Interview
# 21
株式会社THA
代表取締役
西山 朝子(にしやま・あさこ)
コンテンツプロデュースカンパニーを標榜する株式会社ファングリー代表の松岡でございます。
「コンテンツ界隈ここだけの話」、第21話のゲストは、社長と従業員の距離を近づけ、会社の理念浸透と従業員の自走を支援する最先端AIサービス「AI社長」を開発した株式会社THA代表・西山朝子さんです。
時間がなくて困っている中小企業社長の助けになりたい――そんな想いから誕生したという「AI社長」。マーケティング畑出身の西山さんに、スタートから効率的に集客を成功させた方法、カスタマーサクセスの秘訣、そして“AI時代の生存戦略”についてお話を伺いました。
株式会社THA
代表取締役
西山 朝子(にしやま・あさこ)
福岡市出身。中央大学経済学部卒業後は株式会社マイナビに新卒で入社し、マーケティング部門に従事する。2019年にDeNAへ転職。副業として複数の中小企業のマーケティング支援を行う中で誕生した「AI社長」をメインサービスとして、2023年5月に株式会社THAの代表取締役へ就任。2024年3月にAI社長を正式リリース。2年ほどDeNAでの業務を兼任した後、2025年1月に完全独立した。
──AIというと、業務効率化や生産性向上といった文脈で活用されることが多いですが、「AI社長」は会社の理念を浸透させ、自走する組織化を支援するためのサービスだとお聞きしました。まずその発想が面白いですね。
ありがとうございます。そういっていただけて嬉しいです(笑)。
──どうしてそういう考えに至ったのかは後ほどお聞きするとして、まずは西山さんのキャリアや創業の経緯を教えていただけますか?
もともとは新卒入社で2015年から4年ほど、「マイナビバイト」にマーケティング担当として従事しました。業務内容は、ユーザー(アルバイター)向けの広告をSNSで発信したり、リスティング広告を運用したりとかですね。そこで「インターネットを使ったマーケティングって面白い!」と思うようになり、DeNAに転職。DeNAでは主にAIを使ったマーケティングを行っていました。
DeNAって、副業が自由なんです。なので、私は飲み会で知り合った社長が経営する中小企業のマーケ支援をしていました。そこで多くの社長様から「自分が5人いたらいいのに」といった声をよく聞きまして。皆さん、本当にお忙しいんですよね。その言葉がきっかけで「AIなら『社長の分身』を作れるんじゃないか?」って発想が生まれて、それが「AI社長」のアイデアになりました。
──「AI社長」は副業から生まれたサービスだったんですね。現在は株式会社THAの代表を務めていますが、「副業」が「本業」になったのはいつですか?
代表に就任したのは2023年5月です。ちょうど廃業する会社さんがあったので、そこを引き継ぐ形で事業を立ち上げました。とはいえ、今年(2025年)の1月まではDeNAの社員としても働いていたので、「副業」から「複業」になったという感じですけど。DeNAにはとてもお世話になっていて、現在も出資や支援などをしていただいています。
──なるほど。社名のTHAは、引き継いだ会社の名称のままですか?
はい、正式にどういう意味なのかは分かっていません(笑)。スタッフは「T(とっても)H(ハッピーな)A (あさこ=社長名)」だろうと言ってくれていますが!
──代表が自社の社名の由来を知らないというのは斬新ですね(笑)。では、御社のビジョンについて教えていただけますか?
「AI社長」というサービスは、中小企業を経営する社長の手助けになりたいという想いから生まれたものです。そのため、「日本を支える勇者たちに最強の強化魔法を」というビジョンにしました。
──社長の「頭」と「心」をインプットしたオリジナルAIが、「最強の強化魔法」にあたるわけですね。
はい。何もないところから「その企業にとっての正解」をすぐに導き出してくれるものなので、そのように表現しました。
重要なのはただAIを提供するのではなく、中小企業の組織運営にAIを直接組み込んで強化していく点です。それぞれの社長が持っている想い、知識、キャラクター、そして各社の社風や内部情報を入れ込み、その会社で愛される(=しっかり使ってもらえる)オリジナルAIを1社1社作り上げる。これが「AI社長」の肝ですね。
──具体的なマーケティング戦略についてお聞きしたいのですが、どのように顧客を増やしていったのですか?
「AI社長」のマーケティングにおけるポイントは、第一に既存のお客様に対してしっかり価値を提供し、新たに別のお客様を紹介していただくこと。これに尽きると思います。
──集客の経路としては紹介がメインなんですね。泥くさい部分を含め、カスタマーサクセスをひたむきに追求している結果、紹介を獲得できていると。
そうです。当社は集客対策としての新規営業をほぼやっていないんですよ。ご紹介か、問い合わせをいただくかの二択です。
──集客のための活動は、カスタマーサクセスだけですか?
導入いただいたお客様の事例は、コンテンツ化してプレスリリースで配信しています。
──導入事例をプレスリリースで配信していくというのは、顧客側の視点から見てもいいですよね。どのような事例からの問い合わせが多いのでしょうか?
「AI社長」は地域に根差した企業に多く導入していただいています。地元で愛されているお客様のニュースは拡散されやすく、地域のメディアにも取り上げてもらいやすいんです。
──なぜそういう理想的な状態を作れたのでしょうか?
