Interview
# 14
株式会社ミンツプランニング
代表取締役社長
金本 かすみ(かねもと・かすみ)
コンテンツプロデュースカンパニーを標榜する株式会社ファングリー代表の松岡でございます。
「コンテンツ界隈ここだけの話」、第14話となる今回は、約5,000人のインフルエンサー登録者を抱える株式会社ミンツプランニングで代表取締役を務める金本かすみさんをゲストにお招きしました。
「インフルエンサー」という言葉が今ほど定着していない時代からSNSマーケティングに取り組んできた金本さんは、変化の激しい市場でどのように「勝ち筋」を作っているのでしょうか――。組織運営やブランディングの軸として「ハートムーブ」というキーワードを掲げる理由についても詳しく聞いてみました。
株式会社ミンツプランニング
代表取締役社長
金本 かすみ(かねもと・かすみ)
学生時代にブロガーや読者モデルを経験し、東京ガールズコレクションのキャスティングチーム運営などを経て2011年にミンツプランニング(Mint'z Planning)を設立。女性特有の視覚的感性へ訴求する企画と独自のデータベースを強みとするSNSに特化したPR支援を強みとし、インフルエンサーキャスティングや企業SNS運用代行、ブランドプランニングなどのサービスを手掛ける。
──C-napsの取材としては久しぶりの女性ゲスト。意識して男性にお声がけしているわけではないのですが、リニューアル以降で女性ゲストにインタビューするのは今回が2度目で、ちょっと新鮮な感じがします(笑)。本日はよろしくお願いいたします。
そうなんですね(笑)。それは光栄です♪ なんでも聞いてください!
──はじめに、ミンツプランニングについて教えていただけますか?
当社は2011年9月に設立した会社で、今年で15期目に入ります。事業はインフルエンサーキャスティング、企業SNSの運用代行、ブランドプランニング・ブランドクリエイティブと大きく分けて3つあり、すべてに共通するのが「SNSの活用」という軸です。スタッフの数は業務委託を入れて30人ほど。ほかに、インフルエンサーの登録者が5,000人くらいいます。
──コーポレートサイトや公式Instagramなどを見ていて、「女性の、女性による、女性のためのSNSマーケティング」といった印象を強く持ちました。スタッフも登録インフルエンサーも女性がメインですか?
そうですね。インフルエンサーには男性もいますが、数は多くありません。スタッフも現在は女性だけですね。
会社の理念からも「女性の感性」を大事にしているので、各種タッチポイントでもそこを意識しています。理由は、世の中の消費行動の決定権を握っているのは8割が女性であり、そんなターゲットのインサイトも当事者である女性のほうが理解しやすいと考えているからです。私たちのビジネスを通して「自律して選択肢を持てる女性を増やしたい」という想いもあります。
──「言うは易く行うは難し」で、女性だけでやっていくのは、それはそれで大変そうですね。
おっしゃる通り、大変なこともありますね(笑)。「男性を採用しないこと」にこだわっているわけではないのですが、女性を軸とした企業・サービスとして会社自体をブランディングするにあたって、男性ではフィットしない部分や男性に理解してもらうのが難しい部分もあると思っています。
とは言え、過去には男性が4割くらいいた時期もあるんですよ。今でも男性ならではの視点や発想が欲しい社内業務、PRやクリエイティブについては、業務委託の方に力を借りています。
──SNSの会社としては割と早いタイミングで会社を立ち上げられていますよね。創業の経緯は?
地元・名古屋の大学に通っていた頃、女子大学生ブロガーとしてNo.1になった経験があるんです。当時は「名古屋巻き」という髪型や「名古屋嬢」という独自のスタイルを持つ人たちが注目されていて、私もそういった文化を当事者として発信していました。
──「女子大生ブロガー」や「カリスマブロガー」が持てはやされた時期がありましたね。懐かしい(笑)。
いやー、恥ずかしいですね。当時を思い出すと……(笑)。
当時私が使っていたのは女子大生限定のブログサービスで、はあちゅうさんなんかも同時期に活躍されているブロガーさんでした。個人がパワーを持てる、発信力を高められる時代になってきたという感覚を持ち始めたのはその頃で、当時の経験がのちの創業につながっていたなと感じています。
──話は戻りますが、金本さんご自身や女性によるサービスを前面に押し出しすぎると、領域や業種などが限定されるリスクがありそうです。そのあたりはどう感じていますか?
