【対談】コピーライティングがビジネス動画に必要な理由を、コピーライターに聞いてみた

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投稿者:USAMI HIROYUKI

台本作成費、キャスティング費、素材購入費、ロケハン・撮影費、編集費――。動画制作の見積もりにはさまざまな項目がありますが、重要なわりに含まれていないことも多いのが「コピーライティングに関する費用」です。販促(広告宣伝)のため、あるいはブランディングのために動画をつくるなら、コピーライティングにも力を入れましょう。コピーライティングの必要性や良し悪しを理解することは、パートナーの選定や動画の企画・品質チェックをする際の手助けにもなります。

この記事では、企業のコンテンツマーケティング支援やブランディング支援を行っているファングリーの動画制作ディレクター・内藤が、コピーライターの和田裕史さんに「ビジネス動画にコピーライティングが必要な理由」というテーマでお話を聞いてみました。質の高い販促・ブランディング用動画をつくるうえで無視できないポイントを、あらかじめ押さえておきましょう。

話し手:和田 裕史(わだ・ひろし)さん

話し手:和田 裕史(わだ・ひろし)さん
コピーライター。アガルートアカデミーやブランド・プランナー協会にて、Webマーケティング/言語クリエイティブ関連講座で講師を担当。Twitterおよびnoteでは、「#きょうのコピー」を毎日更新中。

聞き手:内藤 一樹(ないとう・かずき)

聞き手:内藤 一樹(ないとう・かずき)
動画ディレクターとして企業VP(ビデオパッケージ)からブランディング動画まで、課題解決のための映像制作に従事する。企画から撮影、編集まで動画制作の全工程に対応。ドローン撮影が得意。

コピーライティングが果たしている2つの役割

対談01
内藤:普段から販促や認知拡大を目的とした動画をつくっているのですが、ディレクターとして長年動画制作に携わっていると、コピーやナレーションなど、動画で使われる「言葉」の大切さに気づかされます。まず、コピーライティングがどういったものか、全体像から教えていただけますか?

和田:「コピーライティングとは何か」っていうのは人によって考え方が違うのですが、私は大きく2つあるのかなと思っています。1つは、コミュニケーションのショートカット。例えば、テレビCMだったら15秒ものが一般的ですよね? YouTubeでは「バンパー広告」と呼ばれる6秒の動画が一般的で、長い場合でも30秒や1分くらいのものが多いと思います。どういうことかというと、それくらい短い時間しか動画広告を見てもらえない、ということです。

ほんの少しの時間で新しい気づきや発見を与える必要があるので、映像の中で長く説明することはできません。そういったときに、その商品やサービスの良さ、ベネフィット、こだわり、想いなどを伝えるのに有効なのがコピーなんです。

私が好きなコピーライターに仲畑貴志さんという方がいるのですが、その方が言うには、「素晴らしいコピーの頭には『早い話が』が必ず付く」と。TOTOの温水洗浄便座に付けた「おしりだって、洗ってほしい」は仲畑さんがつくった非常に有名なキャッチコピーですが、このコピーも「早い話が」で完結に説明できる図式になっています。こういった役割を私はコミュニケーションのショートカットと呼んでいて、優れたコピーライティングにはダイレクトに「つまりこういうこと」を想起させてしまう機能があると思っています。

内藤:ああだこうだ細かく説明する時間がない(説明しても映像を見てもらえない)なら、そこをカットしても特徴やベネフィットを理解してもらえるコピーが重要だということですね。2つ目はなんでしょうか?

和田:2つ目は、商品やサービスを売る側と買う側をつなぐ接着剤のような役割です。商品というのは、売りたい人と買いたい人が出会ってはじめて売れるものです。「困っている人にこの商品を使ってもらいたい」という売る側がいて、「いい商品ないかな?」と探している人の目に印象的なコピーが飛び込んでくる。それによって、「これまでつながっていなかった売りたい人と買いたい人に新たな関係性をつくれる」のが優れたコピーだと思います。

内藤:「コピーは、常に新しい着想や変わった切り口を提示するものであるべき」という考え方を聞いたことがありますが、コピーライターとしてそのあたりはどう思いますか?

