Interview
# 2
株式会社メディコレ
代表取締役
橋本 礼次郎(はしもと・れいじろう)
「コンテンツプロデュースカンパニー」を標榜するファングリーの代表・松岡でございます。
早くも「コンテンツ界隈ここだけ話」の第2話が登場! 今回は先日ファングリー社との業務提携を発表した株式会社メディコレの代表・橋本さんをゲストにお招きし、医療コンテンツや医師監修のあり方や考え方について、根掘り葉掘り聞いてみました。
メディコレ社は、医療・ヘルスケアのマーケティング領域において時代のニーズを捉えながら着実に進化しているスタートアップ企業。医療情報の専門性・権威性・信頼性が問われる昨今、どのようなビジョンを持ってコンテンツと向き合っているのかについて詳しくうかがいました。
株式会社メディコレ
代表取締役
橋本 礼次郎(はしもと・れいじろう)
2008年にフジテレビへ入社し、報道局の記者として取材・記事執筆などを行う。その後、情報制作局に異動し、「めざましテレビ」「直撃LIVEグッディ!」「バイキングMORE」のディレクターを担当。番組制作と並行して、VRなどのデジタル技術を活用した事業開発業務の部署で企画立案に関わる。番組制作業務の中で医療健康情報の安心化について課題を持ち、解決策を模索する中で2021年にメディコレを立ち上げ。
──業務提携のリリース(※)以来、温めて続けていた企画がついに実現しました(笑)。あらためてお話をうかがえる機会が持てて嬉しいです。
とんでもないです(笑)。こちらこそありがとうございます。
──まず、メディコレさんの事業展開についてお伺いしたいのですが、創業は2021年ですね。
はい、起業してから3年くらい経ちますね。現在はヘルスケアやメディカルに関する情報発信に関するビジネスをしています。具体的には、医師監修を発注から素材提供までオンラインで完結できるサービス「メディコレWEB」の運営、テレビ出演・イベント出演・執筆などにおける専門医のキャスティング、あとは医療コンサルティングや記事制作、動画制作などを行っています。
──医療やヘルスケアの領域はコンテンツマーケティングのニーズが高く、ファングリーでも注力している分野です。
だからこそ、ファングリーさんともすごくいいご縁をいただけたのかなと。現在もファングリーさんの『ひざの痛み解消ナビ』の医師監修のお手伝いをさせていただいていて、これからの連携や展開がすごく楽しみです。
──こちらこそどんどんメディコレさんの知見をお借りしたいです。
ぜひぜひ密な連携をよろしくお願いします。
──個人的にメディコレさんの社名の由来が気になっていまして。「メディ」はわかりますが、「コレ」は何でしょう?
メディコレの「メディ」は医療もしくは医療の知見のことで、「コレ」は収集を意味するコレクションを指します。はじめは「正しいこと」「誤りのないこと」を意味する「『コレ』クトネス」がハマるかなと思っていたのですが、「医療情報において100%正しいと言えることはない」という考えから、「正しい」ではなく「問題のない」情報や知見を手軽に収集(コレクション)できるサービスの実現を思い描くようになりました。
──なるほど、結構深いコンセプトがあったのですね。オンラインで医師監修を完結させる仕組みは、どこで着想を得たのですか?
医師監修って、前後の調整を含めて結構手間がかかるんですよね。たとえば、テレビの情報番組などでよく使われるフリップに、「専門医の一言解説」などが記載されていたりするじゃないですか?
──はいはい、よくありますね。
画面に映るのは数十秒かもしれませんが、あのたった一言をもらうのが意外に難しいんですよ。専門医は忙しいのでそもそもドアノック(接触)できなかったり、やり取りにすごく時間がかかったりするんです。
──橋本さんはもともとテレビ局のディレクターでしたよね。
そうですね。当時オンラインで聞ければすごく楽なのに……と何度も思いました。粘り強くアポイントを取り、はるばる遠方まで取材や撮影に行っても番組で使われたのは20秒だけ、紹介されたのは30文字だけ――ということもあって。そのためにさまざまな準備をしたり医師の時間をもらったりするのはコスパが悪いですし、ドクターの不満につながってしまうかもしれません。オンラインなら一連のやり取りにかかる負担が小さくスピード感を持って進められるので、制作側にも医師側にもメリットがあります。
──医療従事者はドアノックが難しい。テレビ局時代から医師のネットワークはお持ちだったのですか?
