本記事では、マーケティング戦略の核となる「ターゲティング」について解説します。定義や重要性、具体的な手法(フレームワーク)、さらに実際の成功事例までを網羅。
「自社の商品・サービスを『どの顧客に届けるべきか』が曖昧になっている」
「ターゲットが不明瞭で、マーケティング施策の効果を最大化できない」
このように悩むマーケティング担当者の方に向けて、成果につながるターゲティングの方法を紹介します。
この記事を読めば、STP分析におけるターゲティングの役割を理解し、自社のリソースを集中させるべき顧客層(市場)を特定できるようになります。
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ターゲティング(Targeting)とは、マーケティング戦略において、自社の商品やサービスを提供する対象となる顧客層(市場セグメント)を選定することを指します。
すべての顧客を対象にするのではなく、自社の強みを最大限活かせる市場で、かつ顧客ニーズに応えられる可能性の高い層に焦点を絞ります。これによって、マーケティング活動の効率と効果を高めることが可能です。
ターゲティングは、マーケティング戦略立案でよく使われるフレームワーク「STP分析」の2番目のプロセスにあたります。
STP分析は、以下の3つのステップで構成されます。
| S:Segmentation(セグメンテーション) | 市場や顧客を、年齢、性別、ニーズ、行動パターンなどの共通項で分類・細分化する |
| T:Targeting(ターゲティング) | 細分化した市場の中から、自社が狙うべき市場(ターゲット)を選定する |
| P:Positioning(ポジショニング) | 選定した市場(ターゲット)の中で、競合他社との差別化を図り、自社の立ち位置を決定する |
つまり、セグメンテーションで市場の全体像を把握したあとに、「どの市場(顧客層)で戦うか」を決めるのがターゲティングです。このターゲット選定が曖昧だと、次のポジショニングも不明確になり、結果として誰にも響かないマーケティング戦略になってしまいます。
ターゲティングとともに、マーケティングでよく使われるのが「ペルソナ」です。どちらも「顧客」を定義する手法ですが、解像度(具体性)と目的が異なります。
| ターゲット | ペルソナ(個人) | |
|---|---|---|
| 定義 | 特定の属性やニーズを共有する「顧客層(集団)」 | ターゲット層をより具体化し、実在する人物のように詳細に設定した「架空の個人像」 |
| 例 | 都内在住の30代女性、共働きで、時短家電に関心がある層 | ・氏名:佐藤愛・年齢:34歳・住所:渋谷区・職業:IT企業のマーケティング職・家族構成:夫、3歳の娘・抱える悩み:仕事と育児の両立に悩み、平日の夕食準備を効率化できる調理家電を探している |
ペルソナでは氏名や年齢、職業、家族構成、趣味、価値観、情報収集の方法、抱えている具体的な悩みまで詳細に設定します。
ターゲットが「面」であるのに対し、ペルソナは「点」とイメージすると分かりやすいでしょう。
マーケティング戦略を策定する際は、まずSTP分析で大まかなターゲット(集団)を選定し、戦略の方向性を定めます。
その後、選定したターゲット層のユーザーインサイトを深く理解し、広告クリエイティブやWebコンテンツ、UXデザインなどの具体的施策に落とし込むために、詳細なペルソナ(個人)を設定するのが一般的な流れです。
BtoC(消費者向け)マーケティングと同様に、BtoB(企業向け)マーケティングにおいてもターゲティングは欠かせません。ただし、BtoBにはBtoCと異なる特徴があり、ターゲティングのアプローチも変わってきます。
BtoBでは、製品やサービスの導入決定に複数の関係者や部署が関与することが一般的です。例えば、実際にサービスを使う「利用者」、導入を検討する「情報収集者」、予算を管理する「決裁者」などが存在します。このような意思決定関与者は、「DMU(Decision Making Unit)」とも言います。
ターゲットを選定する際は、企業全体だけでなく、DMUのどのポジションにアプローチするかを意識する必要があるのです。
