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Interview

# 41

PR活動は何もしない。「作業服のワークマン」が新業態で成功した理由|質の高いUGCのためにこだわる発信者との“いい関係”

株式会社 ワークマン

CMO

林 知幸(はやし・ともゆき)

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コンテンツプロデュースカンパニーとして、企業のコンテンツマーケティングやブランディング活動を伴走支援する株式会社ファングリーの代表・松岡でございます。

「コンテンツ界隈ここだけの話」第41話のゲストは、株式会社ワークマンで今年の4月からCMOに就任した林知幸さん。作業服や建設作業・工場作業関連用品の専門店として地位を築いていたワークマンの客層を一般ファッション層へと拡大し、新たなブランドを確立したキーマンです。

「職人向けの専門店」がいかにしてマーケットを拡大し、“作業をしない一般消費者”の認知や評判を獲得したのか――。その変化を主導してきた林さんに、ワークマンのマーケティング・ブランディング戦略の詳細や躍進の裏側についてお話を伺いました。

林 知幸(はやし・ともゆき)

株式会社 ワークマン

CMO

林 知幸(はやし・ともゆき)

1973年、岐阜県生まれ。1996年の入社よりワークマン一筋で、スーパーバイズ部や開発部を経て、2020年4月から営業企画部および広報部の部長に就任。2026年4月から現職。2018年に「WORKMAN Plus」、2020年に「#ワークマン女子」を立ち上げたほか、大雨・暴風・雪といった荒天環境を再現したランウェイで自社の高機能ウェアを実演する「過酷ファッションショー」の企画・演出も担当している。

「マーケットの天井」を見据えて向き合った最重要経営テーマ


――本日は新製品発表イベント(※)の開催当日というお忙しい中、貴重なお時間をいただきありがとうございます。

※「ワークマン26年猛暑対策新製品発表会」が開催された4月15日に取材を実施

こちらこそ、取材していただきありがとうございます。ぜひぜひ、なんでも聞いてください!

――イベントには一般の方や見込み顧客である企業の方に加え、プレスもかなり入っていますね。スマホで動画を撮影しているクリエイターもたくさん見かけました。この方たちがワークマンのマーケティング戦略の基盤となっているアンバサダーでしょうか?

今日の発表会では、ワークマンのイベントをコンテンツとしてSNSなどで紹介してくれるワークマン公式アンバサダーの方が30名ほど、そして多方面で活躍されているインフルエンサーの方が約250名も来てくださいました。ちなみに、今回来てくださったインフルエンサーはワークマンに関心のある方ばかりで、すべて無償です。

――アンバサダーについてはまた後ほど伺いたいと思います。まずは林さんのキャリアについてお聞かせください。林さんは広報畑やマーケティング畑の方なのかと思っていたのですが、プロパー社員なんですよね?

そうなんです。1996年に入社してからワークマン一筋です。他の会社をよく知らないのですが、ワークマンには新卒から社内で育ったプロパー社員が多いですね。そのため、いわゆるプロパーカルチャーと言いますか、長く働いてきたスタッフから受け継がれてきた社風や企業文化みたいなものが比較的色濃くあるように思います。

入社後は営業もやりましたし、店舗開発にも関わりました。ワークマンではフランチャイズの店舗が多く、加盟店の統括やスタッフの指導・教育などを行うスーパーバイザー職を担当していた時期もあります。広報・マーケティング戦略に関わるようになったのは、2017年2月からです。

――林さんの代表的なお仕事、そしてワークマンのブランド戦略におけるターニングポイントとしてよく取り上げられるのが、2018年の「WORKMAN Plus」立ち上げかと思います。私もちょうどその頃、たまたまショッピングモール内で店舗を見かけて「こんなところにワークマンがあるんだ」と思った記憶があります。

そうでしたか。実際、松岡さんのような方はかなり多いと思います。新業態立ち上げ以前のワークマンは顧客層の9割以上が男性、しかも工事現場などで作業に関わる方が来るようなお店だったので、ショッピングモールに店舗を構える理由がありませんでした。実際、ワークマンの店舗はほとんどがロードサイドですし。

――WORKMAN Plusに勝算や手応えはどのくらいあったのでしょうか?

