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Interview

# 20

不登校は「才能」と捉え、学校に代わる新しい選択肢を開拓児童・生徒数3万人を目指すオルタナティブスクールの可能性

株式会社NIJIN

代表取締役

星野 達郎(ほしの・たつろう)

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コンテンツプロデュースカンパニーを標榜する株式会社ファングリー代表の松岡でございます。

第20話となる今回は、不登校の児童・生徒が通う小中一貫オルタナティブスクール「NIJINアカデミー」など、多様な教育事業を展開する株式会社NIJINの代表・星野達郎さんをゲストにお招きします。

「教育から国を照らす」ことを目指し、義務教育の変革に挑むNIJIN(ニジン)。星野さんは、独自の学習カリキュラムと質の高い教師陣を強みに、子ども・親・教師が幸せになる新たな教育の選択肢を提案しています。その独自のビジョンやマーケティング戦略について詳しくお聞きしました。

星野 達郎(ほしの・たつろう)

株式会社NIJIN

代表取締役

星野 達郎(ほしの・たつろう)

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1990年生まれ、神奈川県横浜市出身。千葉大学教育学部卒業後、JICA海外協力隊小学校教育隊員としてグアテマラに派遣。帰国後は青森県八戸市で小学校教諭として7年勤務。学校で暗い顔で過ごす子どもが多いことに国の未来を憂い、教育課題を仕組みから解決するために起業した。500名超の教師団体「授業てらす」や小中一貫オルタナティブスクール「NIJINアカデミー」を運営。著書に『教室の心理的安全性』(明治図書)がある。

義務教育にイノベーションを起こし、新しい教育ジャンルを開拓したい

──星野さんは、2023年に不登校の児童や生徒を対象としたオルタナティブスクール「NIJINアカデミー(以下、ニジアカ)」を開校されています。まずは、運営組織であるNIJINを立ち上げた背景についてお聞かせください。

日本では、小学校や中学校で自分を出せずに不登校になる児童や生徒が少なくありません。そのような子たちは、学校教育に対して希望を持てず、アンハッピーな気持ちを抱きがちです。そんな彼らが自分たちの個性を存分に発揮できる場として、義務教育の構造を変え、新しい教育の選択肢を作りたいという思いからNIJINを立ち上げました。

──公立小学校の教諭として働かれていた経験があるんですよね?

7年間勤務しました。でもそこで、教師としては自分のクラスしか変えられないという難しさに気付いたんです。

――勝手な印象で恐縮ですが、プロパーの公立学校の教諭が、「既存の義務教育の構造の上に立っていては、教育現場を変えられない」という思考にはなかなか至らない気がします。相当強い思いを持って起業されたわけですね。

はい。今は「既存の義務教育を変える」「新しい教育の選択肢を作る」というふたつの軸でさまざまな事業を行っています。事業は全部で13あり、それぞれの事業責任者に伴走しながら一緒に頑張っている状況です。

現代は少子化で子どもの数が減っているにもかかわらず、不登校の小中学生は年々増加し続けています。どう考えても、既存の義務教育の枠組みが時代に合っているとは言えませんよね。そこで、義務教育を児童・生徒、保護者、そして教師の皆さんにとって“よりハッピーなもの”に変えていくとともに、不登校の子向けの教育機関を社会実装し、新しいジャンルを開拓しています。

――13の事業展開はすごいですね。主軸となるのは「NIJINアカデミー」でしょうか?

そうですね。現在、NIJINで一番大きな事業は「NIJINアカデミー」という小中一貫オルタナティブスクールの運営です。2025年4月時点で、全国40都道府県から450名超の小中学生が入学しています。

もう少し詳細に言うと、ニジアカのターゲットは約35万人(2023年度)いるとされる不登校(※)の小中学生です。不登校というと「学校に合わない子」というイメージを持たれがちですが、私たちは「学校という既存の教育モデルでは輝いていないものの、学校以外では輝ける子たち」だと捉えています。

※全国の小中学校で30日以上欠席した子ども

2026年4月から、ニジアカでは高校が開校予定です。すでに競合の高校はいくつかありますが、それらは塾や予備校の関係者が立ち上げたもので、自分のように元教師が立ち上げる高校は初めてとなります!