BtoCでは、好みや流行などの情緒的要素で購買が決まることがあります。これに対してBtoBでは、「コスト削減」「生産性向上」「売上拡大」といった企業課題の解決に直結する合理的な理由が重視されます。
ターゲティングの際も感情的なニーズではなく、企業が抱える具体的な課題(ペイン)を軸に設定することが大切です。
BtoBでは、個人の属性よりも企業属性(ファーモグラフィックス)が、セグメントの主要な軸となります。
具体的には、「業種」「業界」「企業規模(従業員数、売上高)」「導入済みシステム」などが挙げられます。
マーケティングにおいて、なぜ市場を絞り込むターゲティングが重視されるのでしょうか。
ここではその背景と、ターゲティングがもたらす具体的なメリットを解説します。
現代はモノや情報があふれ、消費者の価値観や嗜好も非常に多様化しています。さらに、スマートフォンの普及やSNS、生成AIの発展などにより、ユーザーが触れる情報源や購買行動は複雑化しています。
こうした状況下では、かつての「すべての人に向けたマス・マーケティング」は、コストがかかる割に効果が出にくくなっています。「優れた製品を作れば売れる」時代は終わり、「顧客のニーズを深く理解し、的確に応える戦略」が不可欠になったのです。
ターゲティングはこの「的確に応える」ための第一歩であり、効率的なマーケティングを実現する鍵となります。
ターゲットが明確でなければ、広告やSNS運用、コンテンツ制作、営業活動など、個々のマーケティング施策がバラバラの方向を向いてしまうリスクがあります。
例えば、SNSでは若年層向けに発信しているのに、Web広告ではシニア層向けのメッセージを出すと、顧客に伝わるブランドイメージがブレます。これでは、信頼性やエンゲージメントは築けません。
ターゲティングによって「誰に価値を届けるか」という軸を明確にすることで、すべての戦略に一貫性が生まれ、強力なブランドイメージの構築につながります。
ターゲットを絞らず「すべての人」を対象にすると、メッセージが大雑把になり、結果として「誰の心にも響かない」という事態に陥りかねません。
限られた予算とリソース(人員、時間)の中で成果を出すには、自社の商品やサービスを最も高く評価してくれる可能性のある顧客層に集中してアプローチすることが賢明です。
ターゲットを絞り込むことで、その層に最適化されたメッセージを作成でき、広告やプロモーションの無駄打ちを減らせます。結果として費用対効果(ROI)が高まり、マーケティングの効果を最大化できます。
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ターゲティングは有効な戦略ですが、設定方法を誤ると期待した効果が得られません。ここでは、よくある失敗例と成功のためのポイントを解説します。
もっとも多い失敗は、ターゲットを絞りきれず「広すぎる層」を設定してしまうこと。
「できるだけ多くの人に売りたい」という心理が働き、「すべての人」や「〇〇に関心のあるすべての人」といった広すぎるターゲット設定をしてしまうケースです。こうした設定はメッセージをぼやけさせ、結果として誰にも届かなくなります。
ターゲティングの本質は「選ぶこと」であると同時に、「捨てること」でもあります。自社のリソースで対応できない層や、ニーズが合致しない層は勇気を持ってターゲットから外すことが成功への鍵です。
「30代男性、会社員」といった性別や年齢、職業などのデモグラフィック情報だけでターゲットを決めるのは不十分です。
同じ「30代男性、会社員」でも、「キャリアアップに意欲的で自己投資を惜しまない人」と「プライベートを重視し、趣味にお金を使う人」では、求める商品や響くメッセージは全く異なります。
行動(ビヘイビアル:購買履歴、Web閲覧履歴など)や、価値観・ライフスタイル(サイコグラフィック:心理的変数)など、ユーザーの深いニーズ(インサイト)まで捉えてターゲットを設定することが重要です。
「捨てる勇気」は大切ですが、逆に市場を絞りすぎると採算が取れないほどニッチな層に偏ってしまうことがあります。
ターゲットとして選定する市場は、自社の事業が成立するだけの最低限の規模(顧客数や潜在的な売上)を持っている必要があります。フレームワーク「6R」の「Realistic Scale(有効な市場規模)」の視点を意識しながら判断することが求められます。