正直に言って、こんなにヒットするとはまったく思いませんでした。ららぽーと立川立飛にある1号店がオープンするその日まで、どれくらいお客様が来るのか不安で仕方なかったですから。

オープン当日は、同じショッピングモール内で人気アニメのイベントが開催されることになっていて、開店を待つお客様が列を作っていたので「そっちのイベントに行くのかな」と思っていたら、なんとWORKMAN Plusに走っていくという(笑)。

――それだけWORKMAN Plusの立ち上げにインパクトがあったということですね。そもそも、なぜ新業態を立ち上げたのでしょうか?

営業企画として僕たちが新たなテーマに掲げたのが、「客層拡大」です。ご存知の通り、それまでのワークマンは作業をする方たちが必要なものを買うための店でした。しかし、少子化やAIの進化などさまざまな環境の変化によって市場はシュリンクしています。そうした状況を受け、ワークマンの業態を今後どうしていくかは当時最重要経営テーマとなっていました。

――なるほど。既存の作業服マーケットの「天井」が見えていたんですね。

はい。作業服を買わない層へリーチを広げることが求められました。その結果として誕生したのが「WORKMAN Plus」であり、2020年に立ち上げた女性・ファミリー層向けの新業態「#ワークマン女子」(※)です。これらが受けてターゲットが大幅に増えました。女性客の割合も大きく伸び、50代以上が多かった年齢層にも若返りが見られています。

※2025年より、ターゲットの変更や地方展開の強化を目的として「Workman Colors」へ順次リブランド中

すべてはファンの方々が魅力を発信してくれた結果

――新業態の立ち上げは、作業服販売の大手としてやってきたこれまでをある意味で否定する取り組みと言えるかもしれません。「変えていくことの難しさ」を感じる場面はなかったのでしょうか?

もちろんなくはなかったのですが、ウチの役員(専務)が露出をしていく方向性に理解のある方で。僕たちの企画やアイデアを汲んでくれて、現状を変えることに協力的なスタンスを取ってくれたんです。

――役員に支援者がいるのは大きいですね。林さんは、WORKMAN Plusの成功要因がどこにあると考えていますか?

アウトドア需要の増加、役員を巻き込むコミュニケーションなどいろいろありますが、一番は「リスクを取って実店舗を出したこと」だと思っています。実際、店舗を出してみないと分からないことはたくさんありますから。実は、WORKMAN Plusのオープン当初は新商品が一つもなく、ワークマンの既存製品の見せ方や並べ方、伝え方を変えただけでした。でも、それでも売れたんです。

店舗では、お客様のリアルな声を得ることができます。また、どんな人がどんな時間に来るのか、どんな商品が売れるのか、といったことも実体験としてインプットできるんです。こうした情報を「売れる戦略」につなげていけたのが大きかったのかなと。

――先ほど少し触れられたアウトドア需要も大きかったかもしれませんね。ワークマンのウェアは耐熱性や防水性への評価が高く、キャンプ用品として人気に火が付くなど、市場のほうがワークマンの「実利」を見つけ出したという構図が面白いです。

一番ヒットした製品の一つに、燃えにくい素材を使用した「難燃アウター」があります。キャンプで直火を使った調理や焚火などをした際に、火の粉が飛んできても火傷したり服に穴を開けたりしないで済むということで、多くの方に選ばれています。

それと、キャンプ関連ではないですが、「厨房シューズ」も機能性が評価されて認知が広がっていった製品の一つです。

――用途を限定していたのは企業側の思い込みであり、消費者はスペックだけを見て、自分たちの生活に最適化させていったと。

そうなんです。おっしゃる通り、厨房シューズは飲食店の厨房で使う用途で製品化しているのですが、軽量で履き心地が良く滑りにくいことから「妊婦さんの靴にいい」と評判になりました。また、レインシューズとして普段使いされている方もいるようです。

――広報活動として、そうした新しい視点や変わった使い方を紹介するようなPRはしているのでしょうか?

