Interview
# 37
株式会社TableCheck
代表取締役(CEO)
谷口 優(たにぐち・ゆう)
コンテンツプロデュースカンパニーとして、企業のコンテンツマーケティングやブランディング活動を伴走支援する株式会社ファングリーの代表・松岡でございます。
「コンテンツ界隈ここだけの話」第37話のゲストは、国内ミシュラン掲載店の約6割が使用し、国内外で導入店舗が1万3,000店を超えるなど高いシェアを獲得しているBtoB予約システム「TableCheck(テーブルチェック)」を開発・運用する株式会社TableCheckの代表・谷口優さんです。
物価高の影響を受け、難しい舵取りを余儀なくされている飲食業界。インバウンドの獲得は死活問題ですが、いまだにアナログ管理な店舗も多く、デジタルマーケティングの取り組みも十分とは言えません。そんな飲食業界を「根本から変えたい」と話す谷口さんに、サービスを普及させるまでの経緯やこれからの事業戦略、そしてプロダクト開発における「差別化」の考え方についてお話を伺いました。
株式会社TableCheck
代表取締役(CEO)
谷口 優(たにぐち・ゆう)
23歳でVisaの子会社であるCybersourceへ就職し、営業職としてビジネスキャリアをスタートする。2009年にはフラッシュマーケティングサービス(共同購入型クーポンサイト)の立ち上げに参画。その後、2011年3月11日の東日本大震災と同日に株式会社TableCheck(旧・株式会社VESPER)を創業した。飲食業界のマーケティングを自動化・最適化し、レストランとゲストの最善の関係構築を目指す「ダイニング・コネクテッド」を自社のミッションに掲げる。

――本日は、「DXが最も進まない業界」の一つとも言われている飲食業界の中で、「不」の解消に挑戦し続けている御社のマーケティング戦略を中心にお聞きできればと思います。よろしくお願いいたします。
よろしくお願いいたします。
――早速ですが、谷口さんのキャリアの原点からお聞かせいただけますか? 決済代行会社の営業からスタートされたそうですね。
はい。私は17~18年前、クレジットカード決済代行会社の営業職からキャリアをスタートしました。当時(2000年代後半)は、ホテルの宿泊などで「オンライン予約」が急速に普及し始めたくらいの時期。アメリカのサンフランシスコに出張した際、ホテルの宿泊予約だけでなく現地ではすでにレストランのオンライン予約が浸透しているのを目の当たりにして、驚いた記憶があります。
その後は、2009年にフラッシュマーケティングサービス(共同購入型クーポンサイト)の立ち上げに参画しました。
――「グルーポン」などが席巻した時代ですね。その後、自分の会社を作って現在の事業にたどり着いたという流れかと思いますが、なぜ自社ではフラッシュマーケティングを事業の柱としなかったのですか?
実は前職時代に私なりにグルーポンを研究していたのですが、ビジネスモデルとして「イケてない」という結論に至りました。大幅な割引クーポンや限定商品によって短期間で爆発的に注目度を高める反面、過度な値引きと高額な手数料支払いで店舗経営を苦しめてしまう。そして、低価格目当ての一時的な顧客は増えるもののリピーターは増えない――。
ただ大きな発見として、「それまでは考えられなかった消費者行動パターン」には注目しました。つまり、「人は訪問をしたことのないお店であっても、その役務提供の対価を事前決済する」ということです。当時は、オンラインで家具を購入する人が存在することすらニュースになる時代でしたから。
――当時と比べて、飲食業界を取り巻くテクノロジーの状況は変化しましたか?
「はい」……と言いたいところですが、飲食店のマーケティング手法は今も変わらずアナログで「原始的」です。
――「原始的」とは、具体的にどういうことでしょうか?
