新規顧客の獲得が難しくなる中、多くの企業が「既存顧客との関係強化」に注力し始めています。長期的な関係を築くことで、リピート購入を促し、口コミを通じた新規顧客獲得につなげる動きがますます加速しています。
そこで重要になるのが「カスタマーマーケティング」です。これは、新規顧客の獲得にフォーカスするのではなく、すでにブランドと接点を持つ顧客に対し、ロイヤルティ向上の施策を行うマーケティング手法を指します。
本記事では、カスタマーマーケティングの基本概念から、実際の成功事例、そして効果的に実施するためのポイントや注意点について詳しく解説します。
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カスタマーマーケティングとは、新規顧客の獲得ではなく、すでにブランドを利用している既存顧客を対象にしたマーケティング手法です。企業が顧客との長期的な関係を築くことで、ロイヤリティ(ブランドへの愛着や信頼)を高めることを目的としています。
カスタマーマーケティングの具体的な内容には、以下のようなものがあります。
なお、既存顧客の口コミによる新規顧客の獲得も、カスタマーマーケティングのひとつです。
従来のマーケティングは「新規顧客をいかに増やすか」に重点を置いていました。一方、カスタマーマーケティングは「既存顧客との関係をいかに深めるか」にフォーカスしている点が大きな違いです。
従来のマーケティング | カスタマーマーケティング | |
---|---|---|
対象 | 新規顧客 | 既存顧客 |
目的 | 顧客獲得 | 顧客の定着・ファン化 |
施策 | 広告、SEO、SNS運用 | オンボーディング、コミュニティ形成、カスタマーサポート |
近年、企業の成長戦略において「既存顧客との関係を深めること」がますます重要視されています。ここでは、カスタマーマーケティングが注目される背景を4つの視点から解説します。
新規顧客を獲得するための広告費やマーケティングコスト(CAC:顧客獲得コスト)は、年々上昇しています。そのため、一度獲得した顧客と長期的な関係を築き、LTV(顧客生涯価値)を最大化することが、企業の持続的な成長に欠かせません。
リピート率の高い顧客を育てることで安定した売上が見込めるため、既存顧客とのエンゲージメントを高めるカスタマーマーケティングの重要性が増しています。
SNSの普及により、企業が発信する広告よりも実際の顧客が発信する口コミやレビューの方が影響力を持つようになりました。
特にUGC(ユーザー生成コンテンツ)は、リアルな体験に基づいた情報であるため信頼性が高く、他の消費者の購買行動に大きな影響を与えます。
定額でサービスを利用できるという「サブスクリプション型ビジネスモデル」は、音声コンテンツ配信サービスのSpotifyや、動画配信サービスのNetflixなどBtoC向けサービスだけではありません。BtoB領域においても、広く採用されているのです。
このビジネスモデルでは、契約が継続する限り安定した売上が見込めるため、顧客の解約を防ぐことが収益の安定化に直結します。そのため、顧客がサービスを継続利用できるよう、適切なサポートを提供するカスタマーマーケティングの役割が重要になっています。
サブスクリプション型ビジネスや、インターネット経由で利用できるソフトウェアやサービス「SaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)」では、顧客に継続的にサービスを利用し続けてもらうことで安定した収益を見込めます。そのため、売って終わりではなく、顧客が成功体験を得られるよう支援するカスタマーサクセスの考え方が重視されているのです。
このように、現代は新規獲得にとどまらず、既存顧客との関係を深めることが企業の成長につながる時代となっています。カスタマーマーケティングを強化することで、顧客満足度を向上させ、ビジネスの持続的な発展を実現することができます。
カスタマーマーケティングを実施することで、具体的にどのようなメリットがあるでしょうか。ここでは、カスタマーマーケティングがもたらす6つのメリットを詳しく解説します。
カスタマーマーケティングを強化することで、顧客がブランドに愛着を持ち、長期的な利用を促すことが可能です。例えば、ロイヤルティプログラムを導入し、購入金額や回数に応じた特典を提供すれば、「また利用したい」と思う顧客は多いでしょう。
また、メールマーケティングやSNSを活用してパーソナライズされた情報を届ければ、「このブランドは自分に合っている」と感じてもらいやすくなります。結果として、顧客が競合に流れるのを防ぎ、安定した関係を築くことができます。
LTV(Lifetime Value:顧客生涯価値)とは、一人の顧客が企業にもたらす総売上を指します。カスタマーマーケティングを強化することで、顧客の購入頻度や購入単価が向上し、LTVを最大化できます。
