TOPインタビュー/“本当の”ユーザー視点を持つには 相手をとことん好きになること。データだけで見ない、どこまで寄り添えるか勝負

Interview

# 4

“本当の”ユーザー視点を持つには 相手をとことん好きになること。データだけで見ない、どこまで寄り添えるか勝負

ナンバーエックス株式会社

代表取締役

ヤスダ ツバサ(安田 翼)

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「コンテンツプロデュースカンパニー」を標榜する株式会社ファングリーの代表、松岡でございます。

連載企画「コンテンツ界隈ここだけ話」もついに4話目を迎えました。今回のゲストは、企業のPRやコミュニケーションデザインを手がけるナンバーエックス株式会社の代表、ヤスダツバサさんです。

「ブランド資産を最大化させる、コミュニケーションデザインのコンサルティング集団」と銘打ったナンバーエックスの公式サイトは、独特の世界観で溢れています。きっとただならぬこだわりがあるに違いない……。ということで、その真意をざっくばらんに聞いてみました。

ヤスダ ツバサ(安田 翼)

ナンバーエックス株式会社

代表取締役

ヤスダ ツバサ(安田 翼)

ナンバーエックス株式会社の代表取締役、ディーテラー株式会社のCCO。デザインコンサルティングファーム「A.C.O.」(現:モンスターラボグループ)のWebプロデューサー・プロジェクトマネージャー・グロースハッカーとして、東証一部上場企業のオウンドメディア・Webサイト制作やコンテンツ制作に従事。ソフトバンク株式会社の広報本部にて、オウンドメディア・SNS運用や編集、グロースハック業務を中心としたデジタルPRを行う経験を持つ。一時期、越境ビジネスソリューション事業を展開するYourTrade社のCMOも兼任していた。

支援会社と事業会社を両方経験しているのが強み

──インタビュー取材のお時間をいただきありがとうございます。

こちらこそありがとうございます。

──まずはナンバーエックスの事業内容について、簡単に教えていただけますか?

ナンバーエックスでは、いわゆるコミュニケーションデザインというテーマでいろいろな事業を行っています。Webや広報畑の出身なので、マーケティングコミュニケーションよりは、コーポレートコミュニケーションへの関わりが中心ですね。

──なるほど。プロフィールを拝見したのですが、ソフトバンクにいらっしゃったんですね。

そうですね。もともとはA.C.O.(現:モンスターラボグループ)という、デザインコンサルティングやWeb制作を行う支援会社で、顧客が潜在的・顕在的に保有するコンテンツを資産化し、オウンドメディアや各種マーケティングツール、コンテンツに転換していく支援をやっていました。具体的には、グローバルサイトのディレクションやプロジェクトマネジメント、企業オウンドメディアの戦略企画やコンテンツ制作、新規事業のデザインコンサルティング、大規模キャンペーンの企画・ディレクションなどですね。

──時期的には、10年くらい前ですか?

はい。タイミング的には、2011年から2017年あたり。そのころ私は25〜30歳前半で、世の中的には多角経営をしている大手企業がグローバルサイトを作り始めたり、いわゆる企業の広報メディアが目立ってきたりした時期だったと思います。

──スマホやソーシャルもそうですが、2010年代の前半は一気にチャネルが拡がっていった時代でしたね。

懐かしいですね。大規模なオウンドメディアの構築や販促プロジェクトの運用などに関わっていくうちに、コンテンツを作ることやコーポレートブランディングの面白さに気付いたんです。そこにより注力したいと思って、事業会社のソフトバンクに転職したのが2018年ですね。

というのも、当時副業をやっていたんです。転職しても副業はやめたくないな……と思っていた矢先に、ソフトバンクが副業を解禁したんですよね。「やった! それならソフトバンクに行こう」と(笑)。

──ここだけの話(笑)。

チームのミッションは、社内イントラやオウンドメディア、ソーシャルメディアなど、保有するデジタルチャネルを駆使して、社内外のステークホルダーとコーポレートコミュニケーションを行っていくことでした。