ターゲティングは感覚に頼るのではなく、客観的な分析に基づいて行うことが重要です。ここでは、ターゲット設定に役立つ代表的なフレームワークを紹介します。
▼ SEOコンテンツにおけるターゲティング(ターゲット設定)は、以下の記事をご覧ください。
ターゲティングを行う前に、自社が置かれている状況を客観的に把握する必要があります。その際に有効なのが「3C分析」です。
3C分析とは、以下の3つの視点で市場を評価する手法です。
| 1. Customer(市場・顧客) | 自社が参入する市場の規模や成長性を確認し、顧客のニーズや課題、購買決定プロセスを分析する |
| 2. Competitor(競合) | 市場にどのような競合他社が存在するかを把握し、競合の強み・弱み、シェア、戦略を分析する |
| 3. Company(自社) | 自社の強み(技術力、ブランド力、リソースなど)や、弱みを客観的に評価する |
この3つの視点から分析することで、「市場のニーズがあり、競合が満たせていない領域で、かつ自社の強みを活かせる領域(KFS)」を特定できます。KFSはターゲティングの方向性を定める指針となります。
3C分析で大まかな方向性が見えたら、次はセグメンテーション(市場細分化)で抽出した複数の市場セグメントを評価し、具体的にターゲット市場を決定します。
この選定プロセスで役立つのが「6R」というフレームワークです。6Rは、市場の魅力を評価する6つの指標の頭文字から成り立っています。この6つの観点から市場セグメントを総合的に評価することで、自社にとってもっとも魅力的なターゲット市場の選定が可能です。
市場の顧客層にとって、自社の商品やサービスがどれほど優先度の高いものか(ニーズが強いか)を評価します。
また、市場規模が小さくても、インフルエンサー的な存在がいる場合は波及効果(Ripple Effect)を考慮し、優先度を高く設定できます。
市場が自社のビジネスを成立させるだけの十分な規模(顧客数、潜在売上)を持っているかを評価します。ニッチすぎないかを確認する視点です。
現在は小規模でも将来的に成長が見込める市場かを評価します。
スマートフォンの登場でアプリ市場が爆発的に成長したように、技術革新や社会情勢の変化によって急成長する市場もあります。成長初期に参入できれば、大きなシェアを獲得できるチャンスがあります。
自社がターゲット市場に対して、物理的・チャネル的にアプローチ可能かを評価します。
どれほど魅力的な市場でも、自社の営業網が届かない地域であったり、ターゲット層が利用する特定のSNSを自社が運用できなかったりする場合、現実的なアプローチは困難です。
市場における競合他社の状況を評価します。すでに強力な競合(ガリバー企業)が独占している場合は参入が難しい一方、競合が少ない市場や不満を抱える顧客がいる場合は、差別化により勝機があります。
広告や販売促進などのマーケティング施策を実施した際に、売上やコンバージョンなどの反応を測定できるかを評価します。
効果測定が困難な市場では、施策の改善(PDCA)が回しにくくなります。アンケートやアクセス解析などでデータを収集できる手段を確保しておくことが重要です。
当メディア「C-NAPS」のインタビューからも、明確なターゲティング戦略によって独自の市場価値を築き、ファンとの強い関係を生み出している企業の事例を紹介します。
クラフトビール「よなよなエール」で知られるヤッホーブルーイングは、大手メーカーが9割以上のシェアを占めるビール市場で、独自のターゲティング戦略を展開しています。
同社の方針は、「100人のうち99人に幅広く受け入れられるよりも、残りの1人に深く共感してもらう」こと。つまり、万人向けを狙うのではなく、強い共感を得られる顧客層を明確に定めています。
例えば「水曜日のネコ」という製品は、従来のビールユーザーではなく、「週の真ん中にリラックスしたい」と感じる層(ビールを普段飲まない層も含む)のライフスタイルやインサイトに着目して開発されました。
このようにターゲットをあえて絞り込むことで、その層の心に深く刺さるユニークな製品開発とブランディングを可能にし、熱狂的なファンコミュニティの形成に成功しています。
▼ ヤッホーブルーイングのブランディング・マーケティングについては以下記事をご覧ください。