例えば、定期購入プランを提供すれば、一度の購入で終わらず継続的な売上が期待できるでしょう。また、過去の購入履歴をもとに関連商品を提案するクロスセル(追加購入促進)やアップセル(上位商品への誘導)によって、顧客1人あたりの売上を伸ばすことも可能です。
どれだけ新規顧客を獲得しても、既存顧客が離脱してしまえば事業の成長は難しくなります。特にSaaS業界では、チャーンレート(解約率)の低減が大きな課題となっています。このような状況においても、定期的に顧客の利用状況を確認し、適切なタイミングでサポートを提供すれば満足度向上につながります。
例えば「ツールを使いこなせないために解約する」といったケースが多い場合には、導入初期のサポートを手厚くするなど、顧客の成功を支援して長期利用を促進しましょう。
顧客が自発的にブランドについて発信することで、広告を使わなくてもブランドの認知度が向上します。特に、SNS上でユーザーが投稿する写真やレビューは、他の潜在顧客に対して強い影響力を持ちます。
例えば、D2C(Direct to Consumer)ブランドが「#○○キャンペーン」などのハッシュタグを活用してユーザーに商品の使用感を投稿してもらえば、自然な形でブランドの魅力が広がるでしょう。顧客がブランドのファンとして積極的に発信する仕組みを作ることで、広告コストを抑えながら新規顧客を獲得できる可能性が高まります。
一般的に、新規顧客を獲得するコストは既存顧客の維持コストよりも高いと言われています。カスタマーマーケティングを活用すれば既存顧客のリピート率を向上させることができ、新規顧客獲得にかかるマーケティングコストの削減が可能です。
さらに、紹介制度やリファラルマーケティングを活用し、既存顧客に新しい顧客を紹介してもらう仕組みを整えれば、広告費をかけずに自然と顧客基盤を拡大できます。
市場が成熟し、競合が増えている現代では、価格競争に巻き込まれるリスクが高まっています。しかし、カスタマーマーケティングを通じて「このブランドだから利用し続けたい」と思わせる独自の価値を提供することで、価格以外の要素で競争優位性を確立できます。
例えば、Appleが製品そのものだけでなく、Apple Storeでのサポート体制やコミュニティを強化しているのも、顧客ロイヤルティを高めるための戦略のひとつです。
カスタマーマーケティングにはさまざまな手法がありますが、特に重要な施策が「オンボーディング施策」「リテンション施策」「コミュニティ施策」の3つです。
オンボーディング施策とは、自社サービスを導入したばかりの顧客に対し、スムーズに活用できるようサポートする施策です。
導入初期に適切なフォローを行わなければ、「使い方が分からない」「メリットを感じられない」といった理由で解約につながる可能性があります。
▼オンボーディング施策例
施策例 | 内容 |
---|---|
マニュアル・チュートリアル動画の提供 | 基本操作や活用方法を分かりやすく伝える |
FAQページの整備 | よくある質問をまとめ、自己解決をサポート |
チャットボットの活用 | リアルタイムでの疑問解決を支援 |
導入支援セミナーの開催 | 活用事例を交えながら、顧客がスムーズに使い始められる環境を整える |
リテンション施策とは、一度サービスを利用した顧客が継続して価値を感じられるようサポートし、解約を防ぐ施策です。
顧客がサービスを長く利用することで、LTV(顧客生涯価値)の向上につながります。
▼リテンション施策例
施策例 | 内容 |
---|---|
活用事例の発信 | 他の顧客の成功体験を共有し、より効果的な使い方を提案 |
契約更新時のキャンペーン | リピート率を高めるためのインセンティブを提供 |
定期的なセミナー | ウェビナー開催:新機能の活用方法や業界トレンドを紹介 |
アンケートの実施・フィードバックの収集 | 顧客の声を聞き、サービス改善に活用 |
コミュニティ施策とは、顧客同士が交流できる場を提供し、ブランドへの愛着を深めてもらう施策です。
特にBtoC向けのサービスでは、SNSやリアルイベントを活用したコミュニティ形成が有効です。
▼リテンション施策例
施策例 | 内容 |
---|---|
オンラインコミュニティの開設 | SNSや専用フォーラムで顧客同士が情報交換できる場を提供 |
顧客との共同開発 | ユーザーの声を反映し、新サービスや機能を開発 |
新機能や新サービスのモニター募集 | 顧客の意見を取り入れ、より良い製品を提供 |
リアルイベントの開催 | ユーザー同士の交流を深める場を設け、ブランドのファンを増やす |
実際にカスタマーマーケティングを活用し、成果を上げた企業の事例を紹介します。具体的な取り組みや成功のポイントを見ていきましょう。