確かにBtoBの領域や製造加工業など、場合によってビジネスターゲットから外れてしまうケースは実際にありますね。なので、当社のサービス提供はBtoCの企業様に100%照準を合わせています。それと今は新規事業として女性の人材紹介ビジネスに取り組もうとしています。
──人材紹介ですか?
自社でSNSマーケティング関連の教育をした上で、一定レベルのスキル・知識を身につけた人材を必要とする会社さんにご紹介させていただくイメージですね。
──「SNS一筋15年の会社が自社でインフルエンサーを教育して紹介」というのは、一つ大きな差別化ポイントになりそうです。
ありがとうございます。実際に「社内にSNS担当者を配置したい」といった相談をいただくことも多いですし、内側にいることでより熱量とスピード感を持って発信できることもあるのかなと思います。
──ミンツプランニングさんの主な顧客の属性やターゲットについて教えていただけますか?
直販と代理店はだいたい半々で、エンドクライアントはメーカーさんが多いですね。あと、サービス業では携帯キャリア会社さん、クレジットカード会社さん、航空会社さんなどと取引があります。SNS活用の余地があるBtoCの企業なら、業種を問わず全般に対応しています。
──問い合わせはどのように獲得しているのですか?
創業時はすべて紹介ベースでした。自分がメディアに出ることで知名度を高め、そこから相談や問い合わせをもらっていたんです。でも、それだと「社長(金本)の会社」にしかならず、組織としてスケールさせるのは難しい。なので、ある時から自分の露出を抑え、SEOなどのマーケティング対策に注力するようになりました。具体的には、ひたすら自社ブログを書き貯めたりしていましたね。
──さすが元ブロガー(笑)。
当時はInstagram運用代行会社が少なかったこともあり、Web検索で一番上に名前が出ることもありました。そういった施策の積み重ねによってインフルエンサーも少しずつ採用できるようになり、お客様からも問い合わせをいただける状態になりました。現在もSEOは少しずつですが強化しています。
──SEO経由の問い合わせは、やはり確度が高いですよね。
はい、SEOは重要なチャネルです。それと、インフルエンサーや社員(クリエイター)募集の入口になっているInstagramの運用もずっと続けています。優秀なインフルエンサーやクリエイターを採用できれば、それだけで独自の価値につながりますから。優先順位としては、まず募集強化のためのSNS運用。次にSEOでしょうか。
──インフルエンサーの採用はどうされているのですか?
応募、紹介、スカウトなど方法はさまざまです。採用コスパがよいので、Instagram広告を使うこともあります。
──インフルエンサーを採用できたら、そこからどのように受注につなげていくのでしょうか?
「自社製品やサービスのPRに誰をキャスティングすべきか」「どのような投稿をしてもらうべきか」で迷っているお客様は少なくないので、そこにはまりそうなインフルエンサーがいればすぐ受注につながることもあります。普通にアウトバウンド営業をしていても、大手企業さんへのアポイントはなかなか取れません。でも、インフルエンサーをピックアップし、そのインフルエンサーとどのような企画で商品をPRさせていくのかを提案に組み込むとうまくいくことが多いですね。
──確かに、具体的なインフルエンサー込みでのアウトバウンド提案はありですね。御社がソリューションとして提案しているSNSプラットフォームは、Instagramがメインですか?
最近の市場としてはInstagramとTikTokが2強と言っていいと思います。当社の受注している内容も、以前はInstagramが9割、Xが1割でしたが、今はInstagramが7割、TikTokが2割で、Xが1割くらいです。実際受注しているものとは別で、TikTokの問い合わせが明らかに増加している感覚はあります。
──なるほど。InstagramとTikTokで、運用の違いはありますか?
