Interview
# 9
株式会社LIFULL
『LIFULL STORIES』編集長
田中 めぐみ(たなか・めぐみ)
コンテンツプロデュースカンパニーを標榜する株式会社ファングリーの松岡でございます。
今回は9月に開催したオンラインセミナーの採録内容を編集・加工・一部補足し、「コンテンツ界隈ここだけ話」の特別編として記事化しています。セミナーに登壇してくださったのは、既成概念にとらわれない多様な暮らし・人生を応援するメディア『LIFULL STORIES』の編集長を務める田中めぐみさんです。
『LIFULL STORIES』の企画・運営に関するノウハウや、認知獲得を図る中で行ってきたブランディング活動について、田中さんが詳しく語ってくれています。ぜひ最後までお読みください。
株式会社LIFULL
『LIFULL STORIES』編集長
田中 めぐみ(たなか・めぐみ)
2008年の入社以降、コーポレートコミュニケーション、企業ブランド戦略の立案・実行に従事。2017年のLIFULL社名変更プロジェクトメンバーとして活動し、2018年12月にはオウンドメディア『LIFULL STORIES』を立ち上げ。現在はメディア運営に加えて、プランナーとして「年齢の森」「うちのはなし」などLIFULLの企業姿勢を伝える新たなコンテンツ作りに尽力している。
――本日はお時間をいただき、ありがとうございます。ファングリーは2020年頃から『LIFULL STORIES』の運営・制作支援に携わっており、その関係で今回のインタビューが実現しました。
こちらこそありがとうございます。
――はじめに、田中さんの自己紹介をお願いできますか?
『LIFULL STORIES』の編集長を務めている田中です。私は入社してから一貫してコーポレートコミュニケーションに関わる部門に所属し、ブランド戦略の立案やコンテンツ作りなどを行ってきました。
――株式会社LIFULLについてもご紹介いただきたいです。
株式会社LIFULLは、1997年に設立した会社です。当時は「株式会社ネクスト」という名前で、「HOME’S(現・LIFULL HOME’S)」のサービスを主要ビジネスとして展開していました。
現在はLIFULLグループとして、世界63カ国でサービスを展開中。国内では「LIFULL HOME’S」を中心に、高齢者向け住宅や介護施設を検索できる「LIFULL 介護」や子育て中の女性のキャリア支援をする「LIFULL FaM」など、暮らしに関わる情報やサービスを提供しています。
――LIFULLという社名の変更を含めたリブランディングが、『LIFULL STORIES』の発端となるわけですね。
はい。LIFULLという社名は造語で、社内公募141案の中から選ばれました。この社名には、世界中のあらゆる人々の暮らしや人生(LIFE)を安心と喜びで満たしていく(FULL)という思いが込められています。正式な社名となったのは2017年からですね。
リブランディングを開始したのは、LIFULLという新名称の認知を高めていきたいという想いからでした。2017年の変更当初から1年間はテレビCMやWeb広告中心のコミュニケーションをしていましたが、2018年、企業姿勢を伝え、企業理解を促すためにオウンドメディア『LIFULL STORIES』を創刊しました。私たちのオウンドメディアは企業ブランディングが目的です。マス媒体、PR、SNSなどの活動を含め、企業コミュニケーションにおいてメディアが果たすべき役割を整理し、統合的なコミュニケーションの一環として運営しています。
『LIFULL STORIES』は、記事で読ませるメディアです。テレビCMやWeb広告のような圧倒的なリーチはできませんが、記事に触れてくれた人にはじっくり時間をかけて読んでもらえる。それはほかの媒体にはない特性ですよね。そのため、コミュニケーション戦略上、オウンドメディアの役割として「理解や納得度の醸成」という目的を置いています。
――具体的に『LIFULL STORIES』を定量的なデータから掘り下げていきたいのですが、KPIやKGIについて教えていただけますか?
『LIFULL STORIES』はLIFULLのブランディングを目的に運営しており、「このメディアを認知した人の中でどれだけの人がLIFULLという企業を認知しているか」をKGIに掲げて定量調査を毎月1回実施し、変化を見ています。KPIにはセッション数を置き、GA4を使って日次、週次、月次で状況を確認しています。
KGIに関しては、そもそもLIFULLブランド認知にどれだけ寄与するかという目的でメディアを立ち上げていたため、当初から方向性のズレやブレはないと思っています。ただKPIについては試行錯誤の繰り返しで、特に最初の1年ぐらいは何をKPIに置くべきかで相当悩みました。ここ1~2年で流入自体は大きく増えてきたので、認知と相関性のあるセッション数についてはより意識して見るようにしています。
2018年12月に立ち上げて、今では年間80万PVを超えるメディアに成長しました。取り扱っているテーマは、住まい、家族の多様性、老後問題、人生100年時代など多岐にわたりますし、ルッキズムやエイジズムなど抽象的でデリケートなテーマにも焦点を当てています。なお、コンテンツ全体の75%がインタビュー記事です。
――ここ数年で数字的な変化はありましたか?
