TOPインタビュー/29年間トップに君臨したライオンズマンション再出発の裏側|大規模リブランディングの背景と、重視したこと

Interview

# 18

29年間トップに君臨したライオンズマンション再出発の裏側|大規模リブランディングの背景と、重視したこと

株式会社大京

事業管理部 事業企画室 ブランド推進課 課長

阪口 裕也(さかぐち・ゆうや)

clock
SHARE
  • x
  • facebook
  • hatena
  • note

コンテンツプロデュースカンパニーを標榜する株式会社ファングリー代表の松岡でございます。

「コンテンツ界隈ここだけの話」の第18話、今回は2023年に「ライオンズマンション」を「THE LIONS」へリブランディングした際のコアメンバーの一人、株式会社大京の阪口裕也さんをゲストにお招きします。

マンション事業主別発売戸数で全国1位となった1978年から2006年まで、29年にわたりトップであり続けたライオンズマンション。そのブランドを刷新することになった経緯や背景、ビッグプロジェクトをどのようなステップで進めていったのかなどについて、内情を含め詳しくお聞きしました。

阪口 裕也(さかぐち・ゆうや)

株式会社大京

事業管理部 事業企画室 ブランド推進課 課長

阪口 裕也(さかぐち・ゆうや)

2014年、株式会社大京へ新卒で入社。建築企画、商品開発、施工管理、アフターサービス、品質管理の多くの部署をジョブローテーションで学び、商品開発業務を主に担当。2017年にグループ会社穴吹工務店へ出向し、2019年に出向解除。社内会議のとりまとめ部署を経て、現在の事業管理部では事業改革およびブランド推進を担当している。2023年10月より現職。

中期的な事業計画を再考する流れの中で始まった取り組み

──「ライオンズマンション」は言わずと知れたファミリー向けマンションの超大手ブランドですが、リブランディングはいつ頃から準備してきたのでしょうか?

リブランドの発表が2023年4月で、その1~2年くらい前から水面下では活動していました。関わったコアメンバーは60名くらいでしょうか。ブランドのコアを言語化していくという作業は、広告代理店の専門家に伴走してもらいながら行ってきました。

──今回の取り組みは経営層のトップダウン型で進められたのか、現場主導のボトムアップ型だったのかについて教えていただけますか?

トップダウンではなくボトムアップでした。当社の場合はプロジェクトリーダーがいて、その下で私がサブとして周囲と対話を繰り返しながら各種オペレーションを進めていった形です。社員に対して丁寧に周知しながら取り組めたのは一つのポイントで、なかなか表に出てこない部分ではありますが良かったところだと思っています。

──阪口さんが所属する組織(事業管理部 事業企画室 ブランド推進課)はどういった部署なのでしょうか?

大京はオリックスグループの100%出資会社です。なので、まずオリックスグループという大きな組織があって、その中に不動産セグメントがあり、その不動産セグメントの中にマンションを作る大京やマンション管理を担う大京アステージなどの関連会社がある――という構造です。

私が所属する大京事業管理部はバックオフィス機能を担う部署で、販売管理や事業企画を主な役割としています。事業企画室は、経営会議の資料や稟議などの受付および審査を行い、事前に役員報告するといった部署。ブランド推進課は文字通り、リブランドした「THE LIONS」のアウター向け発信やインナー定着をメインミッションとする組織です。

──なるほど、現在の部署では経営に関わるいろんな情報を広く把握できそうですね。リブランディングプロジェクトは、どのような経緯で始動したのでしょうか?