そこで、プロジェクトマネージャーやWebディレクター、コンテンツマーケター、編集者、ライター、SNSプランナー、グロースハッカーなど、場面で役割を使い分けて、オウンドメディアの戦略策定やUI/UX設計、さらにはコンテンツマーケティングのPDCAを回す業務をやっていました。

──時代もあるかもしれませんが、めちゃくちゃマルチですよね。

分業という概念がなかった時代でしたからね(笑)。立場としてはプロジェクトマネージャーでしたが、コトバ”を扱う領域も見ていたので、編集者の役割も担っていました。コンテンツを作るのは好きですし、マーケティング領域とクリエイティブ領域の間に生まれやすい「歪み」を翻訳するのが自分の仕事だと思っているので、“コトバ”を扱うスキルの重要性は常々感じています。

──マーケティングとコンテンツクリエイティブは「地続き」だと思いますし、業務として関わり合いが多い一方で、マーケターとクリエイターでは考え方が結構違うので大変な面もありそうです。

それはすごく思いますね。クリエイティブはマーケティングを最適な形で実行するための手段ですが、マーケターが“数字至上主義”になり過ぎることをクリエイターは嫌がります。逆も然りで、クリエイティブの側面を重視し過ぎると、マーケターからは「いや、それは数字に直結しないから」といった反発がある。そういった状況も踏まえて、両者が納得する落としどころを見つけ、かつ成果につながるように連携していかなければなりません。

──支援会社と事業会社を経て、支援会社であるナンバーエックス社を立ち上げるわけですが、特に意識していたことはありますか?

大きく2つですかね。1つは「最小コストで最大効果」。ビジネスを行っている以上、営業利益を多く出せそうな打ち手を行うのは当たり前のことなので、「依頼してもらったときの費用対効果」は常に意識しています。

2つめは「クライアントが何を重視しているか」でしょうか。というのも、社歴のある企業ほど社格、例えば「業界内の立ち位置」や「大手企業との取引実績があるか」といったブランドを重視する傾向があるからです。実際、そうしたブランドや実績が相手に与える安心感はよくわかります。じゃあそれなら……ということで、会社設立から1〜3年目は、元請けとなる主要取引先に大手企業を追加していくことに専念。弱小企業ならではの生存戦略を考えていました(笑)。

──そのアプローチは正解な気がします。フリーランスの方でもそうですけど、ポートフォリオに大手企業の実績があると印象は変わりますね。……あくまで印象だけの話なのですが(笑)。

本質的ではないのですが、ヒトって権威性や肩書に弱いですよね(笑)。コーポレートブランディングには、自社のことをわかりやすく整理し、かつ「ちょっとすごそうに見せる」というニーズがあると思っています。それが良いとか悪いとかではなく、そういったインサイトに寄り添うのはとても大事ですね。ただし、「言葉にできない違和感」が出てしまうと不信感につながりかねないので、嘘をつくのはNGです(笑)。ビジネスで重要なのは、信用できるかどうかなので。

プロジェクトを進めやすくする「愛」と「ペイフォワードの精神」

──ナンバーエックス(Number X)って、社名になかなかインパクトがありますよね。由来をお聞きしたいです。

昔、「ナンバーナイン」というアパレルブランドが好きだったので、そこからインスピレーションを得て付けました。X(エックス)には「無限」や「掛け算」という意味があって、新しい会社や提供できる価値のポテンシャルを想起させるにはいいワードだな、と。あとは、クライアントとお仕事をさせていただく際に「その会社の中のヒト(“X”番目のメンバー)になりたい」という思いも込めました。

──あと、ヤスダさんのビジネスネームってカタカナですよね?これにも意味があったりするのでしょうか?