多くの店舗はグルメサイトに店舗情報を載せて、それで終わり。アクセスしてくる人(=見込み顧客)をフィルタリングできていないんです。普通、オンライン広告を打つ際はターゲットやキーワードなどを細かく絞り込みますよね。でも、そういった基本的なアプローチができていません。
ほとんどの飲食店は、「当店は中華です」「麻婆豆腐あります」と全員に情報を開示しただけで来店を待っている。「中華料理」や「麻婆豆腐」といっても、あっさりしたものが好きな方から山椒がしっかり効いたものを好む方まで人それぞれ多様な好みがあるにもかかわらず、です。これではミスマッチが起こりますよね。また、グルメサイトのスコアも個人の趣味や嗜好が反映されにくく、「平均」に集約されてしまいがちです。
――確かに、グルメサイトのスコアも「平均値」に集約されてしまい、尖った特徴や独自の魅力が見えにくくなっている気がします。
おっしゃる通りです。私はホラー映画を見ないので採点するとしたら常に「1」ですが、世の中からの評価が低いドキュメンタリー映画が私にとっては「5」になる場合もあります。その数値の何を信じるべきか分からないにもかかわらず、やれ「ウチの店は3.5だ」、やれ「ライバルは3.3だ」というのも何かおかしいですよね。
――顧客属性に合わせたメールマーケティングなどの「追客」も、ほとんど行われていませんよね。
日本全国の飲食店を母数としたら、0.1%もやっていないと思いますよ。あったとしても、時間、人材、コスト的な制約から、本来理想とされるマーケティングを実現できているところは少ないでしょう。
EDMであれば、受け手のニーズを考慮せずに一律で何度も送るとブロックされてしまいます。顧客属性によって送る時間や回数や内容などを分けるべきですが、そういう専門知識を持つスタッフもいなければ細やかに対応する時間もない。そこについてはもっと価値のあるアクションがあると思いますし、もっと高度な「最適化」の余地があると考えています。

――そんな飲食業界の「不」に対し、谷口さんはどのようなアプローチを考えているのでしょうか?
我々は「ダイニング・コネクテッド(Dining Connected)」をミッションに掲げ、世界中のレストランとゲストをつなぐプラットフォームを作っています。社内では「マーケティングの自動化と最適化」と説明しています。
テクノロジーが進化しているので、「自動化」だけなら簡単です。でも、顧客のニーズに「最適化」されていなければ意味がない。車のアクセルペダルに重いものを置いておけば自動で進むかもしれませんが、運転支援という観点で最適化されていなければ事故は起こりますよね。今の飲食業界は、その両方が欠如した状態です。
――つまり、お店側が欲しいユーザーと、ユーザーが行きたいお店、どちらも「互いの顔が見えていない状態」であると。
その通りです。先ほどグルメサイトのお話をしましたが、例えば京都駅周辺のラーメン屋をGoogleマップで調べて見ると、ほぼすべての店が「4.5」を超えていたりします。理由は簡単で、投稿者が外国人観光客だから。初めてラーメンを食べた観光客が感動して付けたスコアが、果たしてラーメンを食べ慣れた日本人のお店探しニーズにマッチするのか疑問です。
――それを解決するのが、今の事業ということですね。「ダイニング・コネクテッド」の構想は、2011年の創業時からあったのでしょうか?
はい。フラッシュマーケティングに関わっていた頃から、「マーケティングはもっと効率化・最適化できる」と考えていました。個々人の趣味や嗜好に基づいたお店との相性や来店周期に応じてもっとシステマティックにできるはずだと。その思いは創業時も今も変わりません。

ただ、理想のマーケティングを提供しようとしても、お店側が紙の台帳で予約管理をしていたら空席がデータ化されていないので何もできません。なので、まずはそのファーストステップとして、BtoBの予約・管理クラウドサービスに注力してきました。
――立ち上げは順調でしたか?
初めは年次50%から100%の成長率でしたが、コロナで横ばいになりました。まさか3年間も影響が続くとは思っていなかったので、そこは誤算でしたね。
――飲食業界の予約システム市場について教えてください。
日本にある飲食店約80万店舗のうち、現在は8万店舗ほどがネット予約を取っています。コロナ前は4万店舗ほどだったので、この数年で倍増しました。今後も今の人口減少や円安の傾向は大きく変わらないでしょうから、働き手の不足は避けられず、店舗のインバウンド対応は以前にも増して不可欠な状況となるため、オンライン予約の上手な活用はいっそう重要性を増すと思います。
インバウンド対応という観点では、TableCheckはリリース時から多言語に対応していたので、月間500万人ほどの利用のうち10%にあたる50万人ほどが海外からの予約です。
――導入ターゲットとなる飲食店は、すでにネット予約を使っているお店が基本ですよね。広告出稿などは積極的に行っているのでしょうか?