和田:そうとは限りません。むしろ、場合によってはありきたりな表現のほうが読み手や聞き手に刺さりやすいケースもあります。例えば、これまで世の中にまったく存在しておらず、どう使うのか買い手がイメージできない商品やサービスの場合は、ベネフィットをシンプルに伝えるのが一番です。

例えば、自動車が初めて世の中に誕生したとします。自動車がどんなものか、一般の人にはわかりません。そんな状況なら、「すごく速く走る機械です」といった単純な広告コピーのほうが売上への貢献度は高いと思います。似たような商品・サービスがいくつもある中では斬新な表現のほうが目に留まりやすいですが、「斬新な表現=売れるコピー」「ありきたりな表現=売れないコピー」というわけではないのです。

SNSを使っていると感じますが、今日ではコピーの流行り廃りなど本当に一瞬です。だからこそ、コピーライティングには「シンプルでわかりやすいこと」が求められるのかなと思います。

「戦略なきコピー」でユーザーの行動を変えるのは難しい

内藤:「シンプルでわかりやすいことが求められる」と聞くと、ちょっとひねった「情緒的なコピー」は居場所を失いつつあるのかなという気もしたのですが、そのあたりはどうですか? 例えば、JR東日本が展開していたJR SKISKIのキャンペーンで、「ぜんぶ雪のせいだ。」という有名なコピーがありましたよね。確か2013年くらいだったかと思いますが。

和田:「ぜんぶ雪のせいだ。」は、ゲレンデマジックをテーマにした情緒的なコピーですよね。「スキー場に行けば新しい出会いが生まれ、恋がはじまる(可能性がある)」という期待感をほのめかしているのですが、実はあのコピーはSNSでの拡散も想定されたものでした。当時は、SNSがどんどん使われるようになっていった時代。SNSで話題になりやすいコピーがとても短いことを踏まえて、たった8文字で完結させています。「ぜんぶ『仕事』のせいだ。」といったようにアレンジして使いやすいフレーズでもあったので、ターゲットである若者層の間で広まりやすかったというのもあるように思います。

内藤:「勉強や仕事がどうだ」とか「将来がどうだ」とか、そういった若者が抱える悩みを全部忘れて遊びに来てください、雪を“免罪符”にしてしまえばいいのだから――といった“誘惑”のようなコピーライティングですね。このコピーを見てもスキー場自体の魅力はわかりませんが、それでも行ってみたいという気持ちになるし、10年近く経っているのにはっきり覚えています。

和田さんが先ほど言った「接着剤」という考え方がしっくりくるかもしれませんね。例えば、漠然と「友達と遊びたい」「サークルで合宿イベントを企画したい」と考えている大学生がいて、テレビCMやSNSを通してこのコピーを目にする、と。そこではじめてスキー場が選択肢になるわけですから。

和田:いいコピーには、言葉の前後にストーリーがあります。そのストーリーをもとに映像を制作すれば、読み手や聞き手に対してとにかくわかりやすく、頭の中に残りやすいものがつくれるんじゃないでしょうか。これは動画に限りませんが、すべてのコンテンツはコンセプトでありストーリーからつくるべきです。まず言葉ありきなんですよね。しっかりコンセプトを練るからこそ「ど真ん中にくるコピー」が考えられるし、そこからいろんなクリエイティブに展開しても矛盾が生じないわけです。

内藤:制作中は言葉のニュアンスをそこまで意識できないこともありますが、むしろそこが大事ですね。これからの映像ディレクターには、撮影とか編集よりも「コンセプトの言語化」のスキルのほうが重要なのかもしれません。

和田:動画をつくる場合、「誰に対してどんなメッセージを伝えたいか」というのは必ずあるはずです。コンセプトがあるということは、そこに言葉が必ずあります。「デザインがまずでき上がり、そこに後付けでコピーを載せる」という流れで制作する映像やウェブサイトも多くありますが、そういった表面的なコピー、言い換えれば「戦略なきコピー」でユーザーの行動を変えるのは難しいですよね。

内藤:ビジネスで使う動画をつくるのって、それが目的ですからね。そこはブレずに意識しておきたいポイントです。

【事例解説】1フレーズでその裏側の20文字、30文字を想起させるのがいいコピー

内藤:コピーライターの和田さんが思う、「優れたコピーライティング動画」ってどんなものですか?