カタカナ表記は、10年以上前からです。実は、当時の私の上司の名前が、漢字がめちゃくちゃ複雑で読みにくかったんですよね(笑)。そこで「カタカナ表記なら絶対読めるし、記憶に残りやすい」とうことに気が付きました。

───公式サイトの写真がモノクロですが、これにも戦略や意図があったりしますか?世界観がロックっぽいというか、どこか「野心」を感じさせます。

「自分のやりたいようにやる」を追求していたら、たまたまそうなっちゃいました(笑)。

───「愛を持って挑む、“X”番目のメンバー。」。サイトにはこんなメッセージも。

やっぱりプロジェクトをやるときは、「愛」を持って取り組むのが一番大事だなと思っています。

───「愛」とは、具体的にどういうことでしょう?

「一生懸命頑張ります」とか「御社のために尽力します」とかは言うだけタダなので、裏側が透けて見えたらそこで終わりなんですよね。信用や信頼って、行動でしか証明できませんし。

私はそういう仕事をしたくないですし、「どうやったら商品が売れるか」「どうすればクライアントの魅力や思いをもっと知ってもらえるか」を本気で考えて、行動するようにしています。まずはお客さんを好きになる。そして扱っている商品も好きになる。その思いを、その先にいる顧客に届けたいという考え方が「愛」です。

───分かります。「愛」があるかないかは大事です。

すごく経歴や実績が華やかで仕事もできそうだけど、「なんか冷たい人」っているじゃないですか。優秀で信頼できるパートナーでも、少しは人間味がないと「自分たちのことを本気で考えてくれているのかな」とか「仕事しづらいな」と思われるかもしれません。「愛」と相手への敬意を持って取り組んでいればそういう感情は持たれづらいと思いますし、人と仕事をするスタンスとして私はそこ(情緒)を大事にしたいです。

───モノトーンのアー写だけを見ると近づきがたい印象ですが(笑)、かなり人間味を大事にされているんですね。そこもロックぽい。

たしかに写真とのギャップはあるかもしれません(笑)。でも、仕事においては、「敬意」と「仁義」を持ち続けることが重要だと思います。ナンバーエックスでは、A.C.O.のときからの知人と関わる機会が多く、元上司とは何回も仕事をしています。彼らに共通しているのが、お金をもらうことを当然と思っていない点ですね。見返りを求めないというと極端ですが、自分が先に価値を提供しようとする意識というか。

───ペイフォワード(Pay it forward)の精神ですね。

はい、おっしゃる通りです。例えば、10万円で依頼されていた作業があったとして、クライアント都合で急に作業量が増えてしまったとします。そういうことって結構ありますよね?

───クライアントワークでは日常茶飯事ですね(笑)。

そういうときに、第一声で「追加発注してください」って言ってくる人は少なくない。もちろんそれが間違っているわけではないし、むしろ営業利益をきちんと出すためには正しいのですが、事情や背景を聞くとか、追加費用がかからないような代案を一緒に考えるとか、今回は飲み込んで恩を売るとか、まずはそういったコミュニケーションが必要だと思うんです。大企業にいたせいもあって、追加稟議の面倒くさささも体感しているので……(笑)。次のビジネスにつなげる勘所を見極めるとか、「損して得取れ」みたいな考え方もありますよね。

ユーザーじゃない以上、100%のユーザー視点を持つのは難しい

───ナンバーエックスの公式サイトでは、自分たちのことを「カメレオン」と表現しています。これはどういった意味でしょうか?

事業会社の企業広報やBtoBマーケターの方、スタートアップ、制作会社など、相手によって見せ方や立場、情報発信のやり方を変えている感じが、環境によって皮膚の色を変える「カメレオン」みたいだなと思ってそう表現しました。それぞれのニーズを踏まえて、適切な立場から最適な提案ができますよ、ということですね。

───いい意味でのカメレオンですね。

ありがとうございます。弊社では、これまでの経験を活かして「支援会社としての作り手の視点」と「事業会社としてのビジネス/ユーザー視点」の両方を持つことができています。事業会社の中には社内文化とか、独自の共通言語とか、独自の意思決定プロセスとか、他部署との関係性とか、価値観とかそういったいろんな事情があるので、そこを理解・加味して相手に合わせた提案ができると喜ばれますし、他社との差別化という点でも大きな違いになってくる気がしますね。