2019年くらいからですかね、現在のブランド推進課の前身となる組織で「中期計画を見直そう」という話になりました。経営層から「5年先を見据えた事業計画を考えてほしい」と指示を受け、私を含め3人程度がアサインされました。

「都心でより価値の高いマンション作りにシフトしていく」という今に通ずる戦略を立てたり、会社のポートフォリオを再設計したりする中で、私たちはある一つの結論に至りました。それが、「すべての事業の底上げにつながるブランドを再構築しなければならない」というものです。「THE LIONS」のプロジェクトが始まったのはそこからですね。

「ライオンズマンション」時代の旧ロゴ

リブランドした「THE LIONS」の新ロゴ

──この数年で不動産市場はもちろん、コロナの流行など大きな社会的変化もありました。そういった状況も影響しましたか?

コロナの影響もありますが、それ以前からマンションの供給数をぐっと減らしていた時期が長く続いていました。きっかけは、私が入社する以前に発生したリーマンショック(2008年)です。そこからしばらくして大京は2019年にオリックスの完全子会社となるのですが、そこが一つの転機だったと言えます。上向きに事業を推進していくための土壌ができ、成長への準備が整ったように感じました。

──経営統合がプラスに働いた好例ですね。ちなみに、市場環境の変化もブランドのあり方に影響しましたか?

はい。新築マンションの価格高騰はその一例で、メインターゲットが「一般的なファミリー層」から「パワーカップル層」へと変化しました。買う人が変われば生活スタイルや理想とする暮らしのイメージも変わるので、それに合わせてブランドも変えていく必要があります。私たちはそうしたニーズを的確にキャッチし、そのニーズに対応するマンションを提供していかなければなりません。

ライオンズマンションが29年間にわたり供給戸数1位だった時代(※)に比べると、近年は他のデベロッパーの台頭が目立ちますよね。競合他社が供給戸数を伸ばす中で私たちが「落ちていった」のではなく、競争の激化によって「相対的なポジションが変化した」と認識しています。リブランディングは「一流のマンションブランド」というポジションを再獲得するための取り組みなので、競合他社と差別化する意味は非常に大きいと考えました。

※(株)不動産経済研究所調べ

「PRがうまくない」を刷新するための情報発信が一丁目一番地

──リブランディングについて少し深掘りしたいのですが、そもそも最初からボトムアップでいく方針だったのでしょうか?

中期計画について報告する際に取った社内アンケートでは、「ライオンズマンションブランドについてどう思うか?」という問いに対して約9割の社員が何らかの課題を感じていました。しかし、それと同時に彼らがライオンズマンションを誇らしく思っているということも分かりました。

最初に旗を振ったのは当時の経営層でしたが、「社員にそういった意思があるならボトムアップで進めるのが良いだろう」という流れになりました。

──なるほど。ボトムアップで進めてきたプロジェクトにキーマンが突然介入してきてちゃぶ台がひっくり返るようなケースもありがちですが、そのあたりはいかがでしたか?

そういうケースは実際にありそうですが、本件においていわゆる“バックスピン”がかかったということはありませんでした。プロジェクトメンバーからの報告に対しては、経営層がかなり肯定的に受け入れてくれていたと感じています。

──リブランディングにはどれくらいの期間をかけましたか?

2022年に着手し、そこから1年半くらいかけました。代理店のフォローがあったため、これでも比較的スムーズに進んだ印象です。ビジョンや提供価値など、抽象度の深い概念を言語化するフェーズでは、経営層にも社員にもおおむね賛同を得られていました。

──それはすごいというか、極めてスムーズでしたね。

ただ、抽象的なCI言語にピンと来ていなかっただけの社員もいると思います。

──言葉を見た段階では自分事になっておらず、具体的な業務と接続できていないようなケースですね。

そうです。実際そういったケースはあると思っていて、そのギャップを埋める作業については今も苦労している部分ではあります。

──ギャップを埋めるため、どのようなことをしているのですか?

ブランドテストを満点が出るまで受けてもらったり、ブランドを感じられるノベルティを制作して渡したりしています。あとは、コアバリューをイラストやマンガにする企画なども実施しています。

──アウターブランディングでうまくいった戦術はありましたか?

うまくいきつつあるのはイメージ転換です。実は「大京が日本で初めてマンションに採用したもの」がいくつもあるのですが、ご存知ですか?