――オルタナティブスクールというのは、いわゆる「サードプレイス」としての位置付けですか?

いや、学校でも自宅でもないサードプレイスではなく、“学校に代わる存在”という立ち位置です。厳密にはフリースクールに分類されますが、不登校の子どもたちを「学校に戻してあげる」といったコンセプトではなくて、学校では輝けなかった個性や才能にフォーカスを当てる、明確なビジョンと教育メソッドを持った教育機関として運営しています。

――「復学」を目標としているわけではないんですね。

そうなんです。ニジアカでは、「学校に対する不安などは解消できたけど、復学はしない」という子も少なくありません。不登校というのは、「教育の選択肢がなくて取り残された子」という考え方もあるんです。

とはいえ、開校から1年6ヶ月で130人程度は完全復学に至っています。なので、私たちはオルタナティブスクールという新しい選択肢を提供し、そのあとに学校に戻る・戻らないといった判断も柔軟にできる環境を築きたいと考えています。

NIJINは教師の新しいキャリアの選択肢としても確立している

――マーケティングの対象として、小中学生の保護者の理解を得ることも重要かと思いますが、どういう打ち出しをしているのでしょうか?

NIJIN独自のアピールポイントが、「持ち運べる教育」と「高い教師力」の2つです。前者はPCが1台あれば場所を問わず、文部科学省が目指す義務教育での学びを習得できる「メタバース教育」を取り入れていることです。後者は、子どもたちが持つ才能や個性を十分に輝かせられるように、公立や私立、国立の付属校に属するトップ層のさらに上をいくような優れた教師人材を確保していることです。

――なるほど。なぜそれほどまでに「高い教師力」を得られるのでしょうか?

求人には毎月200名以上の応募があります。合格倍率は33倍くらい。2024年度の東京都の小学校教員合格倍率は約1.1倍なので、ニジアカの教師になるのはかなり難関と言えるかと思います。まずはそこですね。優秀な人材だけを厳選して採用出来ています。

――すごい採用力ですね。それだけ先生たちにとっても魅力的な選択肢になっているということですね。

ありがとうございます。教師という職業における魅力的なキャリアパスが提示できていることも大きいですね。教師として活動しながらパーソナルスキルやビジネススキルを継続して高められるのもNIJINならではの価値と言えるかもしれません。

数十倍の倍率を勝ち抜いた優秀な先生が集まっていて、その先生たちの授業を受けられる――。こういうところからも、教育の質やスクールとして価値は理解していただけるんじゃないかなと思っています。

NIJINが考える「幸せ」は、自分というひとりの人間を形にすること

――NIJINのマーケティング戦略について教えてください。

ニジアカが目指す最終目標は、「児童・生徒数3万人」です。この数値を達成するために、3年間で3,000人に増やすことを直近のKPIとし、さまざまなマーケティング施策に落としていくことに今は注力しています。

また、リアル教室を増やせば増やすほど生徒数が増えるという流れになっていて、リアル教室の数もKPIのひとつにしています。1教室あたり約10人の児童・生徒がいるので、1000教室なら児童・生徒数は1万人になる計算です。現在は2,000教室を目指しています。

基本的なマーケティング戦略や施策自体は他社とそこまで変わらないと感じていますが、NIJINが他社と圧倒的に違うことがあります。それは、「不登校=不幸せ」だと思っている親子を幸せにするためのコミュニケーションを、「幸せの提案」として社内の共通言語にしている点です。

――何をもって「幸せ」と定義していますか?

過去に「世界から消えたい」と言い、現状に絶望していた子がいました。その子がニジアカに入学し、好きだった将棋で三段になったとき、「僕は中学校には行かないけどこういう仕事がしたい」と将来の夢を語ってくれたことがあったんです。そしてその夢に向けて「いつまでに」「何をするか」といったことを自身で言語化し、実行できるようになった。このように、自分という“個”を自分なりに確立できるようになることを、私たちは「幸せ」と定義しています。

――素晴らしいエピソードですね。ちなみに「幸せの提案」の具体例として、他にどのようなものがありますか?

