タグラインを含む企業のブランドメッセージの作り方や策定プロセスを解説した記事は世の中にたくさんありますが、2年前に本メディア(C-NAPS)にアップした「企業のブランドメッセージ51連発!!【大手企業編】」にように大手企業の有名なタグラインを事例掲載している記事が多くを占めています。
しかしながら実際にブランドメッセージを構築する際に参照したいのは必ずしも大手企業の事例だけじゃありません。特に2020年以降、組織再編の加速、M&A市場の再拡大、スタートアップ企業の増加、DX推進による事業モデルの転換などを背景に、中小・ベンチャーやスタートアップ企業がブランドメッセージやタグラインなどのCI言語を検討・策定・変更する事例(機会)が増えたように思います。
そこで私自身がブランドメッセージの策定プロセスに関わった際に参照した中小・ベンチャー企業やスタートアップ企業のブランドメッセージの中で特に印象に残った事例を厳選してみました。ミション・ビジョン・バリュー、タグラインといった企業のブランドメッセージ構築の際のヒントになれば幸いです。
Table of Contents
「Go Bold」「All for One」「Be a Pro」
メルカリがミッションを達成するために大切にしているバリューとして掲げているのがこの3つのフレーズ。それぞれ「大胆にやろう」「すべては成功のために」「プロフェッショナルであれ」という意味が付けられています。もはや日本人の生活に定着したと言っても過言ではないフリマアプリを生み出し、さらには独自の電子マネーを開始するなど常に新しいことへの挑戦を続けているメルカリらしいブランドメッセージです。
「シゴトがはずむ」
ビジネスチャットツールを提供するChatwork株式会社が2021年に新たに策定したタグラインです。コミュニケーションが活性化すると自然と会話がはずむのと同様に、中小・ベンチャー企業の現場を活性化することで仕事を心はずむものにしたいという熱い想いが込められています。チャットツールを通してビジネスに携わるChatwork株式会社の存在価値を表したブランドメッセージといえます。
「経済情報の力で、誰もがビジネスを楽しめる世界をつくる」
SPEEDA、NewsPicks、FORCASなど経済やマーケティングに関する情報を提供する株式会社ユーザベースが掲げるパーパスです。企業・個人・サステナブルな社会というそれぞれの両立を、自社の扱っているサービスで実現したいという目的が端的に表現されています。
「Employee First.」
人事や労務などに関する業務ツールを提供する株式会社SmartHR。すべての人が価値ある仕事に集中し、従業員と会社がお互いに信頼し、気持ちよく働ける環境作りを目指すという想いが「サービスビジョン」として込められています。働き方が大きく変わりつつある昨今、デジタル化が難しいとされていた人事や労務の業務の効率化をツールの提供を通じて促すSmartHR社の想いがシンプルに表現されています。
「シゴトでココロオドルひとをふやす」
ウォンテッドリー株式会社が、「仕事はお金を稼ぐためではなく自己実現の手段になっている」という考えのもと、ミッションとして掲げているのがこのブランドメッセージ。これからの人と仕事との関係性を考えさせられる、ウォンテッドリー社の意志を感じる宣言です。
「個のためのインフラになる」
近年の働き方改革によって才能や経験といった個の力が注目を集める時代になりつつあります。誰しもが持つ独自の能力や才能を誰かの役に立ててもらう。無限に広がる個の可能性をつないでいくクラウドワークスの存在意義が感じられるミッションと言えそうです。
「スモールビジネスを、世界の主役に。」
これまで掲げていた「創造的な活動にフォーカス」というミッションに代わる(2018年策定の)新しいミッションです。スモールビジネスは大胆かつスピード感をもってアイデアを具現化することが可能であり、多様性の発揮や新しいイノベーションの起爆剤になる可能性を秘めています。「そのスモールビジネスをサポートすることで、ひいては社会全体に好影響をもたらす」というfreeeの理想が込められています。
「セカイにコドモゴコロを」
YouTubeのクリエイターやインフルエンサーなどのマネジメントやインフルエンサーマーケティングを提供するUUUM株式会社。今までの常識や固定概念にとらわれず、子どものころのような新しい体験を通じて楽しみを提供したいという想いが伝わる経営理念です。あえてカタカナで表現することで、堅すぎず砕けすぎない楽しいキーフレーズになっています。
「Mobile Tech for All」
プログラミング不要でアプリ開発ができる「Yappli(ヤプリ)」を提供する株式会社ヤプリ。アプリ開発といえば相応の技術やコストが求められますが、ヤプリはその敷居を大きく下げたといえます。まさに、「モバイルテクノロジーをすべての人へ」というサービスを体現したブランドメッセージと言えます。
「Payment to the People, Power to the People.」