課題 | ・サービス導入後に利用度が低い企業では、解約率が高い傾向にある ・名刺管理サービスの特性上、利用が定着しないと継続率が上がらない |
施策 | ・オンボーディングプロセスの強化 ・カスタマーサクセスツールの導入 |
成果 | ・解約率を0.60%に抑えることに成功 ・利用が定着した企業では、追加ライセンスの購入が増加し、LTVが向上 |
Sansan株式会社は、法人向けのクラウド名刺管理サービスを提供する企業です。
同社のサービスは、顧客が適切に活用しなければそのメリットを実感しにくい特性があり、導入初期のフォローが極めて重要でした。
そこで、オンボーディングプロセスの強化とカスタマーサクセスツールの導入という2つの施策を実施。まず、操作方法の説明会や成功事例の共有を積極的に行い、顧客がスムーズにサービスを活用できるよう支援します。さらに、カスタマーサクセスの最先端企業であるGainsight社のツールを導入し、顧客の利用状況をデータ分析しながら、適切なタイミングでサポートを提供する体制を構築しました。
これらの施策により、解約率は0.60%まで抑えることに成功し、利用が定着した企業では追加ライセンスの購入が増加し、LTV(顧客生涯価値)が向上する成果も得られました。
課題 | ・顧客のリピート購入を促進し、LTV(顧客生涯価値)を向上させたい ・競争が激化するEC市場で、顧客のロイヤルティを高める施策が必要 |
施策 | ・「Amazonプライム」を導入し、特典を提供して継続利用を促進 ・購買履歴や閲覧データを活用したパーソナライズド・レコメンデーションを強化 |
成果 | ・Amazonプライム会員の継続率が向上し、売上の大部分を占めるようになった ・顧客の利便性向上により、購入頻度と平均注文額が増加した |
世界最大級のECサイトを運営するAmazon.com, Inc.。
リテンションマーケティングの施策として、顧客の購買履歴や閲覧データを活用し、パーソナライズされた商品提案を行っています。過去に購入した商品に関連するアイテムをおすすめするメールを配信したり、「この商品を買った人はこんな商品も買っています」といったレコメンド機能を提供したりすることで、継続的な購入を促進しています。
さらに、顧客対応の強化にも注力。配送の遅延や商品の破損といったトラブルに対して、チャットや電話で迅速かつ丁寧に対応することで、顧客の満足度を向上させています。加えて、Amazonプライム会員制度を導入し、送料無料や動画・音楽配信サービスなどの特典を提供することで、長期的な顧客の定着を実現しました。
これらの施策により、アメリカではAmazonで買い物をする顧客の88%が検索エンジンを使わず、直接Amazonにアクセスするという高いリテンション率を達成。リテンションマーケティングに戦略的に取り組むことで、顧客との関係を強化し、持続的な成長を実現した好例と言えるでしょう。
出典:https://labo.basefood.co.jp/view/home
課題 | ・定期購入者の継続率を向上させる必要があった ・顧客との接点を増やし、ブランドのファンを育成する仕組みが不足していた |
施策 | ・会員限定のコミュニティを開設し、顧客同士の交流を促進 ・SNSを活用した情報発信や、食生活改善の提案を行い、継続利用をサポート |
成果 | ・2024年には5万人を超える規模に成長 ・コミュニティ参加者は非参加者と比べてLTV(顧客生涯価値)が1.8倍高い |
ベースフード株式会社は、完全栄養食を提供するフードテック企業です。
主力商品である「BASE FOOD」は、継続的な摂取によって健康効果を実感しやすい特性があるため、顧客との長期的な関係構築が重要でした。そこで、コミュニティマーケティングを強化し、ファンとのエンゲージメントを高める施策を展開。
具体的には、2018年にユーザーコミュニティ「BASE FOOD Labo」を立ち上げました。顧客同士がアレンジレシピを共有したり、商品改善に関する意見交換を行ったりできる場を提供しています。さらに、新商品のアイデア募集を通じて、ユーザーの声を商品開発に反映させる取り組みも行いました。
その結果、コミュニティに参加している顧客のLTV(顧客生涯価値)は、非参加者と比較して約1.8倍に向上。既存顧客のロイヤルティを高めることで、継続的な購買を促し、事業の成長につなげることに成功しました。
適切に実施すればビジネスの成長を加速させるカスタマーマーケティング。しかし、誤ったアプローチでは期待した成果が得られず、逆効果を招くこともあります。
ここでは、よくある失敗の具体例と対策法について解説します。
マーケティング施策を実施する際に、顧客のニーズや課題を十分に理解せずに進めると、的外れな施策になってしまい、期待した成果を得られません。