和田:今回ご紹介したいと思った事例は、九州・大分にある1861年創業の会社「フンドーキン醤油」の160周年記念CM「味は時間で、できている。」です。

内藤:まず「味は時間で、できている。」っていうタイトルから感じ取れるメッセージ性がすごいですよね。なんでも自動化でやっていこうとする世の中に対するアンチテーゼというか、強烈な意思表明になっています。「いくらでも効率的にできるものはあるけど、自分たちはそうしない、そこをポジショニングにしない」っていうブランディングですよね。メインコピーまでのセリフがとてもリアルで、人の行動を変えるボディコピーってこういうものなのかって思いました。

和田:メインのキャッチコピーがあり、その脇にある補足的・説明的な文章がボディコピーです。映像の場合だと、ボディコピーがナレーションに置き換わるんだと思います。意識や興味を引き付けるためのキャッチコピー、もっと読ませる(見させる)ためのボディコピー、っていう役割ですね。キャッチコピーとボディコピーはつくり方が少し違って、読ませるためのテクニックが求められます。「ボディコピーがうまい作品はいい作品」って言われたりしますね。

内藤:この構成と文をつくれるのがすごいです。最後の持っていき方がグッときますね。そして、和田さんが今言った「ボディコピーが動画のナレーションにあたる」っていうのは、なるほどと思いました。言われてみるとたしかにそうですね。動画のプロットやナレーション原稿を作成する際は、ボディコピーを参考にしてみます。

対談02

和田:実際、10文字を切るようなキャッチコピーをつくるのって、めちゃくちゃ難しいんですよね。販促や認知拡大につなげたい制作者やクライアントとしては、できるだけ強み・特徴となる情報を詰め込みたくなるものです。でも、無駄に長いコピーはパッと見で何が言いたいのかわからないですし、そもそもキャッチーじゃないので印象に残らない。世の中のコピーを意識して見ていると、ただの解説文になってしまっているものもたくさんあります。フンドーキン醤油の事例のように、言葉に含みを持たせるというか、1フレーズでその裏側にある20文字、30文字を想起させてしまうようなコピーは素敵ですね。

内藤:フンドーキン醤油の動画で使われている「、」「。」には含みがありますよね。

和田:自分も「、」や「。」が好きです。言葉と言葉の行間を読んでほしいというのがあって。「、」や「。」があることでリズム感も生まれますしね。

内藤:ナレーションでいうところの「間」とか「タメ」にあたるものですね。

和田:あと、個人的に好きなのは、「味は時間で、できている。」というコピーがシンメトリーになっていて見た目がきれいなところですね。「味は時間で」が5文字、「できている」も5文字。左側の「味」と「時間」は漢字にし、「できている」はひらがなにすることで、このコピーで伝えたい「味」と「時間」がちゃんと引き立つようになっているんです。

内藤:そうですね! 確かに「味」や「時間」の文字に目が行きます!

醤油というとキッコーマンやヤマサといった大手がありますが、「私はこのメーカーしか買いません」といったこだわりがない人も一定数いると思います。そういうときにどういう理由で何を買うかと言ったら、「価格で選ぶ」か「何となく好感を持っているブランドや商品を選ぶ」になりますよね。その点、フンドーキン醤油は「この会社、なんかいいな」と思わせるところが戦略的に優れています。口に入れたことがなくても、買ってみたくなるというか、応援したくなるというか。そういう「アクションを変えるコピーライティング」が動画にも必要ですね。

【事例解説】動画の中では「一人称」「二人称」「三人称」を使い分けないほうがいい

内藤:私からも「優れたコピーライティング動画」の事例を一つ紹介します。日本自動車工業会をはじめとした自動車関連5団体のCMです。

「私たちの組織はこういう人を大事にしているんです」っていうメッセージを、自動車関連業界で働く550万人に送っている、応援メッセージ動画です。この映像を見た当事者は「よし! 頑張ろう!」という気になるんじゃないか、と思える力強さがありました。もともとボディコピー(ナレーション原稿)があって、そこから動画をつくっていると思います。

和田:広告とはちょっと違って、ドラマって感じですよね。

内藤:「私たちは、動く。」っていうキャッチコピーはどうなんでしょうか?

和田:「私たち」っていうのは、自動車関連業界で働く550万人ですよね。その人たちに向けたインナーブランディング動画だと思います。

内藤:働いている人たちのモチベーションを上げる動画ということですか?

和田:それは一つあると思います。インナーブランディングは一体感をつくるための施策なので、この動画はその役割を果たしていますね。それ以外にも、「普段気にすることなく乗っている車の見えないところには、便利さを支えているスタッフが大勢いるんだぞ」という業界の社会的重要性を外向けにアピールする目的もありそうです。

内藤:そういうコンセプトがあって、ボディコピーが出てきているってことですね。制作するにあたって、ボディコピーのイメージは制作着手時からあるものですか?