去年から若干オンライン広告を打つようになったものの、それまではマーケ予算ほぼゼロでやってきました。初期の頃はアウトバウンド(直接お店に電話営業するアプローチ)が100%でしたが、徐々に紹介や問い合わせをいただくケースが増え、現在は7割がオーガニック流入(自然増)、残りの3割がアウトバウンドです。
――競合がひしめく中で、TableCheckがシェアを獲得できている勝因はどこにありますか?
最も重要なのは、他社が有さない我々独自の「自動化・最適化」の思想だと思います。人がこなしたほうが最適な作業や経済合理性のある領域以外は、できるだけ自動化・最適化を支援するというプロダクト思想ですね。例えば、「その日に入社したアルバイトが予約管理をこなせるようにしたい」というプロダクトとは違い、「その日に入社したアルバイトが予約管理をしなくても良い」というのが私たちの目指す姿です。
また、ブランディング的な観点でいえば「ニッチから全体へ」の戦略です。日本には飲食店が80万店舗もあり、ジャンルが細分化されているのでデファクトスタンダード化するのが難しい。そこで、ホテルのグローバル5大ブランド(ヒルトンやハイアットなど)やミシュランの星付き店といった「母数は少ないけれど影響力のあるお店」をまず押さえにいきました。
――経営的なインセンティブも強力ですよね。多くのサイトが「送客手数料」を取る中で、御社のサービスは月額固定のシステム利用料のみ。
飲食店がグルメサイト経由で予約を取ると、1人あたり200円やコース単価の数%といった送客手数料が発生します。集客力が弱く空席を埋めたい店は「手数料を払ってでも集客したい」ですが、認知度やブランドのある人気店は集客力が高いので「手数料を払うのはもったいない」と考えています。
店舗の威を借りて収益を上げるのではなく、店舗の無駄なコストを最小化するインフラに徹したことは、ターゲティングのポイントだったと思います。

――アウトバウンドから紹介へとつながり、広告は打たず、デジタルではオーガニックの流入が7割になった――。PRなどはどうされていましたか?
私自身が積極的にメディアへアプローチしていました。正式に広報ポジションを採用したのは2016年頃です。今年(2026年)から対消費者向け(BtoC)のサービスを本格ローンチする予定なので、これまで以上にPRに力を入れ、消費者向けのプレゼンスを出していく必要があると考えています。
――国内外でシェアを高めているBtoB予約システムを、BtoCのサービスとして新たにローンチするのですね。
これまではいわゆる「黒子」として存在するシステムでした。今後は日本や海外のユーザーに「TableCheckを使えば素敵なレストランを便利に予約できる」と認知してもらえるように、メディアとしての地位を築きたいと考えています。
――BtoC事業をスケールさせるための、具体的な差別化戦略はありますか?
「エリア×ジャンル」という既存の検索軸ではなく、「自分の趣味嗜好に合ったお店を提案してもらえる」という体験価値を提供したいと考えています。接待だったりデートだったり、あるいは自分にとっての「5」の店だったり。予約体験そのものを最適化していく。どちらかというと既存のグルメサイトと競合するのではなく、彼らが提供できていない部分を埋めていくイメージです。
今のグルメサイトだと、例えば普段恵比寿でしかお店を探さない人は、他のエリアにある素敵なお店には出会えません。この状態はユーザーにとっても、飲食業界にとってもすごくもったいないことだと思うんです。自分にぴったりのお店が北千住にあっても、たどり着けない。
――個人の趣味嗜好に基づいた提案、そこにAIが活用されるのですね。
はい、コストや精度の面からAIを活用していく方針です。
――なぜ日本では今までそういった仕組みができてこなかったのでしょうか?