──……ちょっと、分からないです(笑)。

そうですよね(笑)。たとえば、オートロックや宅配ボックスなどです。

──どちらも大京さんが日本初なんですね!

居住者のためにこういったトライをたくさんしてきているのに、広報活動につなげられない。それがこれまでの当社でした。そのためやっていることとブランドイメージの乖離が大きく、社員からも「良いものを作るけど発信は下手」「PRがうまくない」といった声が出てしまうこともありました。そういった背景もあり、アウター向けの情報発信については「イメージ戦略が一丁目一番地!」という意気込みで取り組んでいます。

──具体的には、どのようなイメージ戦略を行ったのでしょうか。

デザインイベントに出展して「2050年の究極の暮らし」をイメージしてもらったり、「ザ・ライオンズ 世田谷八幡山」という高水準な環境性能に加え、ビジュアルにとことんこだわったパイロット物件を作ったりしています。リブランドしたものをすべて反映したマンションに足を運んでもらい、イメージの変化を訴求しようという戦略です。

──重要なのは、「届けたい人にどう届けるか」。

PR戦略で勝つには、購入検討時に選択肢から外れないこと、つまり「ファンになってもらうこと」が重要です。実際、「ザ・ライオンズ世田谷八幡山」に来られた方には響いているという実感があったので、これから購入を検討する可能性がある方や金銭的に余裕がある方など、ターゲットをぐっと絞ってやっていくのが良さそうだなと思います。

とはいえ、マス向けのPRも平行してやっています。交通広告ではトレインチャンネルを活用、雑誌では『& Premium(アンド プレミアム)』や『Casa BRUTUS(カーサ ブルータス)』で紹介してもらう予定で、TVerへの出稿も試しています。

──ブランドサイトも運用されていますよね。コーポレートによる発信内容にもこだわっているように見えました。

ありがとうございます。おっしゃる通りで、ターゲットに有益な情報を発信するのはもちろん、ブランドの世界観を理解してもらうためクリエイティブにもできるだけこだわって、ターゲット層に届くよう丁寧に発信しています。

──リブランドがどの程度ターゲット層に届いているかに関して、調査はされていますか?

リサーチ会社を活用しつつ、代理店といろいろ策を練って定量調査を行っています。基本的には「THE LIONSを知っていますか?」と質問し、ランダムにパイを回収する方法が多いですが、旧ブランドと混同して回答されているケースもあるので、成果を計るのは非常に難しいですね。情報の正確さはあまり気にせず、最初に収集した数値(初期値)をどう上げていくかが重要だと考えています。

──「こうなったら成功」といった明確なイメージはあるんでしょうか。

明確に言語化しているわけではありませんが、「親しみ」「安心」「大衆寄り」「庶民的」の傾向が強かった旧ブランドから、「上品」「高級感」「洗練」「環境配慮」などへのイメージ変容を図りたいです。もちろん、ブランドイメージが短期的に変わるとは思っていません。その点では、マーケットの中でいかに中長期的に存在感を発揮できるかが重要になると考えています。

「単なる空想で終わらせない」というメッセージの発信が重要

──中期的にはどういったビジョンをお持ちなのでしょうか?

先ほど「2050年の究極の暮らし」について触れましたが、「THE LIONS」が掲げる未来像については「こんな自由な住まいが合ったらいいよね」を話し合い、ブラッシュアップしている最中です。ただ空想するだけでなく、いろんな専門家から意見を仰いだ上で設計に落とし込んでいます。

──「理想とする暮らし」をいかに理想のままで終わらせないか、を重要視しているわけですね。

はい。ビジョンを見せて伝えていくことはもちろん必要ですが、それが「絵に描いた餅」で終わってしまっては意味がありません。理想をサービス(住まい)に落とし込むことはとても重要で、暮らしの中で大切にしたいことをどうカスタマイズし、どうすれば実現できるかを考えるのが私たちの責任だと思っています。

