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Interview

# 23

万人受けより100人に1人の共感!「ぞっこん度」で深まるファンとの絆|新しいビール文化を作るマーケティングと組織戦略

株式会社ヤッホーブルーイング

マーケティング部門統括ディレクター

仮屋 光馬(かりや・こうま)

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コンテンツプロデュースカンパニーを標榜する株式会社ファングリー代表の松岡でございます。

第23話となる今回は、クラフトビール「よなよなエール」などを展開する株式会社ヤッホーブルーイングでマーケティング部門統括ディレクターなどを務める仮屋光馬さんをゲストにお招きします。

「100人に1人」というピンポイントなターゲットに深く刺さる製品を提供していくことを目指し、数多くのクラフトビールを市場に送り出しているヤッホーブルーイング。大手ビール会社とは一線を画すブランド戦略とファン作りの秘訣、そして「新しいビール文化」への挑戦について、マーケティングディレクターの視点で詳しく伺いました。

仮屋 光馬(かりや・こうま)

株式会社ヤッホーブルーイング

マーケティング部門統括ディレクター

仮屋 光馬(かりや・こうま)

慶應義塾大学理工学部を卒業後、2012年に株式会社資生堂に入社。工場にて生産業務に従事する傍ら、新規事業や新製品提案に関わる。2020年に株式会社ヤッホーブルーイングへ入社してからは、「僕ビール君ビール」のリニューアルやSonyMusicとのコラボなど、マーケティング・ブランディングを中心に担当。「裏通りのドンダバダ」や「正気のサタン」といった新製品の開発や各種ブランディング施策にも携わっている。

100人に1人に刺さるための深い顧客理解を重視

――ヤッホーブルーイングは独特なネーミングとデザインのクラフトビールを多く製品化しており、話題作りやファンマーケティングが上手な印象があります。まずは、そんなヤッホーブルーイングにおいて仮屋さんがどのような立場でどのような業務に携わっているかを教えていただけますか?

現在はマーケティング部門の責任者として、製品開発やそのプロモーションを中心とした領域に関わっています。当社ではマーケティングの種類によって担当部署が異なり、いわゆるファンマーケティングなどは別部署がメインで担当しているのですが、完全な縦割りではなく関連部署とも連携しながら進めているのが特徴です。

――ヤッホーブルーイングのブランド戦略は、「ビール業界」という括りで立てているのでしょうか?

はい、そうなります。ただ、ビール業界は誰もが知る大手企業が大部分を占めているので、そこに食い込むのは簡単ではありません。そんな中、ヤッホーブルーイングでは「ビールに味を!人生に幸せを!」というミッションを掲げ、日本に新しいビール文化を作ることを目指して事業活動を行っています。

――ヤッホーさんといえば、真っ先にクラフトビールを想起しますが、具体的に、どのような戦略を立てているのですか?

ビールという巨大な市場の中に「クラフトビール」という新しいカテゴリーを作り、そこで一番手になることが目標です。そのためには、他社が思いつかないような独自性の高いブランディング戦略が欠かせません。実際、最近では「クラフトビールといえば『よなよなエール』」という認知が順調に広まっていると感じています。

――確かに「よなよなエール」や「水曜日のネコ」といったネーミングやパッケージデザインはオリジナリティが溢れていますよね。

製品開発では、「100人に1人に深く刺さる」を大きな方針としています。当社の製品を手に取ってくれたお客様が100人いたら、そのうちの1人に製品の思いが伝わればOKということです。

――100人に1人ですか?ターゲットが1%というのはちょっと狭いのかなという気もしますが……。

そうですね。実際、この1%という数字を聞いて「ターゲットが少なすぎるのでは?」と言われることもあります(笑)。

――「深く刺さる」ことが大事であると。

「深く刺さる」とは、言い換えれば「深い共感を得る」ということです。確かにターゲットとしている人数は少ないかもしれませんが、ただ万人受けを狙うのではなく、「深い共感を得られる1人」に深く刺さる製品をつくるという意味があります。

例えば、最初に刺さった人からその周辺の人たちへ口コミなどで少しずつ認知が広まっていくとします。その時点では周辺の人たちに深く刺さらないかもしれないけど、「なんか良いかも」と思って手に取ってくれるようになれば、将来的にその1%になってくれる可能性が高まると思っています。なので、「100人に1人にしか刺さらない製品」をつくろうとしているわけではありません。

――なるほど。「100人に1人」から深く共感を得られる製品を作るために、どのようにマーケティングリサーチをしているのでしょうか。

当社のブランド開発に関するリサーチでは、定量よりも定性を重視しています。あたりをつけるために一定量のサンプルを集めるリサーチをすることもありますが、「100人に1人」を見つけるためには、その人を深く知ることが何よりも大切です。

――デプスインタビューやグループインタビューから入るイメージですね。

15~20人といった少人数に対し、1人2時間くらいかけてじっくりインタビューを実施します。このインタビューを通じて得られた情報をもとに、「本当にいる消費者」としてペルソナに落とし込んでいくんです。

――インタビュー対象者の選定はどのように行っていますか?

