人柄と「ボカン」のネーミングにもかなりギャップがありますね。
会社やスタッフはそれなりにちゃんとしているので、お客様には安心していただきたいです(笑)。お客様や仕事に対してプロとして誠実に向き合っていることを理解してもらいたいという思いから、XやYouTubeなどのSNSで顔出しをしているというのもあります。
──YouTubeはかなり力を入れていますよね。
YouTubeはコロナ禍に突入した直後の2020年3月に始めたんですよ。年間100本の動画を撮っていて、コラボを含めるとこれまで450本ぐらいは出ていますね。紹介の種が増えていくのは、コラボ対談やメディア露出の良いところです。企画・制作は自分と動画編集者、文字起こし担当者(外部パートナー)の3人で回しています。
──先ほどさまざまな国籍の社員がいるとのお話がありましたが、インナーブランディングで意識されていることは?
当社には「日本の魅力を世界に届ける」というミッションがあり、それに共感してくれた人だけを採用しています。ビジョンとしては「世界で成功する企業1社でも多く増やす」を掲げていて、その取り組みがミッションにつながっているんだと多国籍メンバーには伝えています。
あとは、会社のバリューやボカンらしさを5つのポイント(ボカニズム5)で示し、それを体現しているメンバーを表彰する取り組みなどを行っています。「あなたのいいところ、ちゃんと見ているよ!」と伝えることで、意識や価値観の統一を図るイメージですね。
──ボカニズム5、いいですね(笑)。しっかり制度設計されているんですね。
そうですね。共感度の高いメンバーに入ってもらえさえすれば、後はなんとかなるようにしているつもりです。メンター制度もありますし、事業部がナレッジを共有してくれる仕組みも整っています。ナレッジは録画して社内で共有、NotePMはイントラネットのブログにアーカイブしていて1,200コンテンツくらいあります。
先ほどお話があったブランディングについては、インナーとアウターを分けて取り組んでいます。
──具体的に教えていただけますか?
インナーブランディングでいうと、上述の「ボカニズム5」を体現しているような行動、つまり「私たちらしさ」を発揮したメンバーを毎月表彰する(各メンバーが投票する)仕組みを採用しています。
アウターブランディングでは、「①動画や記事を通して情報を発信する」「②お会いしたり、ご相談に対応したりする中でより深く知っていただく」「③地方に赴き、セミナーや相談会などを開催する」という3つの取り組みを、4年ほど続けています。
──書籍の効果はいかがですか?
今から2年前に出した書籍『はじめての越境EC・海外Webマーケティング』は、ブランディングにかなり影響があると感じています。本を出してから、JETROや中小機構のアドバイザーとして講師をやる機会をいただきました。東京商工会議所や銀行などにも越境ECや海外Webマーケティングの講師として呼ばれるようになり、レイヤーが変わったと実感しました。コンテンツ戦略という点でも書籍の効果は大きいです。
──社長自身が広告塔を務めることのデメリットはありますか?支援会社だと、社長が全面に出るケースはそこまで多くない印象ですが。
デメリットがあるとすると、「すべての案件で徳田がコンサルしてくれる」と思って問い合わせしてくださる方が多いことくらいですかね。それ以外は特にありません。
むしろ信頼性・透明性が高まるので、メリットのほうが大きいと思います。YouTubeとXと書籍はマストでやったほうがいいと思うくらいです。
──そうなると、新規の商談はほとんどがプルですか?
紹介とプルでほぼ100%です。最も多いのはボカンのサイト経由ですが、僕のSNSから直接ご相談いただくパターンもあります。既存のお客様が満足してくだされば新規を取らなくてもいいので、今後の方針としては継続率が高いお客様、本気度が高いお客様へのアプローチが中心になると思います。
信頼してくれているお客様に全力で提案しているので、競合の存在をそこまで意識することもないですね。1社とできるだけ長く付き合うスタンスで、お客様とともに成長できればと考えています。
──今後の構想などはありますか?
まず、自社で越境ECを展開したいですね。あとは、うまくいきそうだなと感じたのが、地方の伝統工芸品や日本ならではの製品を製造している企業のM&Aです。「日本の魅力を世界に届ける」という点では、海外に価値をうまく伝えられればニーズに刺さるポテンシャルを持った企業をM&Aし、復活させる取り組みをぜひやらせていただきたいなと思っています。また、より生の声を拾えるという意味では海外支社を作るというのも近道かもしれません。
人口減少によって内需がシュリンクしていくトレンドの中、アウトバウンドのニーズは今後さらに高まっていくと考えられます。でも、「海外に向けて商品をどう売っていくか」というノウハウを持っている人や企業は多くありません。そこの「困った」に対して誠実に向き合い、価値を提供し続けられる企業でありたいですね。
──これから日本経済を大きく変えていくのは、徳田さんが持っているような海外マーケティングの知見やノウハウを持った人の行動力だと思います。本日はありがとうございました!
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