──自社のブランドを理解してもらえないと価格競争に巻き込まれますし、フリーランスと料金だけで単純比較されたら勝てないですよね。自社の提供価値を明確にしていかなければならない。

デザインやライティングといった、明確な成果物がある「有形商材」は、すでに価格破壊が起こっています。価値を可視化しづらい「無形商材」にもなる、自分たちが介在する価値は何なのかを言語化して、クライアントに理解してもらわなければなりません。

単価を上げにくいサービスについては、生成AIやノーコードツールなどのテクノロジーを活用し、生産性を高めながらどう付加価値を作っていくかも重要なポイントかと思います。

ヤスダさんの提案資料(一部)。単一の商品は価格破壊が起きて比較されやすいので、複数の商品を線でつなげて設計するコミュニケーションデザインの領域から提案できると付加価値を創出しやすい

───そこは本当に今、市場が急激に動いている肌感がありますね。ヤスダさんがデジタルマーケティングや自社のコーポレートコミュニケーションを成功させるために大事にしている考え方があれば教えてください。

よくある失敗例として、「データでしかユーザーを見ていない」というのがある気がします。ユーザーをちゃんと血の通った一人の人間として想像・妄想できていない人が多い。伝えたいことと実際に伝わることは別なので、「自分だったら買うか」と自問自答したときに、「イエス」と即答できなければ多分うまくいきません。「ユーザー視点は大事」とよく言いますが、その視点を持ちきれないところがまた難しいんですよね。

──とことんユーザー視点を持つためには?

相手に深いレベルで興味を持って、知ること。そして、その会社やその商品を好きになること。あとは、何度も何度も想像・妄想し続けることが大切だと思います。「友人に推められますか?」というアンケートをよく見ますが、あれと同じ考え方です。商品を好きになるには、その商品を大好きな人に魅力を語ってもらう(ユーザーインタビューする)のが私は一番効果的だと思っています。

──机上のユーザーペルソナの策定やジャーニーマップへの落とし込みだけでは形骸化しやすいですよね。ユーザーインタビューを通して、熱量を肌で感じないとならない。

はい。データはすごく大事ですが、データだけで判断しない。どこまでユーザーの感情・行動に寄り添えるかの勝負だと思います。

──最後に、今注目していることや今後の展開があれば教えてください。

マーケットという意味では、やはり海外ですかね。今後は、外貨を得る動きをしていきたいです。今考えてるのは、アウトバウンドもしくはインバウンド(逆輸入)のコミュニケーションサポートをすること。それを見越して、海外でのネットワークをどんどん広げている最中です。

──やはり、グローバルマーケットですね。具体的にどのあたりの国や地域にアプローチしているのですか?

旅行サイトでよくある「観光したい! 人気の国ランキング」みたいなものや、「JETRO(日本貿易振興機構)」「JICA(国際協力機構)」などのお知らせを見てアプローチする対象を考えています。あとは、海外でPRをやっているメンバーや海外ビジネスをやっている経営者仲間がいるので、そこから情報を仕入れていますね。

あとは、現地の日本人クリエイターを探しています。「日本語ができる現地人」ではなく、「日本の文化や価値観を知りながら、現地の状況もわかっている日本人」とつながることに価値があるんじゃないかと思っています。「日本全国にライター〇万人抱えています!」みたいな会社はたくさんありますが、その海外版みたいなものですね。

ただ実際にやってみると、現地ごとに異なる契約書、税金、振込方法……。めちゃくちゃ面倒な手続きがたくさんあるので、四苦八苦しています(苦笑)。ちなみに、そんなサービスを最近リリースしました(笑)。

グローバル編集プロダクション 世界ライターX – 海を超えて、コトバを届ける。

──グローバル市場へのアプローチという点はまったく同意です。ぜひまた別の機会でいろいろと意見交換させてください。今日はありがとうございました!

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INTERVIEW インタビュー

ファングリー代表の松岡がコンテンツ界隈の方たちをゲストに迎え、「ここだけの話」を掘り下げるインタビュー企画です。

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