Interview
# 45
ハンセドリームジャパン株式会社
EC・マーケティングチーム チーム長
長谷部 佳奈(はせべ・かな)
コンテンツプロデュースカンパニーとして、企業のコンテンツマーケティングやブランディング活動を伴走支援する株式会社ファングリーの代表・松岡でございます。
「コンテンツ界隈ここだけの話」第45話のゲストは、韓国発の子供服ブランド「moimoln(モイモルン)」を日本で展開するハンセドリームジャパン株式会社で、ECおよびマーケティングの責任者を務める長谷部佳奈さんです。
モイモルンは北欧テイストの洗練されたデザインで、子育て世代から多くの支持を集めています。2020年の日本法人立ち上げからわずか数年で関東・関西を中心に全国のショッピングセンターや百貨店へ20店舗以上を出店し、激戦の子供服市場において独自のポジションを確立しました。
その成長の裏側にあった、試行錯誤の数々――。今回は、ECと実店舗をシームレスにつなぐマーケティング戦略や、日本市場におけるきめ細やかなローカライズの工夫などについて、長谷部さんに詳しく伺いました。
ハンセドリームジャパン株式会社
EC・マーケティングチーム チーム長
長谷部 佳奈(はせべ・かな)
大学進学を機に上京し、卒業後はアパレル専門学校でヴィンテージや海外バイイングを学ぶ。ヴィンテージショップやインポートアパレルでの販売・店舗運営を経て、EC運営やSNSマーケティングへとキャリアを広げる。アパレル業界で17年以上の経験を持ち、現在は韓国発ベビー・キッズブランド「moimoln(モイモルン)」日本法人のEC・マーケティング責任者として、ブランド戦略からEC事業、SNS運営、広告・CRM施策まで幅広く統括。ブランドの世界観を通じ、子どもと家族に寄り添う体験価値の創出を目指している。

――モイモルンの服は私の娘たちも利用したことがあり、独自の世界観が確立されている素晴らしいブランドだと感じています。まずは、長谷部さんのこれまでのご経歴や、現在のミッションについて教えていただけますか?
ハンセドリームジャパンにジョインしたのは、日本法人が立ち上がった直後の2020年8~9月頃でした。当初は主にSNSマーケティングを担当していましたが、立ち上げ期でメンバーも少なかったこともあり、過去のEC運営の経験などから私がECサイトの立ち上げもメインで動かすことになったんです。
――SNSからEC領域の立ち上げまで、初期のデジタルチャネルを包括的に担われていたのですね。
はい。その後、組織が拡大して店舗数も増えていく中で、マーケティングの領域がSNSやデジタル広告だけにとどまらず、店舗マーケティングや商業施設とのイベント企画などにも広がったんです。その1年後に、私はマーケティング部門の専任という形になりました。その後、会社の方針で今年(2026年)6月にECとマーケティングを統合した部門が誕生し、その責任者を私が務めるという組織体制に変わったばかりです。
――ECとマーケティングを統合したのは非常に本質的ですね。 オンラインとオフラインを分断させず、よりシームレスな顧客体験を提供するためには、組織側から垣根を払うことが不可欠だと私も強く実感しています。
おっしゃる通りです。マーケティング側で行っている顧客分析やSNSでのコミュニケーションを自社ECサイトの売上向上に直接結びつけるには、部門を統合して一緒に動いたほうがシナジーを生み出せますから。現在の最大のミッションはECの売上を伸ばしていくことですが、そのためには広告配信だけでなく、SNSの運用や実店舗のイベント企画なども含めた総合的なマーケティング戦略が不可欠になっています。
――現在のECと実店舗の売上比率と、これまでの推移はいかがですか?
現在の売上比率はECが4割、店舗が6割といった状況です。2025年に、会社全体として売上が非常に大きく伸びるターニングポイントがありました。ただ、その成長の大きな背景には、値引きやセールといったこれまで積極的には行っていなかった施策を打ち出したという要因があったんです。
しかし2026年に入り、現在は少し苦戦している部分もあります。というのも、セールが続くと「モイモルンはセールをするブランドだ」というイメージが定着してしまうからです。すると、昔から定価で買ってくださっていたコアなファンのお客様が離れてしまうリスクがある。どこのブランドも抱えている悩みだと思いますが、私たちとしては「セールブランド」という立ち位置にはしたくないという強い思いがあります。
――なるほど。一時的な売上拡大という「起爆剤」が、本来のブランドエクイティ (価値)との間にジレンマが生じてしまったわけですね。
そうなんです。現在はリブランディングを行い、元の理想とする価値観に戻していくための動きを強めています。広告などで安定した売上水準を保ちつつも、割引に頼らないノベルティ施策や、ブランドのストーリー性を伝えるための店舗マーケティングを軸にして、新規のお客様と長期的な関係を築いていきたいと考えています。
――ノベルティ施策は、具体的にどう戦略へ組み込んでいるのでしょうか?
年に4回、季節ごとに豪華なノベルティをプレゼントするキャンペーンを実施しています。直近では今年(2026年)9月から、1万円以上のご購入で「オリジナルトートバッグ&ミニミュゼット」のセットを先着でプレゼントしていました(2026年10月現在配布終了)。