メディコレの創業メンバーに、1,000人以上の医師コミュニティを持つ女性がいたんです。彼女からテレビ局時代に相談をもらったのがきっかけでした。
──なるほど、いろんな偶然が重なったわけですね。
医師とのコミュニティを作るのは難しいですし、門外漢はなかなか入り込めないじゃないですか。なので、わりとひょんなことからこの業界に入った感じですね。そのコネクションを基盤として引き継がせてもらって、現在に至ります。
──医師監修といってもいろんな診療科があります。ここだけの話、今特に監修ニーズがある診療科や分野はありますか?
依頼の多さで言うと、どちらかというと自由診療のほうが多いかと思います。
──やっぱり、お金が動くところにマーケティングニーズも集まると。
例えば美容皮膚科とか、再生治療とか。自由診療では積極的にマーケティングしたいという企業も多い印象です。歯科では、矯正治療とかインプラント治療などが該当するかと思います。
──「リピートして来院してくれる患者さんをいかに集めるか」という点で、予防歯科もマーケティングに積極的な印象です。昨今の健康志向の影響も大きい分野ですね。
ええ。歯科の場合、医科よりも参考になる情報が世の中に少ないという印象があります。そのぶん、情報収集に手間がかかったり、情報の質や信頼性の面で課題があったりするかもしれません。
ただ、こうした自由診療に関するコンテンツの監修依頼以外にも、多くのご依頼をいただいています。例えば、産婦人科に関するコンテンツは、昨今の「フェムテック」の台頭や女性活躍推進という社会的な動きもあり、増えている印象です。新しいWebメディアやメーカーのコラムも立ち上がっているので、今後も増えていくと考えています。
──「医療×コンテンツマーケティング」という文脈で思い出されるものとして、2016年のWELQ問題があります。橋本さんはまだテレビ局にいた頃ですが、まだ当時は“他人事”という感じでしたか?
いやいや、それが全然“他人事”ではなくて(汗)。社会的なインパクトがめちゃくちゃ大きかったのでWELQ問題については当然知っていましたし、当時は厚労省の記者でしたので、割と間近に見ていました。いろいろ批判されることもありますが、テレビ局では、校閲の担当者や、事実確認の担当者を置くなど、情報の内容確認には結構力を入れているんですよ。なので、事件の深刻さはしっかり肌で感じていました。
──レガシーな媒体の多くはコンプライアンス憲章などを掲げていて、広告規制や放送基準も厳しいですからね。その点、言葉は悪いですがネット媒体は広告規制がゆるく“ザル”でしたね(笑)。
WELQ問題が起こって、毎月何百という医療系記事を作って公開していた中で、その大半がダメだと認定されてしまったわけです。「信頼できる医療情報」へと改善するには医師の監修をつけるしかないのです。
──医師の数には限界がありますし、本業ではないのでさらに数は限られてきますよね。
アナログの対応ではマンパワーに限界があります。スピーディーに、手軽に、そして24時間いつでも発注ができる「メディコレWEB」のようなサービスがもし当時あったら、WELQや類似戦略を取っていた企業は生き残れたのかもしれません。
──もう8年も経つんですね。割と渦中の関連企業との取引もあったので、社内の品質管理の方針にも大きく影響を与えたのを鮮明に覚えています。
医療系コンテンツマーケティングのターニングポイントでしたね。
──WELQ以前から薬機法(旧薬事法)はYahoo!やGoogleの広告審査の関係でネット企業でも注意が払われていましたが、医療情報の信頼性についてはほとんどチェックされていませんでした。医療広告ガイドラインも当時はまだなかったですから。
盲目的だったというか、「正しいことが書かれていて当然」という風潮がありましたよね。で、でたらめが横行していたことにようやく社会が気付いたというか。その後、Googleジャパンが後追いでアルゴリズムを変えたという出来事もありました。
──当時Googleは“素人”が書いた医療関連記事を高く評価していたわけですからね。
そのあたりから急激に「ヘルスケア領域のメディアは運用しない」という企業が増加しました。メディア運用のプロが制作を避けるようになったことで、この領域の情報そのものが全体的にシュリンクしてしまったんですよね。
──はい、まさにそんな感じでした。ただ、情報としては必要なのでニーズはずっとありました。ネットユーザーが増え、むしろ市場機会は拡大しています。
マーケット環境で言うと、WELQショックから抜けてきたところもあって、最近はまた少しずつ伸びているように思います。フェムケアの重要性とか女性の活躍推進とかを絡めた女性系の医療メディアが増えています。今後も女性特有の健康問題がなくなることはありません。むしろ、より情報の信頼性が求められてくると思います。
──昨今の医師監修マーケットはどんなトレンドでしょうか?