2017年の頃から比べると、うれしいことに『LIFULL STORIES』ブランド認知者数は順調に増えています。ただ、メディア運営者でありブランドコミュニケーションを担う者として気を付けているのは、「メディア認知者数を増やす」だけでなく、「LIFULLブランド自体の認知者数を増やす」ということです。メディア認知者のうちの何割がLIFULLブランドを認知しているのか。その「歩留まり」(全体に対する成果の割合)を維持・向上させることを意識しています。その年度の予算に応じて目標を設定し、目標設定をしています。
――オウンドメディアの運営に際して、最初に直面した課題はどんなものでしたか?
そもそもインタビュー記事では検索対策が難しい、というのが最初にぶつかった壁でした。オウンドメディアを立ち上げて半年から1年弱ぐらいまではメディアのコンセプトを表現するために「多様な価値観・生き方を実践している人のインタビュー記事を増やす」ことを主眼に置いて運営していたので、それも流入が伸び悩む原因になっていましたね。
――インタビュー記事だけで、オーガニックの流入を継続的に増やしていくのは難易度が高い。
インタビューでは狙った言葉を引き出せないこともあります。そのため、記事化にあたりSEOが狙いにくいのは流入を増やす上でネックでした。ブランディング観点ではLIFULLが重視しているキーワードとしっかり紐付けたい。だけど、それができなくて……。実際に、立ち上げてから最初の2年ぐらいは流入も伸び悩みました。こうした課題が、今日に至るSEO対策につながります。
そうした流入の伸び悩みがある中でも、こちらとしてはインタビューコンテンツ作りをとにかく我慢してやり続けたわけです。300名以上もの人物インタビューが蓄積されているメディアなんて、なかなかないですよね?他のメディアでも簡単には真似できないと思いますし、その点にはすごく自信がありました(笑)。だからこそ、どうにか成果につながってほしいなと。
――『LIFULL STORIES』は社会問題の提起や解決につながるような、多様なテーマを扱っています。インタビュイーの人選の基準について教えてください。
最初は課題ワードベースで人を選んでいきます。例えば「ルッキズム」のように、現在の社会問題につながるようなキーワードをピックアップし、「じゃあ取材候補として誰がいる?」という感じでガーッと専門家やインフルエンサーなどの候補を出していきます。そういう意味では、キーワードを軸に人選をしているとも言えますね。
あとはシーズナリティ、つまり季節要因や年間スケジュールみたいなものも意識しています。例えば「オリンピックは8月」「引っ越しは3月」「ジューンブライドは6月」などです。世の中の流れ、キーワードの変化、トレンドの変化はかなり意識して見ていますね。それで言うと、「選挙」や「法改正」なども注目ワードと言えます。トレンドを意識するためのアンテナは常に張っています。
――オウンドメディアを成長させながら長期的に運用を続けていくことに、課題を感じている当社のクライアントも多いです。そんな中、約6年にわたって『LIFULL STORIES』を続けられているコツや秘訣は何でしょうか?
オウンドメディアは基本的に企業で運営しているものなので、どれだけ事業の戦略に合致しているのかを社内的に共有できることが重要であり、かつ難しい部分だと思っています。なので、ブランド戦略の一環として毎年KGIおよびKPIを見直し、そこに合わせてメディアが「確実に成長している」という事実を可視化して伝えていくことが重要だと思います。
――前段として、継続的にコンテンツを発信し続けられるかどうかも重要ですよね。
安定的にコンテンツを発信することがいかに重要かも、このメディアの運用の中であらためて実感しました。『LIFULL STORIES』も最初の頃は更新が週1回だったり、余裕があるときは急に週2回になったりと、不定期だったんですよね。でも、そういった運用ではファンもついて来ず、流入も期待できず、サイトの評価も上がらず――。「ああ、これじゃダメなんだな」と思いました。
――更新頻度を安定させることを優先したわけですね。
はい。数年前から週2回の定期配信を目標に運営体制を構築してきました。その中ですごく大きな役割を担ってくださったのが、ファングリーさんなんですよね。KGIやKPIなど数字的なところでも決裁者とコミュニケーションが取りやすくなり、メディアを成長させていくための建設的な議論もできているので本当に感謝しています。自分たちだけで何とかしようとするのではなく、また外部に丸投げするのでもなく、パートナーさんと協働しながら連携していくことがオウンドメディアを長く続けていくコツなのかなって思いますね。
――編集長に直接そう言っていただけるとすごく光栄です。
あとは、パートナーさんがこちらの立場にどれだけ寄り添ってくださるかも大切なんじゃないでしょうか。ファングリーさんは私が忙しくてなかなか声がかけられないときでも、「そろそろミーティングしましょうか」と率先して提案してくれますよね。ちょっと“つれない態度”を取ってしまったときも優しく見守ってくれて(笑)。本当、日々頭が上がらない感じです。
編集会議のときにちょっとした相談にもすぐ答えてくれますし、コンセプト理解を深めようとしてくれる姿勢にも感謝しています。
――プロジェクトに参画した当初は、人選はLIFULLさんのほうでピックアップし、私たちファングリーがアポイントからバトンタッチするという体制でした。
そうでした。
――それがこちらから企画・人選を提案し、LIFULLさんにジャッジしていただく形に関係性が変わってきました。こうした変化の裏には、関係性の深化などがあると思っています。発注側と受注側という関係ではなく、「同じチームとして動けているかどうか」はメディア運営において大事なポイントかもしれません。
はい、本当にそうですね。「SEOコンテンツを作りたい」となったときも、私たちは「記事がLIFULLのコンセプトに合うか、LIFULLらしい視点になっているか」にこだわりました。ファングリーさんには粘り強くヒアリングしてもらったり、こちらの要件に合わせて方向転換や調整をしてもらったりして、かなり苦労をかけたんじゃないかと思いますが(笑)、そのおかげでインタビュー記事だけでなくSEO対策コンテンツもLIFULLらしくなってきました。
――具体的なコンテンツの企画についても伺えますか?