先ほどもお伝えしたように、ニジアカではPC1台あれば全国どこからでもオンラインで学びを深められます。このように教育を「持ち運び可能」にしたので、例えば、「授業の合間に地域の料理教室に通う」「早朝にサッカー教室に行き10時から授業を受け、午後からまたサッカーをする」といった柔軟な学び方も可能になるわけです。

――好きなことをしながら、好きな場所で学べる。そこには再現性があるわけですね。

そうです。マーケティングの観点から言うと、これまで「朝8時から夕方4時まで」の学校生活に拘束される時間帯は、誰もそこにマーケットが広がっているとは考えていませんでした。ですが、NIJINとタッグを組むことで、これまで企業が諦めていた時間帯が商機に変わるとも言えるのです。

すべての小中学生にとって、ニジアカが学校に代わる選択肢となる。これが、「不登校=不幸せ」と感じている親子へ向けた「幸せの提案」だと考えています。

――お話を伺っていると追い風が吹いているようにも感じますが、それを阻む壁として「子どもはきちんと小学校に通うもの」という保護者の同調圧力がありそうです。

はい、おっしゃる通りで、「子どもはきちんと小学校に通うもの」といった同調圧力はめちゃくちゃ強いです。より良い教育の普及という点で、そこにはどんどん抗っていきたいですね。

ただ、NIJINアカデミーは2023年9月に開校したばかり。ニジアカの卒業生が実際に社会で活躍するのはもう少し先の話なんです。彼らが25歳や30歳になって、「こんなに楽しく生きている」「こんな仕事で稼げている」「こんな生活ができている」ということを成功事例として社会に示してくれれば、また違ったマーケティングアプローチが可能になると思っています。

YouTubeやnoteを活用したインナーブランディングが効果的

――星野さんは「タツロー校長」としてYouTubeでも積極的に情報発信しています。こちらはブランディングに役立っていますか?

かなり効果があると思っています!実際にNIJINの採用面接に来てくれる人の中には、私がYouTubeで言った話を全部覚えてくれている人もいるんですよ。コンテンツを200時間近く見てくれた人は、当たり前ですが、こちらが驚くほど解像度が高い。入社後は一から企業理念を教え込む時間がないので、YouTubeはインナーブランディングの良い教材になっています。

――――客観的に見て、演出も含めてかなりインパクトあります(笑)メッセージとしては強烈だと思います。教師だけにトークもお上手ですし。そのほか、noteでの発信も積極的です。

noteは、社員育成の一環としてやっています。ニジアカには一般の小中学校のような通知表がなく、その子の“ありたい姿”を観察して、それを教師がnoteで自由に表現するというスタイルを取っていますので。

――独特の社員育成手法ですね!

半年間ひとりの子に徹底的に向き合い、「noteに何書こうかな」と考えながら子どもと接することで、実際に児童・生徒一人ひとりの個性を存分に表現できているんです。

――先生方の評価は、どのようにされているんですか?

週1回実施する教師間の会議で、4~5人ほどの少人数のグループに分かれ、「幸せの提案」に関するディスカッションを行っているんです。このディスカッションでの発言や、noteでの発信内容などを含め、どれだけの子どもたちの「主体」を約束できているかが評価対象となっています。

――NIJINの今後のビジョンとして、既存の義務教育の仕組みを変えていきたいというお話がありました。具体的なプランやビジョンがあれば教えてください。

近年、とくに地方では「(統廃合により)学校が遠くなって通うのが大変」「保護者による送迎の負担が大きい」という状況から、授業のオンライン化も強く望まれています。また、先生がひとつの学校だけに所属するのではなく、副業として複数の学校に所属するといった多様な働き方を求める声も出てきており、そういったスタイルが普通になる未来が、すぐそこまで来ています。

とはいえ、一般的な小中学校のほとんどは、そのための準備がまだできていない。その状態では、ちゃんとした教育を届けられません。NIJINにはそういったスタイルで質の高い教育を提供している実績があるので、先行企業として業界を積極的にリードしていきたいですね!

──星野さんの元教師としての経験に基づいた「不登校は才能」という信念と、「幸せの提案」としての教育モデルが印象的でした。義務教育に新たな風を吹き込むNIJINの挑戦から、今後も目が離せません。本日はありがとうございました!

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INTERVIEW インタビュー

ファングリー代表の松岡がコンテンツ界隈の方たちをゲストに迎え、「ここだけの話」を掘り下げるインタビュー企画です。

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