出版社や新聞社、編集プロダクション、Webメディア運営会社などの文字を扱う職業において、原稿の誤りを正す専門的な作業に「校正」と「校閲」があります。一見似ているように思える二つの言葉ですが、取り組む作業内容はまったく異なります。
会社によっては校正と校閲の専門部署がある一方、編集者が校正や校閲まで一括して行うケースも多く見られます。また、そもそも校正と校閲という言葉自体を明確に区別せず、同じ業務として対応しているところもあるようです。こちらの記事では「校正」と「校閲」、それぞれの作業や役割の違い、重要性について確認します。
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校正と校閲はどちらも「原稿を確認して誤りを正すこと」を指す言葉ですが、両者は確認するポイントが異なります。校正は「表記の誤りを正すこと」。一方の校閲は、「内容の誤りを正すこと」です。
原稿の「表記の誤りを正すこと」を指す校正。最近では、出版社や新聞社などの印刷物があるメディアと、Webメディアをはじめとする印刷物がないメディアで、「校正」に対する捉え方が異なるようです。
本来、校正とは、元の原稿と作成中の原稿の双方を比較して、誤植や色彩の違いなどがないか照合する作業のことです。その照合作業に加えて、原稿自体のミスを見つけるために、誤字脱字や表記のゆれなどをチェックする「素読み校正」を行います。出版社や新聞社などの印刷物のあるメディアでは、これら一連の作業を含めて「校正」と呼ぶケースが一般的です。一方、印刷物がないWebメディア等では、原稿の照合作業は行わず素読み校正のみを指すことがほとんどです。
時代の変化とともにWeb上のコンテンツが増加していることもあり、校正という言葉が持つ意味も変わってきているようです。
校閲とは、原稿の「内容の誤りを正すこと」です。また、差別的な表現などの不適切な表現が使われていないかも確認・指摘の対象となります。こちらは印刷物があるメディアでも、印刷物がないメディアでも同じ作業を指すことが一般的です。
校正者と校閲者の視点の違いについて、具体的に確認してみましょう。
校正者の視点では、以下のように修正します。
よく見ると、数値の表記が全角と半角でゆれていることがわかります。この表記のゆれを是正します。
一方、校閲者の視点だとこちらになります。
耐熱ガラスの耐熱上限温度が、本当に「1,500度」なのかに注目します。例えば、火山のマグマは地下深くにあるもので1,300~1,400度くらいと言われているので、普通に考えると「耐熱ガラスが1,500度まで大丈夫」という点には疑問が生じます。
耐熱ガラスの溶融点について調べてみると、一般的な耐熱ガラスの溶融点は780度と言われていることが確認できます。そのため、やはり「1,500度」という記載内容はおかしいことに気がつくでしょう。
このように同じ文章を確認する場合でも、校正者と校閲者では注目する点がまったく異なるのです。
校正で行う具体的な作業について見ていきましょう。前述した通り、印刷物の有無によって校正の意味が異なってきますが、ここではどちらのケースでも行う「素読み校正」を中心に紹介します。
印刷物のある場合の校正についても簡単にまとめていますので、興味のある方はあわせてご覧ください。
素読み校正 とは、誤字脱字や表記のゆれ、文章表現に違和感のある箇所等を見つけ、修正する作業を指します。
漢字や送り仮名、同音異義語などに誤りがないかを確認します。人物の名前は異体字など似ている漢字が多いので注意が必要です。一文ずつ丁寧に読んでいかないと見落としてしまうので、校正者には慎重さが求められます。
「なている」「追求」「踏ん張時」の3つが修正対象箇所です。順番に、脱字の追記、同音異義語の誤字を修正、送り仮名の追記となっています。
一つの原稿の中で表記がゆれていないか確認します。表記のゆれにはいろいろなパターンがあります。以下、よくあるパターンを紹介します。
1.同じ内容(モノ・コト)を表す言葉の表記ゆれ
お父さん、パパ、父
田中氏、田中さん
2.漢字、ひらがな、カタカナの表記ゆれ
犬、いぬ、イヌ
素敵、すてき、ステキ
3.送り仮名の表記ゆれ
取り扱い、取扱
受け付け、受付
4.全角・半角、大文字小文字の表記ゆれ
320円、320円
ウェブ、web、WEB、Web
5.送り仮名の表記ゆれ
行う、行なう
問合せ、問い合わせ
6.省略による表記ゆれ
取り扱い説明書、取説
7.文末表現の表記ゆれ
です・ます、だ・である
8.外国語の読みからくる表記ゆれ
ティッシュ、ティシュー
サーバー、サーバ
9.略称がもたらす表記ゆれ
パソコン、PC
インターネット、ネット
10.異体字、代用漢字による表記ゆれ
高、髙
島、嶋
同一コンテンツの中で表記のゆれが起こると、文章が読みにくくなり、誤解を招く恐れもあるので注意しましょう。
PCを使用して原稿を作成している場合、表記がゆれている箇所を発見したら「Ctrl」キー+「F」キーで該当する単語を検索し、統一する言葉に「置換」する方法もあります。これなら表記のゆれを一括変更できるので、一つずつ目視で確認・変更するより確実かつ迅速に対応できるでしょう。
文章表現に違和感がないか、読みにくくないかを確認します。具体的なチェックポイントはこちらです。
正しい使い方をしていないと文章がおかしくなります。