和田:映像が先か言葉が先かはわかりませんが、ストーリーがしっかりあるので、ボディコピーのイメージはあったと思います。

内藤:動画の冒頭は夜明けの撮影シーンで、音楽も静かなんですけど、そこからだんだんコピーも音楽の雰囲気も前向きになっていくんですよね。なので、ボディコピーからイメージをつくっていたのかなと思いました。結局、「優れたコピーライティング動画」にはいいシナリオがあると。

和田:私が以前受講していた講座の先生から教わったテクニックとして、「一人称、二人称、三人称を使い分けないほうがいい」というのがあります。動画を一人称で語るならずっとそうしたほうがいい、そのほうがユーザーに優しいと。これは紙やウェブでもそうですが、途中で視点が変わるとユーザーは混乱しますからね。「これは誰に対するメッセージなんだろう」と思われたら、刺さるコピーやコンセプトも刺さらなくなってしまいます。だから、最後まで見たり読んだりしてもらうためには、視点の置き方を一貫させることが大事なんです。

和田:メッセージでストーリーを展開していった自動車関連5団体のCMに対して、ほとんどメッセージがないのが九州新幹線全線開通のCMです。

内藤:これすごいですよね。自分は九州にとくにゆかりなどないですが、CMを見たときは地域の人たちの一体感に感動を覚えました。

和田:クリエイティブディレクターは古川裕也さん、コピーライターは磯島拓矢さんという方で、どちらも自分が教わった方です。「SNSとかで拡散したいから10文字以内の短いコピーで」といった要望を受け、キャッチコピーが「祝!九州」になったんですよね。

内藤:しかし、よく人が集まりましたよね。

和田:事前に告知して人を集め、JR九州などの協力も得て撮影のポイントでは新幹線をゆっくり走らせたんじゃなかったかな。

内藤:新幹線って、地域同士で揉めたりすることもあるじゃないですか。でもすべての地域の人たちに応援されている、期待されている、という見せ方がとてもうまいと思います。

和田:そういうのを演出したかったんだと思います。古川さんは、「このCMは絶対にタレントを使ったらダメ」と言っていたようです。なぜなら、どうしても上から目線になってしまうから。「地元の人が主役になるようなCMにしないと成功しない」と考えていたんですね。

最近では動画も広告も、ちょっとしたことで炎上するリスクがあります。制作陣は当然良いものをつくろうと思い、時間をかけているのですが、伝え方というか、目線の置き方やメッセージの発し方にちょっとした“ボタンの掛け違い”があると、プラスどころか大幅なマイナスポイントになってしまう。この動画は、相当神経を使ってつくったと思いますよ。

内藤:目のつけどころで言うと、新幹線の速さとか最新の設備とかではなく、「地元が応援して九州が一つになりました」というストーリーをアピールしたのが良かったですね。

和田:そうですね。そこもコンセプトの勝利だと思います。

ビジネス動画を制作する際に意識したいこととは

コピーライティングと聞いて、「表層的な作業」というイメージを持っている方もいるでしょう。しかし、その裏側にあるコンセプトやストーリーという「背骨」をきちんと理解し、膨大な情報のなかからエッセンスを抽出し、無駄を極限までそぎ落として文章を作成するというコピーライティングの工程を経ることにより、訴求力が高いビジネス動画が完成します。

なお、コンセプトやストーリーという「背骨」をつくるのは、コピーライター(パートナー)ではなく、商品やサービスのことを最も理解している自社のスタッフです。ビジネス動画の制作を考えている方、動画制作パートナーを探している方は、コンセプト・ストーリーの作成を完全に外部へ投げるのではなく、自分たちである程度まで練ってからパートナーのクリエイティブ力を借りるようにしましょう。

株式会社ファングリーでは、ウェブサイトやメール、オフラインツールなどを使った総合的なコンテンツマーケティング支援を行っています。企業ブランディング動画、インタビュー動画、YouTubeや各種SNS向けの動画広告、展示会向け動画、ビデオインフォグラフィック、採用動画、eラーニング動画、オンラインマニュアル動画、チュートリアル動画など、さまざまなジャンルの制作実績があります。動画制作に関するお悩みや課題をお持ちの担当者様は、お気軽にお問い合わせください。

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HIROYUKI USAMI

コンテンツディレクター/ライター

前職はスポーツ系週刊誌の編集者。現在は週2日休めること、DAZNが台頭したことなどから、当時よりもスポーツ中継を満喫する日々。やるほうはからっきしなので、体力の低下が著しい。自分の仕事をママ友・パパ友にうまく説明できず、コンテンツディレクターとは何者かを自問自答する日々。

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