誰でも簡単にネットショップを開設できるサービスなどを提供するBASE株式会社。個人の持つ才能や感性を発揮できる場所を作り、価値へと変わることで生きる力を与えるといった想いが英語のメッセージに込められています。単純なショップの提供だけでなく、その先にある人や才能の価値にフォーカスした理念の感じられるミッションです。
「生まれるべきものが生まれ 広がるべきものが広がり 残るべきものが残る世界の実現」
日々、世界中で新しいものが生まれ、広がり、取捨選択されています。しかし、この取捨選択が資本主義や政治の理論によって決められることも少なくありません。そういった中で「本当に生まれるべきもの、広がるべきもの、残るべきものを実現していく。」という次なるビジョンが言語化されています。
「幸せを築く人を、幸せに。」
建築業界のDX化を担う株式会社アンドパッド。住まいやビル、施設を作る建築・建設業を、幸せづくりと捉え、その幸せづくりをテクノロジーでサポートしたいという考えがミッションとして伝えられています。建築業界そのものへのリスペクトが感じられる、温かくも強い意志を感じるブランドメッセージです。
「つぎのアタリマエをつくる」
後払いや掛け払いといった国内BNPL決済サービスを提供する株式会社ネットプロテクションズホールディングス。国内BNPL決済サービスをけん引してきた企業であり、「つぎのアタリマエをつくる」ための挑戦的な精神が感じられるミッションです。また、ティール組織の実践企業として組織作りでも「つぎのアタリマエをつくる」を当てはめていることで企業カルチャーに反映させています。
「デジタルリスクと戦い続ける」
デジタル化は大きなメリットをもたらしましたが、一方でリスクも生み出しました。またテクノロジーの進化に伴ってリスクマネジメントも高度化しており、日々のアップデートは欠かせません。いつ襲い掛かるかわからない、意外と身近に潜むデジタルリスクを防ぐというエルテスのサービスを簡潔に伝える企業理念です。
「知見と、挑戦をつなぐ」
株式会社ビザスクはあらゆる業界、職域をカバーする知見データベースを活用したサービスを提供する企業。ミッションとして掲げている「知見と、挑戦をつなぐ」は、組織、世代、地域などに縛られず、知見の需要と供給を満たすビザスクのサービスそのものをシンプルに表しています。
「働く世代に豊かさを」
「働く世代に豊かさを」は、資産運用サービスを提供するウェルスナビ株式会社がミッションとして掲げるブランドメッセージ。「資産運用」という難しい言葉ではなく「豊かさ」というわかりやすい表現にすることで、共感を得やすく人に寄り添った印象を受けます。
「日本のエンターテインメントを“革新”させ、 世界70億人をワクワクさせる。」
株式会社モブキャストホールディングスグループはIPビジネスを行う企業。ビジョンに掲げたこのメッセージからは、エンターテイメントの無限の可能性や、日本から世界へという大きな目標が感じられます。今まさに発展途中にあるIPビジネスにおいて、今後の期待感を抱かせてくれるブランドメッセージです。
「新たな仕組みで、安心な暮らしを、」
生活での困りごとを解決するために家庭と専門業者をつなぐサービスを展開するシェアリングテクノロジー株式会社。専門業者と家庭をつなぐマッチングサービスという新しい仕組みで家庭の困りごとを解決するという、企業が目指す社会での立ち位置を表しています。簡潔かつ見慣れた表現で、スッと受け入れやすいミッションになっています。
「“はたらく”にテクノロジーを実装し個の力から社会の仕様を変える」
株式会社カオナビは、社員の個性・才能を可視化することで効率的な戦略人事を実現するシステムを提供する企業です。「個の力から社会の仕様を変える」というブランドパーパスに企業の想いが込められています。性別、学歴、肩書きといったラベルではなく、個にフォーカスし自分らしく働くことが表現された強いメッセージです。
「チームワークあふれる社会を創る」
企業のチームワークを支援するためのグループウェアを提供するサイボウズ株式会社。企業理念であるこのメッセージは、提供するツールの意義と目標とする社会への貢献を表しています。リモートワークなどで人と人との距離が離れつつある今だからこそ、サイボウズの掲げるチームワークという言葉が強く感じられます。
「IMPACT ON THE WORLD」
マーケティングや商流に関するプラットフォーム事業を展開する株式会社イルグルム。理念でありミッションでもあるこのメッセージには、自分が関わることや人々の心に伝わる「小さなインパクト」の積み重ねが、世界を動かすほどの大きなうねりになるという意味が込められています。小さなことからしっかりと取り組む企業の姿勢がうかがえます。
「識学を広めることで人々の持つ可能性を最大化する」
株式会社識学は、識学という独自のマネジメント理論を用いた経営組織コンサルティング、従業員研修、Webサービスの提供を行う企業。識学は「意識構造学」からとった造語で組織運営理論を指しています。経営理念として掲げられたこのメッセージからは、識学への圧倒的な自信と解決力が感じられます。
「「IT産業の次世代」を創出する」
株式会社コアコンセプト・テクノロジーはDXやIT人材確保に関するサービスを提供するベンチャー企業。目まぐるしく変化する世の中で、ITと真摯に向き合い新しい価値を提供するという企業の姿勢が感じられるブランドメッセージです。