お客様が「紹介したい」と思ってくれるようなアウトプットにこだわっているのが一番大きいでしょうか。それこそ、地域の話題作りとか。近年は「AI」というワード自体がそもそもホットなテーマなので、自然と注目されます。その中で良いトピックを作ればお客様との関係値を深められ、さらにうまくいけばご紹介もいただけるという流れです。
それと、お客様との接し方も徹底的に研究しています。例えば、当社では「クライアント」という言葉を禁止し「お客様」呼びで統一しています。言葉遣いを通して、敬意、感謝が文化として根付くと、行動に表れてくるんですよ。
──お客様とのコミュニケーションにおいては、具体的に何を重視していますか?
まず、地方であってもお客様には必ず会いに行きます。人間関係をしっかりと構築し、信頼関係を強化することを大切にしています。
──お客様との距離感もすごく近そうです。
それはありますね。「AI社長」は初期と運用にかかる費用をそれぞれいただく契約になっていますが、AIはどんどん学習し進化していくので完成することがありません。つまり、長期的にお付き合いが続く。だからこそ相談などは多くなりますし、深い関係を構築しやすいのかなと思います。
──話は戻りますが、社長の頭と心をAIに取り込み、それを具体化するのってすごく難しい気がします。
「頭」の中、つまり製品やサービスの知識に関しては営業資料や商品マニュアルなどを情報源とします。「心」については、会社の理念や社長が大切にしていることを細かくヒアリングし、AIで再現できるように言語化や構築をしています。時間をかけて取材し、会社にとって重要なキーワードを抽出していく感じですね。
アウトプットとしては、「AI社長」を従業員の皆さんが使っているチャットツールなどに組み込んで提供します。会社のことを何でも知っている「AI社長」にチャットで相談できるようにし、人材育成や業務効率化などに使っていただくんです。
──なるほど。通常の生成AIとは異なり、ちゃんと企業ごとにカスタマイズされた回答が出てくると。
例えば、私が通常の生成AIに「会社の売上を100倍にしたいんだけどどうしたらいい?」と相談すると、「グローバル展開しましょう」みたいな答えが返ってきたりします。でも同じ質問を私の「AI社長」に聞くと、「中小企業のより大きな課題を解決できるAIサービスで解決しましょう」といったアドバイスが返ってくる。
その会社に合った回答ができる「AI社長」を作り上げるために、その会社のカラーやビジョンを情報としてしっかり組み込むことを大切にしています。
──GAFAMをはじめとする代表的なプラットフォーマーが、その他のサービスやプロダクトを飲み込んでいく未来も考えられます。この点についてはどうお考えですか?
例えば、「『AI社長』でできることが全部Googleでできるようになるんじゃないか」といった意味ですかね?
──はい、そうです。
まず、Googleがどれほど便利になっても会社ごとにカスタムはしてくれないと思います。特に中小企業だと自社で勉強するのもリソース的に難しいですし、地方だとIT専門家人材も少ない。私たちは、そこを請け負う存在でありたいと思っています。
私たちは「AI社長」を導入してくださるお客様に研修や伴走の支援も行っています。プロダクトを提供し、人材の育成までやる――これはGAFAMではできない動きかなと。AIは今後どんどんAPI開放されていき、企業の導入ハードルは低くなっていくでしょう。その一方、中小企業では知識や技術で追い付かない部分もあると思うので、そこに寄り添える存在は必要です。
──自社のPRやコンテンツ制作などは西山さんがすべてやっているのでしょうか?
当社のコンテンツマーケティングは、LPもFacebookの投稿も採用noteの記事も全部私の「AI社長」が作ってくれています。何なら、マーケティング戦略や社内勉強会の企画も「AI社長」を頼っています。社長の私が一番「AI社長」を使っているかもしれません(笑)。
──でもそれがお客様に対する一番説得力のある事例になりそうですね。
「こんな子を採用するにはどうしたら良い?」といった質問に対する適切な回答は、カスタムされていない一般的な生成AIではなかなか出てこないでしょうからね。
──AI関連の類似サービスがどんどん作られていく中で、「AI社長」というオリジナルブランドがうまくいっている理由って何なのでしょう?
「AI社長」というプロダクトを真似すること自体がそもそも難しいと思います。というのも、お客様のこともAIのこともすごく好きじゃないとできませんからね。私たちが自負しているのは、開発後も運用後もお客様への「愛の総量」がものすごいところなので(笑)。
──「愛の総量」を再現するのは難しそうですが、チームビルディングはどうされているのでしょうか?
社内のチームビルディングは、主に飲み会です!ちなみに昨日(取材日の前日)、飲み仲間だった48歳の男性が入社しました(笑)。とにかくプライベートでも一緒にいたいような、仲の良いチーム作りを心がけています。
──会社としての次のステップや課題について教えてください。
課題は、組織をどこまで大きくしていくかですね。将来的にはお客様に私が一度も会わないといったこともあり得ると思うので、誰が対応しても会社として全部同じクオリティを出せるようにしたいと思っています。
──5年後、10年後の会社の展望があれば伺えますか?
まずは、正社員100人の規模になっても今のチームと同じことができるようにしたい。そしてその状態が保てれば、売上50~100億円も目指せると思っています。最終的には上場させたいですね。
──「AI社長」は西山さんのマーケティングに明るいデジタルな部分と、実直さ、ひたむきさ、泥くささといったアナログな部分が融合したプロダクトなんですね。今後のさらなる進化が楽しみです。本日はありがとうございました!
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