その一環で「五感に訴えかける企画」というものがあり、匂いや音に関するコンセプトをオリジナルで作っていくという活動も行っています。今年中には形にして出したいと思っているところです。言うなれば、「空想の世界観」に向けて現実レベルの施策に取り組んでいる最中といった感じでしょうか。ビジョンを単なる空想で終わらせないぞ、というメッセージを打ち出していきたいと考えています。何も「海に浮かぶマンションを作りたい」といった突飛なアイデアではないので(笑)、イメージをどう現実に近づけていくかが重要ですね。

──例えば今から5年後、2030年くらいに向けた具体的なアクションはお考えですか?

今秋に日本最大級のデザイン&アートフェスティバル「DESIGNART TOKYO」というイベント(2025年10月31日~11月9日)が開催予定で、そこへの出展を目指していろんな企画を動かしています。今構想段階にあるのが「2030年の居室」というテーマで、具体的にどういうイメージにしていくべきか、もう少しスコープを狭めて考えていきたいなと。

──インバウンドの需要はいかがでしょうか?

現在はアジア系インバウンドの顧客も多く、ブランドとしては注力していきたいターゲットにあたります。インバウンドが日本のマンションに求めたい価値と私たちが提供したい価値に乖離はないと思うので、そのあたりは自信を持って取り組みたいです。

──最後に、阪口さんが気になっていること、やりたいことについて教えてください。

顧客にとっては、「購入を検討する期間」よりも「住む期間」のほうが長いものです。なので、管理会社にも「THE LIONS」のブランドを浸透させ、一貫性を持たせなければなりません。

同時に提供サービスを変化させていく必要もあるのですが、まだそこはやりきれていない状態です。ユーザーエクスペリエンスをしっかり設計し、届けたい人にブランドコンセプトをしっかり届けるという活動を、効率的かつ丁寧に進めていきたいですね。「2050年ビジョン」には続きがあるので、ぜひ期待していただきたいと思っています!

──「賃貸か、購入か」などは昔から議論されてきましたが、現在は多拠点居住などのライフスタイルも一般化してきています。今後も多様化の流れは続いていきそうですね。

世の中には「ものを持たない」人たちも一定数いて、拠点を設けず転々と暮らすというスタイルもあります。多拠点居住のお話も出ましたが、「複数所有」や「共同所有」という考え方もあり、そのニーズは年々高まってきていると感じます。新しい住まいのあり方や暮らしの多様性については、常に考えていかなければなりません。

──お話を聞いて、リアルな不動産業界の現場におけるブランド構築(再構築)の必要性や流れなどを知ることができました。まだ道半ばの浸透フェーズで、「THE LIONS」が今後どのような仕掛けをしていくのか注目したいです。本日はありがとうございました!

SHARE
  • x
  • facebook
  • hatena
  • note
一覧に戻る

INTERVIEW インタビュー

ファングリー代表の松岡がコンテンツ界隈の方たちをゲストに迎え、「ここだけの話」を掘り下げるインタビュー企画です。

LATEST

最新記事

一覧を見る

カスタマーマーケティングはなぜ重要?成功事例から見る施策と成果

コンテンツマーケティング会社選びのポイント!他社の成功事例も紹介

SEO分析に役立つおすすめツール10選【無料版・有料版】

ホームページ(Webサイト)の作成費用を依頼先・種類・ページ数別に詳しく解説

GA4の導入方法!導入後に役立つ初期設定についても解説

リライトの費用相場まとめ!依頼先や作業内容から料金の目安を知ろう

ブランディングとは?効率良く成果を出すポイントを紹介

経営者の想いを言語化し、企業価値を高めるコーポレートブランディングの考え方

ライティングレギュレーションの作り方!具体例や作成ポイントを紹介

集客とマーケティングは違う?成果を出す戦略と目的ごとに有効な集客方法を解説

一覧を見る