我々は10カ国のマーケットで事業を展開していますが、ここまでのところ、日本は海外より競争が緩やかに思えます。この14年間ほど、主要なグルメサイトの構造はほとんど変わっていません。アメリカではニッチなサイトがたくさんあったり、大資本同士がバチバチに戦っていたりしますからね。
――競合の状況はどう見ていますか?
競合は多様化しており、InstagramやTikTok、Googleなどが競合になるケースもあります。重要なのは、既存のサービスが提供できていない価値にフォーカスすること。そこで差別化ポイントとして考えているのが、価格戦略です。具体的には、「ダイナミックプライシング」的な、需要と供給を反映したレベニューマネージメントを導入したいと考えています。
――ホテル代や航空券などでは当たり前に導入されていますが、飲食店は「固定価格」が常識です。
はい。飲食店は月曜も金曜も同じ価格というのが一般的で、現在は一部のホテルレストランが平日・休日価格を設けている程度です。飲食店や消費者に受け入れられるかが鍵ですが、「アイドルタイムは安く提供する」といったメリットが出せれば、店舗もお客様もハッピーですよね。
昔の定食屋などは「今日はイワシがいっぱい入ったから安いよ」というダイナミックプライシング方式でした。いわゆる「時価」ですね。デフレの影響もあり固定価格が当たり前になっていましたが、原価や人件費の高騰などを考えると、これからはその仕組み自体を変えていく必要があります。
――組織体制についても教えてください。専属のマーケチームはあるのですか?
チームを組織したのは2025年です。それまでの広報やメディア対応、メッセージングなどはすべて私が決定してきました。BtoBは機能やオペレーション効率などが重視されますが、BtoCは多種多様なベネフィットのいずれかに合致することで支持を得るものなので、BtoBセールスと比較してマーケティングの重要性が格段に上がります。飲食店経営者も、見方を変えれば一消費者。BtoBでもBtoCでも共感できるメッセージングが重要です。
――グローバル展開について、今後のロードマップを教えてください。
各国で競争環境が異なるため、勝ち筋が見える地域に投資したいと考えています。例えばタイ、香港、シンガポール、韓国などでも導入を進めており、現地の会員数が増えれば、彼らが来日する際に「日本に行く時にはこんなキャンペーンがある」とプッシュ通知で促すことができます。アジアはまだ競争が激化しておらず、これから伸びるマーケットが多い印象ですね。
――パートナーシップ戦略についてはいかがでしょうか。
カード会社や地方自治体との連携に特に力を入れています。中でも地方自治体は「インバウンド誘客」を謳いながらもネット予約に対応していないケースが多く、非常にもったいない状態です。
――成功事例はありますか?
成功事例として長野県白馬村との取り組みがあります。白馬には予約システムを導入している飲食店が少なく、レストランを予約できないインバウンドのスキー客が“夕食難民”となってコンビニのおにぎりなどを食べているという状況がありました。こういった問題に対し、自治体主導で村の飲食店を一斉にネット予約対応にしたんです。「皆さん、もう入れましょう」って言って。
――地域の飲食業界を盛り上げ、消費者に良い体験を提供するという点で「不」を解消したいい事例ですね。最後に、マーケティングやブランディング、事業開発に向き合っている方たち向けに谷口さんの哲学を教えていただけますか。
事業にとって一番大事なのは「イノベーション」であり、そのためには今の常識を疑うことが不可欠です。例えば会計をスムーズにするために「3アクションを2アクションにする」のではなく、「0アクションにできないか」から考え始めてみる。最初から「3を2に」と考えてしまうと、「0」にするという発想は生まれません。
――テクノロジーが進化すれば「勝手に便利になっていく」と思われがちですが、最先端の技術とアナログ対応の現場を接続する谷口さんのような存在が必要なんですね。「自動化は簡単だが、最適化は難しい」。谷口さんのこの言葉にすべてが集約されていると感じました。TableCheckがどんな“仕掛け”を見せてくれるのかますます楽しみです。本日はありがとうございました。
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