例えば、顧客が「使い方が難しい」と感じているのに、新機能の追加ばかりをアピールしてしまうと、根本的な課題が解決されず、顧客の満足度は向上しません。また、特定の顧客層だけにフォーカスしてしまい、他の重要な顧客グループを見落としてしまうケースもあります。
▼具体的な施策
・定期的なアンケートやインタビューを実施し、顧客の声を直接収集する ・行動データを分析し、顧客の実際の利用状況を把握する ・カスタマーサポートとの連携を強化し、顧客の課題をリアルタイムで把握する |
カスタマーマーケティングは、企業が顧客に対して一方的に情報を発信するのではなく、双方向のコミュニケーションを取ることが重要です。しかし、顧客のフィードバックを無視したり、画一的なメッセージを送るだけでは、関心を持ってもらえず、顧客エンゲージメントが低下してしまいます。
例えば、すべての顧客に同一内容のメールを送ると、「自分には関係ない情報」と判断され、開封率や反応率が下がってしまうことも。SNSやカスタマーサポートで発信された顧客の意見に対し、適切な対応をとらないと不満が蓄積されてしまいます。
▼具体的な施策
・顧客の属性や行動データに基づく、パーソナライズされたメッセージを送る ・SNSやフォーラムでの顧客の声に積極的に対応し、関係性を深める ・顧客が気軽に意見を共有できる仕組み(アンケート・コミュニティなど)を用意する |
カスタマーマーケティングは、顧客との長期的な関係を築くことが目的ですが、短期的な売上向上を優先しすぎると、逆効果になることがあります。
例えば、頻繁に割引キャンペーンを実施すると、顧客が「通常価格では購入したくない」という気持ちになり、長期的な収益が低下してしまいます。また、新規顧客の獲得に力を入れすぎるあまり既存顧客へのフォローが疎かになると、解約率や離脱率が高まる恐れがあります。
▼具体的な施策
・短期的なKPI(売上・契約数)だけでなく、LTV(顧客生涯価値)も指標として重視する ・施策に頼らず、サービスの付加価値を高めるマーケティング戦略を検討する ・既存顧客向けの特典やロイヤルティプログラムを充実させる |
顧客を巻き込む形のマーケティング施策を実施する際、やり方を誤ると、かえって負担を感じさせてしまうことがあります。
例えば、オンラインコミュニティを立ち上げても、顧客に積極的な参加を強要したり、必要以上に投稿を促すと逆にストレスを与えてしまうことも。また、アンケートやフィードバック収集を頻繁に行いすぎると、「何度も聞かれて面倒」と思われてしまい、逆効果になってしまうこともあります。
▼具体的な施策
・顧客にとって「楽しく」「自然に」参加できる施策を設計する ・フィードバック収集の頻度や方法を工夫し、負担を減らす ・ユーザーの自主的な参加を促すインセンティブ(ポイントや特典)を用意する |
カスタマーマーケティングは、一度施策を実施しただけで終わりではなく、効果を測定しながら改善していくことが重要です。しかし、適切なKPIを設定せずに施策を進めると、何が成功要因で何が課題なのかが分からず、改善につなげることができません。
例えば、メールマーケティングを実施した際に確認する指標が、「開封率」や「クリック率」だけでは不十分です。最終的なコンバージョン(購入や継続利用)にどう影響したのかを分析しないと、本当に効果があったのか判断しにくくなります。
▼具体的な施策
・施策ごとに適切なKPIを設定し、継続的にモニタリングする ・A/Bテストを実施し、どの施策がより効果的か検証する ・データに基づいた改善サイクル(PDCA)を確立する |
優れたサービスや商品を提供していても、それだけでは継続的な成長が難しい時代。多くの企業が顧客獲得やロイヤルティ向上に課題を抱えているのではないでしょうか。新規顧客の開拓はもちろん重要ですが、既存顧客との関係を深めるカスタマーマーケティングこそ、ビジネスの持続的な成長に欠かせない要素となっています。
「具体的な施策を実行したいが、どこから着手すればいいのか分からない……」とお悩みの企業様は、ぜひ株式会社ファングリーにご相談ください。データ活用からエンゲージメント施策、オムニチャネル戦略の最適化まで、貴社のカスタマーマーケティングを推進するための具体的なコンテンツ施策をご提案いたします。まずは、お気軽にお問い合わせフォームよりご相談ください。
執筆者
コンテンツディレクター/ライター
MIHO SHIMMORI
2023年ファングリーに入社。以前はWebマーケティング会社で約2年半コンテンツマーケティングに携わり、不動産投資メディアの編集長を務める。SEOライティングが得意。ほかにも士業関連や政治など複数メディア運営の経験あり。Z世代の端くれ。趣味はサウナと競馬と街歩き。
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