例えば、TikTokではショートドラマが流行っていて、今はそれが正攻法と言えます。でも、手法やコンテンツにはトレンドがあり、短いスパンでどんどん変わっていくのでTikTokの運用は正直大変ですね(笑)。どちらかというと静止画が得意なInstagramと比べると、動画制作による工数もかかります。
一方のInstagramはアカウントの世界観を作り込み、インフルエンサーの投稿によって認知を拡大するのが正攻法です。「一つひとつの動画がどれだけバズるか」が勝負のTikTokに対し、Instagramは「資産を貯めてブランド価値を高めていく」といった考え方が近いと思います。
──一方、自社SNSの運用はいかがでしょうか? 現在課題に感じていることはありますか?
どうしてもクライアントファーストになってしまうので、自社の運用は疎かになりがちです(汗)。最低限のベースは整えられているものの、これまでは積極的な運用体制を構築できていませんでした。今後はTikTokからの採用応募も増やしたいと思っており、戦略的に見直し始めたところです!実は今ちょうど7投稿目が完了したところなのですが、応募が集まり始めました。
あとは、採用を目的としたYouTubeでの発信をスタートします。 当社の場合、SNSというキーワードからどうしてもキラキラした世界、楽しそうな部分だけが見えてしまうこともあるのですが、大切なのは「SNSにおけるユーザー視点をいかにマーケティング戦略に落とし込んでいくか」であり、成功のために大変なことも乗り越えていける人材を必要としています。採用コスパを高めるためにもYouTubeを通して啓蒙というか、「女性のキャリアを築く上での表と裏を理解しつつ、一定の忍耐力が求められる仕事」と認識してもらう必要があるんです。
──YouTubeの運用はこれからですか?
まさにこれからで、最初の動画は3月公開の予定です!「キャリアと女の表裏一体チャンネル」というタイトルで、女性のキャリアはもちろんその裏側の実態についてもお伝えしていくコンテンツになります。私と新規事業を任せている女性のトークが軸で、時にはゲストをお招きしたいなとも考えています。
──金本さんご自身もメディアに出る方針なのでしょうか?
先に触れたようにこれまではメディア出演を避けてきましたが、そのフェーズは終わったかなと考えていて。今年からまた当社にとっていいお話があれば出ようと思っています。今回のインタビュー取材も、ファングリーさんの企画がとても実直というか、真面目に見えたからお受けしたんです(笑)。
──なるほど……確かに真面目な方向でやっていますからね(笑)。
メディアによっては制作側の意向に合わせてこちらの話した内容がばっさりカットされ、伝えたいことが伝えられない可能性もあります。実際、「今注目の女性社長はいくら稼いでいるのか」といった情報ばかりにフォーカスされることもありました。そういった結果になるなら、会社として受けるメリットがあまりないですからね。
──ありがとうございます。真面目に取り組んできて良かったです(笑)。
──女性を強みにした打ち出し方に加えて、「ハートムーブ」という言葉も御社のブランディングで重要なエッセンスなのかなと思います。そのあたりについてはいかがですか?
おっしゃる通りです。私は、SNSマーケティングを成功させるには「ユーザーのハートを動かす瞬間を創り出すこと」が大切だと思っていて、当社ではマーケティング企画や制作ディレクションに関わる一連の取り組みを「Heart Move Marketing(ハート・ムーブ・マーケティング)」と呼んでいます。
──どのようなきっかけからそういった考え方に至ったのでしょうか?
一昔前までは、有名なインフルエンサーに投稿してもらえばそれだけで見込み層の認知を獲得できました。しかし現在はSNSマーケティングも多様化しており、ビジネスの肝である「誰に何をどう届けるのか」を細かく設計する必要があります。そこで重要なのが、「SNSを見たユーザーの心がどう動くか」なんです。
──投稿を見て「いいな」と思ったユーザーが、具体的に何を評価して「いいね」を押しているのか。
どんな投稿であれば目に止まり、「いいね」が多くつき、どうすればユーザーの心が大きく動くのか。私たちの会社ではこの動きを「きゅん♡」と読んでいますが(笑)、ここを突き詰めて企画できている企業は意外に少ないと思うんです。「フォロワー何万人!」も指標としては大事ですが、インフルエンサーにどんな投稿をしてもらえばユーザーのハートが動くのか、そこに徹底的に向き合わなければなりません。
──実際にどういった取り組みをされたのですか?