競合は増えていますね。私は「競合が多ければ多いほどマーケットが活性化するのでいい」と思っているのですが、医師の数は有限なので、そこの“取り合い”になることは考えておかなければなりません。
──監修という仕事に積極的な医師と、そうでない医師がいますよね。
そうですね。まあ、言ってしまえば「本業」じゃないわけですしね。私は、医師監修に積極的な先生は以下のいずれかに該当すると思っています。
──XやInstagram、YouTubeで積極的に発信している医師も増えていますね。
資金力があるクリニックなどは、割とがっつりSNSに投資していたりもします。
──コンテンツと生成AIが切っても切れない関係になりつつある中で、医師監修の領域との親和性はいかがでしょう?
親和性はすごくあるんじゃないかと思っています。私たちの事業にとっては、AI化が進めば進むほど“おいしい”というか……。
──“おいしい”、ですか?
AI化が進めば、恐らくWebコンテンツの総量は増えると思いますので。たとえば、私があるヘルスケア系企業のマーケティング責任者だったとします。スタッフが生成AIでほとんどコストをかけずに作った記事を「これ公開させてください!」と言って持ってきたら「ちょっと待って、それホントに大丈夫なの(汗)?」ってなりますよね。
──医療コンテンツの総量が増えれば、必然的に監修が必要なコンテンツも増えると。
いくら精度が上がったとしてもAIは医師ではないので、監修できないですからね。
──コンテンツの管理者責任・公開者責任は、運営企業が取らなければならない。
それと、生成AIで書かれた記事には、基本的に「クロールして取得した以上の情報」は書かれていません。GoogleはE-E-A-T(※)を重要な評価基準にしていますが、E-E-A-Tの「E(Experience/経験)」にあたるユニークな情報は、AIでは増やせません。
※E-E-A-Tは「Experience(経験)」「Expertise(専門性)」「Authoritativeness(権威性)」「Trustworthiness(信頼性)」の頭文字を取った言葉で、GoogleのSEOにおける品質評価基準になっている
──医療情報の場合、特に信頼性・専門性の担保はマストですね。あとはマーケティングの観点で言うと独自性も求められている。生成AIに頼り切るには、まだまだ不十分。
AIは嘘をつきますから(笑)。また、医師の知見を借りれば、独自性の高い記事も作れます。たとえば骨折に関する記事で、先生が見てきた患者の中で「最も大変だった症例」や「異例や特例の症状」についてコメントをもらうとか。そういった情報は、その先生の頭の中にしかないものですからね。
──緊急であったり重症であったりすればするほど医師の見解が必要だし、その見解をもって医師やクリニックを選択したいと思うのは当然ですね。
ようやくそれがネット上で実現しつつあります。
──最後に、橋本さんがこれから実現したいことは何でしょうか?
「メディコレマーク」という認証マークがあるのですが、これを検索エンジンのアルゴリズムに加えてもらうことですね。「メディコレマーク」は公開前に企業がお金を払って監修をしているか、それが「メディコレWEB」の登録専門医に承認されているか、を一目で確認できるというものです。
この認証(メディコレマーク)がついている記事は読者が安心して見られるという“お墨付き”になりますし、情報の信頼性を担保したい企業にも、情報の信頼性に敏感になっているユーザーにもメリットがあると思っています。
──メディコレさんが掲げている“情報安心化”のための取り組みの推進ですね。医療情報に対する医師の介在価値が高まれば、メディコレさんにとっても、専門医にとっても、企業にとってもいいことです。
そうですね。医師の介在価値を高めるという点では、「メディコレWEB」に医師と壁打ちできる機能を追加したいと思っています。監修って結局、誰かが書いた記事の後工程、つまり「最後の作業」じゃないですか。より効率的に有益な記事を作っていくなら、企画段階や執筆のタイミングで医師の見解をはさむというやり方もあると思います。実際、そういったニーズが増えつつあると考えています。
──誰かの企画の監修ではなく、企画段階から医師が介入する。いいですね、そういうドクターが増えてほしい。
さらには、医師と共創(コ・クリエーション)できる機会も増えてくると考えられます。専門医がフリーランスのクリエイターと組んでサービスを提供したり、投資家や事業家と一緒にビジネスを作ったりといったことが、これまで以上にやりやすくなるかもしれません。
──「原稿をチェックする」という枠組みだけでは、そういった付加価値が生まることはないでしょうね。
医師・歯科医師・獣医師などがクリエイター・投資家・事業家などと一緒に新しい価値を創る――。メディコレのサービスが、その共創のハブになれればうれしいです。
──わくわくしますね、すごく楽しみです。ファングリーとメディコレさんのコラボレーションもまだまだ序章ですので、引き続きの協働をよろしくお願いします!本日はありがとうございました!
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