「ヒットの再現性を高めるにはどうすべきか」という点はかなり意識していますね。有名人をインタビュイーに起用したからセッション数が爆上がりする、といった単純な法則はありません。そのため、「どれだけ周りに好意的なファンがいるのか」「世の中的に関心のあるテーマかどうか」という見極めは大事にしています。
あと、ずっと同じようなタイプのコンテンツを発信していると、読者も飽きてしまうんですよね。なので、継続する上ではメディアも変化をしていく必要があると思っていて、新たなタイプのコンテンツ作りにもチャレンジしています。
――新たなタイプのコンテンツ……具体的には?
それこそ文章が書ける方に寄稿をお願いしてみるとか、書籍系のコンテンツを採り入れてみるとか、専門家による、よりディープな視点のインタビューに変えてみるとか……。そういうことにもトライしています。
――非常に注目が高かった記事、PVがすごく伸びた記事(バズった記事)についてはいかがでしょうか?
モーリー・ロバートソンさんとパートナーの方に、それぞれ別の記事でインタビューをしたものでしょうか。これはビッグローブ社が運営しているメディアとのタイアップコンテンツだったのですが、非常によく読まれました。
「パートナーシップ」というテーマについては、世の中的に夫婦別姓制度や事実婚、同性パートナーシップ制度などの話題が多かったというのが背景としてあります。今の時代は結婚感が変わってきていると感じていたので、多様なパートナーとの関係性を取り上げたいと思って企画しましたが、それがうまくハマった形です。
ほかには、ミニマリストに関するSEO記事も想定以上に読まれましたね。検索クエリでミニマリスト関連ワードが定期的に入ってきていたことに注目していたのですが、あわせて、世の中的にもコロナ前後で消費に対する価値観が変わってきていました。「大量に買って所有することがいい」という考え方に違和感を持ち、「本当に気に入ったものだけを買いたい(自分の価値観に合うものを大切にしたい)」という人が増えてきているのだろうと考え、このテーマで記事を公開しました。
――最後に、『LIFULL STORIES』の今後の展望について教えていただけますか?
直近では、メディアの注目度を活かしてタイアップ記事広告を作成する取り組みを始めています。これまではシンプルに自社のブランディングツールとして運用してきましたが、より多くの企業様のブランディングツールとして活用していければ広告主の企業様にも有益ですし、LIFULLとしてもより広く世の中に貢献していけると考えています。
それと……最後に『LIFULL STORIES』の読者層についてお話ししてもよいですか?
――もちろんです!
ありがとうございます。『LIFULL STORIES』って長文の記事が多いのですが、その中でここ数年、平均滞在時間が伸びているという傾向があります。文字を読むことがあまり苦ではない方たちで、かつ「多様性のある社会の実現」や「既成概念にとらわれず自立して自分らしく生きること」に共感してくれる方々が、『LIFULL STORIES』を読んでくれているのかなと。
――確かに、インタビューコンテンツの場合、長文を読めることが前提になりますよね。そこの着眼点というか、ターゲティングは面白いですね。
多様性や働き方について発信しているメディアはいくつもありますが、テーマの幅広さや多様さ、また完全にオリジナルであること、記事の読み応えがあることが『LIFULL STORIES』の強みなのかなと思っています。その輪をもっと広げていくことが、LIFULLとしてのさらなるブランディングにつながるのではないかと考えています。
――『LIFULL STORIES』が今後もホットな社会的関心に対してディープな記事を届けられるよう、ご支援できればと思います。
最新記事