化粧品メーカーさんのPRでは、「美容系インフルエンサーに紹介してもらう」といった企画が多いかもしれません。でも、私たちはブランドコンセプトの「肌につける化粧品は少ないほうが良い」といった部分に着目し、「#持たない暮らし」をしている方や「#シンプルライフ」を発信しているインフルエンサーのキャスティングを企画しました。「唯一持つ化粧品」という切り口でライフスタイルへの共感からコンテンツに落とし込み、ターゲットユーザーのハートを動かし、商品のCVにつなげていくということを施策として行いました。
買い物をするとき、一般的に男性は目的や製品の機能面を重視し、女性はフィーリングを重視する(そういうケースが多い)と言われますよね。こういった点からも、「ハートムーブ」は女性向けマーケティングの視点で重要な考え方であると捉えています。
──現在は広告やSNS周りでも「ハート」の対極に位置づけられやすい「AI」がどんどん活用されていますよね。
今は、AIによってインフルエンサーが普段どんな投稿をしているのかなどを解析することができます。でも、「心を動かすマーケティングとは何か」をAIがゼロから考え、ケースごとに正解を導き出すのは難しく、まだまだ機械的な印象です。
もちろん、AIの活用は良いことだと思いますし、プロンプト次第でクリエイティブな企画相談にも有効活用できると感じています。AI活用の推進は社内でも積極的に行っていて、私自身もChatGPTと毎日会話しているくらいですから(笑)。
ですが、今の仕事をすべてAIに奪われるかというとそうではありません。マーケティングやクリエイティブを生み出す工程においてはまだ私たち人間が介在する余地が十分にあり、介在するからこそエモーショナルな価値を創れる部分だと捉えています。個々人の経験や発想によるクリエイティブでハートムーブするパワーとAIが、良い形で共創できたら素敵ですよね。
──経営方針やMVVなどのブランドメッセージはどのように発信、浸透させているのでしょうか?
評価制度を整え、それに則ってマネジメントをしています。7項目あるバリューと行動指針は連動していて、スキルが高くてもバリューを体現できていないと役職や給料が上がらない仕組みです。当社のミッション・ビジョン・バリューは、クリアファイルなどのノベルティやスマートフォンの待ち受け画像といった日常的に触れるタッチポイントに記載して、いつでも自然に感じられるようにしています。
──仕事で日常的に使用する呼称は、見逃されがちですが重要ですよね。
それと、今はディズニーになぞらえて「ミンツランド」を作ろうという話をしています。当社らしいアトラクションや乗り物(ハード)、キャスト(ソフト)、キャラクター(ブランド価値)を作っていこうというプロジェクトですね。スタッフに当事者意識を持ってもらうための研修も行っています。
──それは面白そうですね!まとまったらぜひ情報発信してください。ちなみに今、金本さんが注目していることはありますか?
働き方の多様化ですね。「定年まで1社で勤め上げるのがいいことなのか」といった議論もありますが、当社として今後より採用を強化していくことを踏まえると、社内スタッフの「卒業制度」も作ったほうがいいかなと考えているところです。
──「卒業制度」とは?
当社を辞めるときに私たちがお客様に対して「今までウチで頑張ってくれたスタッフです」と紹介し、転職先でもビジネスパートナーとして関わり合えるような仕組みです。変化の多い時代なので、スタッフがライフイベントやさまざまな外部要因を理由に転職を選ぶのは致し方なかったりもすると思います。そう考えたら、信頼できる人材をただ失ってしまうのはもったいないですよね。
──人材流動性の高い業界では、「出戻り」のニーズに応える体制づくりも重要ですよね。
そうですね。「メーカーに一度転職したけど、広告代理店のほうが楽しいから戻ってきた」みたいなパターンはすごく多いんです。なので、分かりやすく制度として設けておけばいざというときに戻ってきやすいのかな、とも思っています。
SNS関連ではトレンドを追っていくこと、そしてノウハウを蓄積し続けることが重要です。教育の仕組みはあるので、新しい視点を持ったスタッフが入ってきてくれれば組織としての強みもどんどん広がっていきますし、結果的に自社のブランディングにもなりそうです。
──お話を聞く中で、金本さんがブロガー時代から蓄積してきたいろんな経験や知見 が事業運営や企業ブランディングに確実につながっているのだなと感じました。新事業の構想も含め、今後の活動にも要注目ですね。本日はありがとうございました!