日用品大手のライオン株式会社は、マス・マーケティングで培った技術を活かし、あえてニッチな市場へ参入するターゲティング戦略も展開しています。
その一例が「フットケア事業」への参入です。ライオンは、足疾患の悩みを抱えながら、適切なケアを受けられていない潜在的な顧客が国内に約100万人存在することに着目。この「特定の深い悩みを持つ層」をターゲットに据えました。
マス市場では見過ごされがちなニーズに対し、オーラルケアなど自社の強みを応用した製品を開発。結果として、競合の少ない分野で確かな需要をつかみ、高付加価値なサービス展開に成功しています。
▼ ライオンのブランディング・マーケティングについては以下記事をご覧ください。
「味ぽん」などで知られるミツカンは、社会や生活様式の変化に合わせてターゲティングを柔軟に見直し、既存ブランドの新たな需要を生み出しました。
背景にあるのは、「人口減少」や「タイパ(タイムパフォーマンス)志向」の高まりによる“調理離れ”という市場変化。 ミツカンはこの変化を捉え、従来の「しっかり調理する層」だけでなく、「時短・簡便に料理を楽しみたい層」へとターゲットを拡大しました。
そこで重要な役割を果たしたのが、「味ぽん」の価値の再定義です。従来の“鍋物用”というイメージから、「かけるだけ」「あえるだけ」で味が決まる万能調味料へとポジショニングを転換。「ぽんぽん広がる」というコンセプトのもと、タイパ志向のユーザーの共感を獲得し、新たな利用シーンを創出しました。
▼ ミツカンのブランディング・マーケティングについては以下記事をご覧ください。
ターゲティングに関するよくある質問をまとめました。
現代の市場では、顧客ニーズが多様化し、情報があふれているため、「すべての人」に向けた戦略では誰にも響きません。ターゲティングとは、自社の限られたリソース(予算、人員)を最も成果につながる顧客層に集中させ、、マーケティングの効率と効果を最大化するための戦略です。
詳しくは、記事内の「ターゲティングとは?『誰に届けるか』を決める戦略」をご覧ください。
STP分析は、マーケティング戦略を設計するうえでの基本のフレームワークです。Segmentation(市場細分化)、Targeting(市場選定)、Positioning(自社の立ち位置決定)の3つのステップの頭文字から成り立っています。
このうちターゲティングは、STPの「T」にあたります。つまり、細分化した市場の中から自社が最も優位に戦える顧客層を選ぶプロセスです。
詳しくは、記事内の「STP分析におけるターゲティングの役割」で解説しています。
混同されがちですが、両者は役割が異なります。ターゲットは特定の属性やニーズを共有する「顧客の集団(面)」、ペルソナはターゲット層を代表する「具体的な架空の人物像(点)」。ターゲットを設定した後に、より具体的なマーケティング施策を立てるためにペルソナを作成します。
詳しくは、記事内の「ターゲティングとペルソナの明確な違い」をご覧ください。
効果的なターゲティングを行うには、感覚ではなくデータと分析に基づいた判断が重要です。まず「3C分析」で市場・競合・自社を整理し、現状を把握します。その上で、洗い出した市場を評価・選定する際に役立つのが「6R」です。これらのフレームワークを活用することで、自社の強みを生かせる最適なターゲット市場を明確にできます。
それぞれのフレームワークについては、記事内の「ターゲティングに役立つ主要フレームワーク」をご覧ください。
ターゲティングは、「どの市場で、どの顧客に向けて価値を届けるか」を明確にする戦略的なプロセスです。適切なターゲティングによって、限られたリソースを最も効果的に配分し、顧客のニーズに響くメッセージを発信することができます。
本記事で紹介した考え方やフレームワークを活用し、自社の商品やサービスが持つ独自の価値を、もっとも必要としている顧客層に正確に届けるターゲティング戦略を見直してみてください。
執筆者
コンテンツディレクター/ライター
Miho Shimmori
2023年ファングリーに入社。以前はWebマーケティング会社で約2年半コンテンツマーケティングに携わり、不動産投資メディアの編集長を務める。SEOライティングが得意。ほかにも士業関連や政治など複数メディア運営の経験あり。Z世代の端くれ。趣味はサウナと競馬と街歩き。