パネル調査や知人から見つけることもあれば、当社の公式通販サイト「よなよなの里」で購入してもらった会員さんに声をかけることもあります。

――話は変わりますが、大阪・泉佐野市のふるさと納税の返礼品をきっかけに「よなよなエール」や「ヤッホーブルーイング」を知ったという人も多いのでは? 私も毎年飲み比べセットを頼んでいますが、ブランドストーリーに関するリーフレットが同梱されていてとても印象的に残っています。

そうですね。実際、ふるさと納税から「よなよなエール」を知ってくれた人もいらっしゃいます。実は、当社とふるさと納税は深い関わりがありまして……。当社のビールを通じて地域の魅力を発信する施設を作るために、大阪・泉佐野市とふるさと納税型クラウドファンディングで寄付金を募ったんです。

――結果はどうでしたか?

おかげさまで無事に目標金額が集まりました。2026年夏までに、大阪府泉佐野市に「ヤッホーブルーイング大阪醸造所 よなよなビアライズ」という醸造所のオープンを予定しています。

顔が見えるコミュニケーションで「ぞっこん度」の高いファンを増やす

――ヤッホーブルーイングのクラフトビールの認知が広まったと感じたターニングポイントはありますか?

大きなターニングポイントは、コンビニに当社の製品が置かれるようになったことです。

1997年の創業当時は地ビールブームの真っただ中で、営業しなくても売れるほどでした。2000年に入ると地ビールブームは過ぎ去り、売上はどん底になってしまったんです。そのような状況でも諦めずに味の改良を重ね、2004年夏にはこれまで目を向けていなかった通販事業に力を入れることで少しずつファンが増え、業績が回復していきました。

――そのときに付いたファンの人たちは、なぜファンになってくれたのでしょうか?

ファンの人たちがなぜ当社のビールを好きになってくれたのか、当時は把握できていませんでした。それを知りたいと思い、2010年に初めてファンイベントを開催したんです。実際に購入してくれているお客様がどんな人なのか、どんな価値を感じてくれているのかを知りたかったんです。

――なるほど、ファンと交流できるコミュニティみたいなイメージですね。

このイベント後、さらに熱量の高いファンが増えました。そして2014年、コンビニ大手のローソンが当社のビールを定番製品としておいてくれるようになったんです。2014年にはローソンと共同開発した「僕ビール、君ビール。」が販売開始となり、これをきっかけにローソンで取り扱われるクラフトビールの種類も増えました。このようにコンビニで当社の製品を入手できるようになったというのが、大きなターニングポイントですね。

――ユーザーからブランドへの評価指標という点では、ヤッホーブルーイングならではの「ぞっこん度」という視点があると伺いました。どのようなものなのでしょうか?

ファンマーケティングを得意とするトライバルメディアハウスさんが作っていた「熱狂度」を参考に策定した、お客様のロイヤリティを測るための指標です。ぞっこん度には5段階あって、「すっかりハマッている」「なんとなく飲んでいる」といった尺度が分かるようになっています。当社のマーケティングにおいては、ぞっこん度が高いファンを増えていくことを目指していますね。

――KGIのような位置付けですね。それが「日本に新しいビール文化を作る」ことにどのようにつながるのでしょうか?

私たちが手掛けているのは単なるビールの製造・販売事業ではなく、ビールの製造・販売を中心としたエンターテインメント事業だと捉えています。ただクラフトビールを作るだけではなく、ビールにまつわる楽しみ方や新しい価値観などをどんどん広げていき、それに対するユーザーのぞっこん度を徐々に高めていくことで新しいビール文化の醸成につなげていきたいと考えています。

――なるほど。ぞっこん度は単なるファンとしての熱意の指標ではなく、ブランドのあり方への共感を示すものなのですね。そのデータは、どのように製品開発に活かしているのでしょうか?