広報としてPRは特にしていません。すべてワークマン製品を好きなファンの方たちが自発的に製品の魅力を掘り下げ、発信してくれた結果です。それが口コミやSNSで広がり、いろんなメディアに取り上げられたりして認知拡大につながりました。

――企業が多額の予算を投じる広告よりも、利害関係のない第三者の「本音」のほうが、マーケットに対する浸透圧が高いということですよね。 

はい。そこに大きく貢献してくれているのがアンバサダーの方たちです。僕たちはワークマン製品が好きな方で、かつ継続してワークマン製品の魅力を発信してくれる方、あるいは特定の専門分野に精通していて製品開発に関わってくださる方などを「公式アンバサダー」として認定しています。

――ここがワークマンの強さですね。ワークマンが定義するアンバサダーは、 一般的なインフルエンサーと具体的にどう違うのですか?

一般的に、インフルエンサーは企業から報酬をもらってPRしているケースが多いかと思います。つまり、紹介している製品が好きかどうかは別。一方、ワークマンの公式アンバサダーはシンプルに「好きだから情報を発信している」という方ばかりで、PRの報酬はお支払いしていません。

好きだからこそ、使い続けているからこそ「この製品のここがおすすめ」「この製品をこんな用途で使ってみました」という着眼点が面白くなる。それゆえ、ユーザーにとっても価値のあるコンテンツになるのかなと思います。

――アンバサダーに「これは面白い、伝えなきゃいけない」というモチベーションを抱かせる仕掛けについて具体的に伺いたいです。

今日の発表会も、そのあたりを戦略的に考えつつ企画しました。アンバサダーからすると、「面白い体験」はコンテンツ化したくなりますよね?ハロゲンランプや遠赤外線ヒーターで気温45℃の過酷な環境を再現した耐熱ブースに入ってもらい、そこで新素材の断熱性能を体感してもらうイベントなどはその一例です。

また他にも、-25℃の冷凍庫体験ができるブースや豪雨体験ブース、寒暖差体験ブースなど、異常気象を没入体験できるさまざまなコーナーを用意しました。こうした「オフラインイベント×アンバサダー」のシナジーは、ECではできない仕掛けだと思っています。



WORKMAN Plusは直前まで違う名前にする予定だった

――WORKMAN Plusで、「客層拡大」に一つ成功しました。2020年に立ち上げた「#ワークマン女子」も同じ考え方ですか?

はい。WORKMAN Plusが一般顧客向けにはまり、これを女性向けに横展開しようとしたのが#ワークマン女子です。ファッショントレンドに影響を与えるのは女性なので、女性のマーケットをどうにか広げていけないかという狙いがありました。

――「#ワークマン女子」にはなぜハッシュタグ(#)が付いているのですか?

そもそも「#ワークマン女子」というネーミングは、僕たちが考えたわけではないんです。誰かがつけたのが始まりで、気が付いたら勝手にワードが独り歩きしていました。それはそれで面白いということで、ブランド名に据えたという背景があります。

――順調に規模を拡大していた「#ワークマン女子」を、なぜ「Workman Colors」にリブランドすることになったのでしょうか?

#ワークマン女子は、ワークマンが最も弱いとされていた女性客へのリーチとしては大成功を収めました。実際、#ワークマン女子の客層は8割が女性でしたから。しかしその反面、「男性客が入りづらい」という声も多くいただきました。そこで#ワークマン女子の商品構成を分析した結果、女性向け製品(デイリーユース)と男性向け製品(スポーツ・アウトドア)のテイストが合っていないことが分かって。そのため、男性向けを女性向けと同様のテイスト(デイリーユース)に合わせることが必要になりました。

また地方展開の強化を考えた時に、人口の少ないエリアだとターゲットが女性だけでは思うような集客が見込めません。そこで、地方でもトレンド性の高さをアピールしつつ、女性客を意識した目線は残しながらより男性客にも入っていただきやすい看板へと変更することにしました。

――WORKMAN PlusもWorkman Colorsも名前に「ワークマン」を冠しています。全く別のブランド名にすることもできたかと思いますが、このあたりはどう整理したのでしょうか?