一文が長すぎないか確認します。長すぎる文章は読みにくいため、文章が長いと感じた場合は、途中で切ることができないか検討します。
主語と述語の関係が正しく成り立っているかを確認します。1文が長いときなどに、主語と述語の関係が成り立たない文章のねじれが起きやすいので、注意しましょう。
原稿の「目次と小見出し」が同じになっているか、「写真と説明書き(キャプション)」が合っているか、「リンク先」が指定されたページに飛ぶようになっているかなど、形式的なチェックを行います。関連記事のリンクを確認する際には、リンクが切れていないかもあわせて確認すると良いでしょう。
ここまでは、印刷物がない校正について確認しましたが、印刷物がある場合の校正についても簡単にまとめます。 先にご説明した「素読み校正」は、こちらの校正作業の一種です。
一つ前の原稿と現在作業中の原稿、これらの原稿を比較して一字ずつ確認する作業です。突き合わせ校正には、文章の終わりから先頭へ、逆方向に読む方法もあります。文章の意味を理解しようとせず、とにかく文字(という図柄)に注目して確認するのがポイントです。
2人1組になり、1人が原稿を読み上げ、もう1人が音に合わせて原稿を確認する作業です。読み方にはルールがあり、例えば「田中」の場合は「田んぼの『た』に中野駅の『なか』」というように一字ずつ丁寧に確認していきます。コストや時間はかかりますが、高い精度でチェックでき、漢字の間違いを防ぎたい場合などに有効です。
一つ前の原稿と現在作業中の原稿、これらの原稿を重ねてパタパタとあおることで変更点を確認する作業です。内容が違う箇所は、パラパラマンガやアニメーションのように動いて見えます。変更があまりないときやイラスト修正時に有効な校正方法です。
続いて、校閲で行う作業について解説します。校閲は原稿に書かれている内容に事実誤認や不適切表現がないかを確認します。原稿を読んで気になった点は、インターネット上の情報や手元の資料・書籍などを調べて消し込みます。確認作業には時間や労力がかかるケースもありますが、諦めずに根気強く取り組むことが大切です。
会社や担当者によって「校正」と「校閲」の作業認識が異なることもありますが、校閲では主に固有名詞や事実関係に誤りがないか、表現内容に矛盾はないか、差別的な表現はないか、といった視点でチェックを行います。原稿を読む際には、ミスが起こりそうなポイントを意識して確認するようにします。
歴史的な出来事や事件の名称、地名、企業名、人物名、日付、時間、データ等、確認する対象はさまざまです。辞書や専門書、資料、学術論文、Webサイトなど、いろいろな資料を調べて事実を明らかにします。
例えば、「200X年X月X日、あいにくの大雨でイベントは中止になってしまった」という記述があれば、本当にこの日は雨が降ったのか、雨は小雨ではなく大雨だったのか、イベントは中止になったのか、といったところまで確認します。
会社名や人物名などの固有名詞の誤りは、相手に失礼になるので確実に防ぐようにしましょう。自分は知っていると思う場合でも、あらためて一度確認することが大切です。
どれも正しそうに見えますが、それぞれ修正対象箇所があります。これらが長文の中でぽつりと出てきた際にも、読み飛ばさず確実に修正しなければなりません。
数字や単位も間違いやすいポイントです。こちらの記事の前半部分で前述した「耐熱ガラス」の例のように、数字や単位が出てきた場合は、常識的にあり得るのか疑う気持ちで確認するようにしましょう。
原稿の前半と後半で主張が異なっていたり、登場人物の設定が異なっていたりすると、原稿の信ぴょう性が疑われてしまいます。原稿内の内容・表現で矛盾が起きていないか確認します。
性別や職業、人種、心身や病気に関することなど、差別的な表現がないか確認します。時代とともに差別的な表現に該当する対象は変化するので、新しい情報を常に確認するようにしましょう。
例えば、現在は「認知症」と言われている症状は、一昔前まで「痴呆」「物忘れ」「ボケ」といった言葉が使われていました。しかし、差別的な表現という意見を踏まえて2004年以降に呼び方が変わったという経緯があります。
出典:厚生労働省「『痴呆』に替わる用語に関する検討会報告書」
差別的な表現は、見ればすぐに分かるものだけでなく、知らず知らずのうちに使われていたり、書き手自身も意図せずに使用してしまっていたりするケースもあるので注意が必要です。
似ているように見える「校正」と「校閲」。取り組む作業はまったく異なりますが、品質の高い原稿を完成させるためには、どちらも欠かせない、とても重要な作業です。原稿内に誤りがあると、情報提供者の信用低下や誤情報を流したことによるトラブルを招く恐れがあります。このようなリスクを理解し、正確な原稿チェックを実施する必要があると心得ましょう。
実際の現場では、「校正」と「校閲」の作業に明確な線引きがなく、編集者が一括して対応しているケースも多々あります。実際に自分が「校正」や「校閲」の作業を対応する際には、「どの作業範囲まで対応する必要があるか」を都度依頼者に確認することが大切です。
株式会社ファングリーでは、原稿の校正、ファクトチェックを含めた校閲、コピーコンテンツチェックなどに対応しています。薬機法や景品表示法といった各種法令・法規に準拠したコンテンツ制作を行っておりますので、お気軽にご相談ください。
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