まず、5段階のぞっこん度別にユーザーの特徴(傾向)をまとめます。「ぞっこん度が一番高い人はこういう楽しみ方をしてくれている」など、ぞっこん度が上がっていくカスタマージャーニーを整理・共有して次のアクションにつなげています。

――ぞっこん度が高いユーザーから直接意見を聞くような機会はあるのでしょうか。

そうですね。ぞっこん度が高いユーザーはイベントなどにも積極的に参加してくれているので、当社のスタッフと顔見知りであることが多いんです。実際、ぞっこん度が高いユーザーを対象に、ビールを飲みながらヤッホーブルーイングの今後について語り合う――といった交流イベントを開くこともあります。

――もはや、「ペルソナ」ではなく「リアルなファン像」なんですね。

まさにそうです! 製品開発時のペルソナも、実在の方を想定しているんですよ。熱量の高い方からいろいろ教えてもらった内容を、その後のイベント企画に反映することもあります。熱量の高いファンがヤッホーブルーイングの何に魅力に感じているかを常にキャッチアップし、ファンになってくれる可能性のある「100人に1人」のユーザーに向けて情報発信することを意識しています。

――ファンとの接点を作る上で、大切にしているコミュニケーションの形を教えてください。

「顔が見えるコミュニケーション」を大切にしています。メーカーと消費者という関係ではなく、同じミッションに向かって進んでいく仲間という認識ですね。

――それは素晴らしいですね。ただ、言うは易く行うは難し、なテーマだとも思います。リアルイベントではどんなことを意識されていますか?

イベント自体は、いつもオープンなものにすることを意識しています。「コンビニやスーパーで買ったことがあるだけで、そんなにヤッホーブルーイングのことを知らない」という人にも参加しやすくし、当社の世界観を体験してもらうことが一番かなと。

――世界観を体験することがブランドへの共感につながっていくと。

ファンは「作る」ものではないと思うんですよね。そもそも、会社が消費者を操作してファンを作るのは違うかなと。ミッションとそれを達成するためのプロセスをユーザーに直接伝え続けることで、自然と共感してくれる人が増えていくと考えています。

社内コミュニケーションも怠らず、フラットな組織構築を意識している

――「新しいビール文化を作る」というミッションに向けて、組織全体で意識していることはありますか?

このミッションを浸透させるためにも、フラットな組織であることを目指しています。

――フラットな組織を目指すにあたり、ヤッホーブルーイングならではの文化があれば教えてください。

そうですね……。独特な文化でいうと、社員同士がニックネームで呼び合うというものがあります。ちなみに私は「カーリー」と呼ばれています(笑)。

――ニックネームで呼び合う文化、難易度が高そうですが、面白いですね。

ほかにもコミュニケーション量を増やすための施策として、「雑談朝礼」をやっています。オフィスに集まって始業のタイミングから30分、仕事に関係ない雑談をするという取り組みです。

――それも面白いですね。「雑談朝礼」を通して、どのような効果が出ていますか?

雑談と言っても馴れ合うのが目的ではなく、仕事で言いたいことを議論し合える関係性を築きたいんです。個性を持ったメンバーたちが議論を重ねていくことで、イノベーティブな発想が生まれるかもしれないという期待があります。

――今後のビール業界における御社の展望について教えてください。

クラフトビールはまだまだニッチな存在ですし、一般的なビールに比べて飲んでいる人の割合も大きくありません。でも、過去に何回かブームと呼ばれる追い風はあり、そのたびに市場を大きくしてきました。ここ数年では、コロナ禍の巣ごもり需要でクラフトビールの売上が拡大したという例もあります。

ただ、クラフトビールの認知が高まったことに嬉しさはあるものの、「飲み続けてもらえない」という課題もあって。クラフトビールがより多くの人にとって身近な存在になるには、まだまだ厚い壁があるんだろうと思います。クラフトビールを皆さんの生活に取り込んでいただくために、イベントやメディアを活用してユーザーとのコミュニケーションを積極的に取っていきたいですね。

────「100人に1人」への深い共感と、「ぞっこん度」を軸にしたファンとの関係構築、そしてフラットな組織文化。これらがヤッホーブルーイングの独創性を支えていることが分かりました。新しいビール文化の創造への挑戦に、今後も注目していきたいです。本日はありがとうございました!

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INTERVIEW インタビュー

ファングリー代表の松岡がコンテンツ界隈の方たちをゲストに迎え、「ここだけの話」を掘り下げるインタビュー企画です。

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