「ワクワクが走り出す」
グッドスピードは中古車の販売や車のサブスクサービスなどを提供するベンチャー企業です。「車を買う際のワクワク感」や「出かける際に抱くワクワクを載せて走り出す車」という希望や明るい未来が思い浮かぶようなタグラインになっています。車を扱う企業らしいブランドメッセージです。
「世界に期待され応援される企業であれ」
BPOやクラウドソーシング事業、またそれらを利用したCGS事業を展開する労働⼒不⾜解決カンパニー、株式会社うるる。国内外に多くのパートナー企業があり40万人以上のクラウドワーカーを抱えるうるるは複数のSaaS事業が展開できるというのが強み。どんなに強みがあっても信頼や期待が得られなければ企業として成り立ちません。企業の基本ともいえる部分を表した経営理念といえます。
「一人でも多くのお客様に健康で楽しい食生活を提案し、豊かな未来社会に貢献します。」
株式会社ファンデリーは、食品や健康に関する企業のマーケティング事業をはじめ健康食宅配サービスオリジナル食品ブランドの運営を行う企業。ビジョンに掲げるメッセージにも健康や食生活といったワードを使用し、企業の取り組みがわかりやすくなっています。ブランドプロミスのような長さのフレーズでステークホルダーに想いを伝えています。
「マーケティングの再現性で世界を変える」
マーケティングに関するシステムやサービスを複数展開している株式会社シャノン。マーケティングを通して企業を発展させ豊かな世界を目指すという、マーケティングという枠を超えた先を見据えたブランドメッセージです。マーケティングを専門に扱う企業だからこその自信が感じられます。
「才能をつなぎ、世界をポジティブにする」
デジタル素材のオンラインマーケットプレイスや出張撮影プラットフォームを提供するピクスタ株式会社。「才能をつなぎ、世界をポジティブにする」という企業理念からは、クリエイターやカメラマンとユーザーをつなぐことで、誰もが才能を活かせるフラットな世界の実現に向けた強い意志を感じます。。個の才能が世界へ影響を与えるという、独自の世界観を表現した素敵なフレーズです。
「専門家を、もっと身近に。」
弁護士や税理士とのマッチングサービスを提供する弁護士ドットコム株式会社。ミッションに掲げている「専門家を、もっと身近に。」は、弁護士や税理士へ相談することに対して感じる敷居の高さを取り除き、気軽にアクセスできるものにしたいという想いが込められています。日常を安心かつ快適にするために必要だからこそ、「もっと身近に。」というシンプルなフレーズが刺さります。
「ECで人とモノを繋ぎシアワセを届ける。」
株式会社ACROVEはEC・D2Cのプラットフォームを提供する企業。ECという事業を端的に表しつつ、「シアワセを届ける」という部分からはそこに携わる人たちの想いが表されています。モノとシアワセをカタカナで表すことで、「届ける」が両方へかかっていることがわかりやすく表現されています。
「デザインの力を証明する」
デザインの価値を発揮し、課題解決やデザインに関わる人の後押しを行う株式会社グッドパッチ。このメッセージからは、「デザインの強さ」「デザインの持つ力」を強く押し出すグッドパッチ社の独自性が感じられます。また、ビジョンの「ハートを揺さぶるデザインで世界を前進させる」やトップページの「Design to empower」など、随所に「デザインの力」を統一表現にしているのもポイントです。
「「場の発明」を通じて欲しい未来をつくる。」
株式会社ツクルバは、中古・リノベーション住宅の流通プラットフォームの運営や不動産企画デザインを手掛ける企業。ツクルバにとって「場」とは、不動産、そこに関わる人々、それぞれの想いのこと。こうした場を作ることで発生する変化の連鎖が大きな影響力持つという理念が表現されたブランドメッセージとなっています。「場の発明」というキーワードはキャッチーで印象的です。
「in the loop 成長のループへ」
INTLOOP株式会社は企業のコンサルティングや人材支援を展開する企業です。経営やビジネスにおいて課題を抱えることは避けられません。しかし、その課題を乗り越えることで企業は成長します。このタグラインでは、課題と成長のループをコンサルタントや人材支援を通して共に支えていく企業の想いが表現されています。
ブランドメッセージには、企業やブランドの普遍的な価値を一言で表現した短いフレーズである「タグライン」のほか、ミッション・ビジョン・バリューなどの各種ステートメント、ブランドパーパス、ブランドプロポジション、ブランドプロミス、ブランドストーリー、ブランドキャッチコピーなど、さまざまな表現方法があります。
企業によって多少定義は異なるものの、ステークホルダーに存在意義や提供価値、つまり「らしさ」を正しく想起してもらうためのコミュニケーションツールとして開発されているのは共通です。本記事では最終的にアウトプットされたフレーズを記載していますが、CIの策定プロセスを想像しながら掘り下げていくのも面白いですね。
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