WORKMAN Plusは、実はもともと違う名前にする予定だったんです。今おっしゃられたように、ワークマンという名前は入れないつもりでした。理由は、「作業着のワークマン」というイメージが新ブランドの邪魔になるのではないかと思ったから。その想定でポップやチラシなども作り始めていました。

ところが、ショッピングモールを所有・運営する企業の担当者の方とお話しした際に、「ワークマンの名前を出さないのって、もったいなくないですか?」と言われたんです。その時、「確かにそうかもしれない」と思いハッとしました。そこから180度方向性が変わり、プロジェクトメンバーで協議した末に名称をWORKMAN Plusとすることにしたんです。「WORKMAN=作業服」ではなく、「WORKMAN=高機能で低価格」という代名詞になっていることに僕たちは気づいていなかったのです。

――ポップやチラシを作り始めたタイミングでのブランド名変更は、相当リスクがありますよね。でも、それをやれるのがワークマン。

ちょっと修正するとかではなく、劇的に変えるのがワークマンらしいなと思います。その場の発想を重視し、機動力を活かして意思決定できるのは、「やりながらベストを考えていく」というアジャイル的思考が文化として染みついている当社ならではと言えるかもしれません。

――ワークマンはここまで、プロダクトの機能という圧倒的な専門性を活かしてきた印象です。しかし、マスへ寄れば寄るほどブランドの輪郭がボヤけていくリスクもはらんでいます。熱狂的な支持層を置き去りにしかねないという恐怖や、ブランドのアイデンティティが損なわれることへの葛藤はなかったのでしょうか?  

これまでは良くも悪くもアジャイル思考で、明確な戦略がそこまでありませんでした。ニッチなマーケットでは強すぎて競合がいなかったという状況もありますが、デイリーウェアや日用品の領域では完全に後発となるため、戦わなければならない競合が存在します。そのため現在は競合分析もしっかり行っていますし、意識してマーケティング施策を打っています。マスマーケティングの一環として、ここ5~6年はやっていなかったテレビCMも最近再びやり始めました。

ワークマンは「良いものを誰でも使える」という方向性を大事にしたいと考えています。もちろん機能性や専門性という強みは捨てていませんし、マス向けの認知拡大や事業拡大を目指していく戦略が、結果としてプロダクトをさらにより良いものにしていくと信じています。

――最後に、林さんが考える「ブランディングを成功させるためのポイント」を教えてください。

ブランディングは「普遍的なもの」「変えないもの」という考え方が一般的かと思いますが、僕はブランディングも変わっていくべきだと考えています。マーケティングと同じように、時代が変わればブランドのあり方も変わる。マスのほうに軸足を動かしている近年のワークマンがまさにそうですよね。保守的な価値観でブランドを守ろうとするよりは、自らの意思で変えていくことを大事にしたいと思っています。

多くのブランドでは、そのブランドを棄損されないための「ブランドガイド」を整備しています。一方で、僕たちワークマンはブランドをどう取り扱ってもらっても構わない。自由に扱ってもらっていいというのがワークマンの考え方であり、だからこそアンバサダーとの相性もいいんです。

――ワークマンは“職人気質”が強い会社だと勝手に思っていました。でも実態はその逆で、プロダクトには職人的なこだわりを持ちつつ、ブランドの出口戦略においては驚くほど軽やかで開放的です。機能性カジュアルという新たなマーケットへ挑戦し、質の高いUGCを増やそうという視点はとても興味深く、非常に勉強になりました。マス化戦略が今後どうなっていくかにも注目したいです。本日はありがとうございました!

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C-NAPS(シナプス)を運営するファングリーの代表・松岡がコンテンツ界隈の方たちをゲストに迎え、「ここだけの話」を掘り下げるインタビュー企画です。

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