ノベルティとして配布したオリジナルトートバッグ&ミニミュゼット
シーズンに合わせた非売品のアイテムを用意することで、「ノベルティがもらえるタイミングでまとめ買いしよう」という心理が働き、客単価が劇的に上がりやすくなるんです。これは、値引きに頼らず定価で商品を購入いただくための有効なプロモーション戦略として機能しています。

――「韓国発×北欧インスパイア」という独自のポジションも興味深いです。市場の認知とブランドのポジショニングはどうすり合わせているのでしょうか?
現在は韓国、日本、中国、アメリカの4ヶ国で展開しているブランドです。デザインは北欧、とくにスカンジナビアやフィンランドといった地域の自然やライフスタイルからインスピレーションを受けています。会社の方針としては「韓国発のブランド」という点を強化したい思いもあるのですが……。お客様が抱く「韓国ブランド=安くてかわいい」という一般的なイメージとは少し異なり、私たちは素材やデザインへのこだわりを強く持っています。そのため、ブランドの世界観としては「北欧テイスト」という部分を前面に打ち出しているんです。
――日本に進出した2020年当時、韓国発の子供服ブランドが実店舗を構えるケースは珍しかったのではないでしょうか。D2C・EC完結型のブランドが増えている中、あえて日本で実店舗を拡大されている理由は何でしょうか?
韓国では店舗を出店して規模を拡大していくというビジネスモデルがベースにあり、現在でも100以上の店舗を構えています。そのため、日本市場でも同様に店舗を増やしていきたいという意図がありました。進出当時、日本で実店舗を構えている韓国の子供服ブランドはほぼ皆無で、今でも全国規模で直営店を展開しているのは私たちを含めて数社程度だと思います。おっしゃられたようにECがメインとなっているブランドが多く、そこは私たちの大きな差別化要因になっています。
――現在日本で20店舗以上展開されていますが、施設ごとのペルソナや価格帯ギャップにはどう対応されていますか?
基本的には、集客力のある大型施設へ出店しています。出店先の選定において少し難しいと感じているのが、施設ごとの「価格帯のバランス」です。例えば「ららぽーと」のようなショッピングセンターでは周囲のブランドの単価が低めなことが多く、モイモルンの商品が少し高く見えてしまうこともあります。一方、百貨店では周りのハイブランドに比べて少し安く見えてしまう……。適正な価格価値を感じていただくための店舗づくりやブランディングには、非常に気を配っています。

ららぽーとEXPOCITY店

ららぽーと名古屋みなとアクルス店
――オムニチャネルの観点において、実店舗が果たす最大の役割は何だと捉えていますか?
最大のメリットは、お客様に安心感を与えられることです。私たちの商品は決して安いわけではありませんが、生地の肌触りや素材の質には絶対の自信を持っています。店舗で実際に洋服を触っていただき、品質の良さを実感していただく。そして店舗の空間を通してブランドの世界観を感じていただき、そこからInstagramなどのSNSのフォローへとつながるといった一連の流れは、最終的にECの売上にも大きく貢献しています。

――モイモルンのメインターゲットと、商品価値の訴求ポイントについて教えてください。
サイズで言うと90センチから110センチ、年齢としては保育園または幼稚園くらいのお子様がコアターゲットです。この時期は、お子様自身が「これを着たい」という強いこだわりを持つ少し手前の段階なので、親御様が「こういうかわいい服を着せたい」という楽しみを一番味わえる時期なんです。
デザイン面では、毎シーズンテーマに沿った動物やキャラクターのグラフィックを取り入れています。車や電車といったモチーフに比べると、子供自身の食いつき度は少し低いかもしれません。ですが、柔らかなタッチのグラフィックをデザインに取り入れることで、親御様が好むおしゃれさを担保しています。

――競合がひしめく子供服市場において、特に支持されているカテゴリーはどこですか?
アイテム数としてはワンピースなどがある女の子向けのほうが多いのですが、SNSでの反応を見ていると、男の子向けの洋服への支持も熱いと感じています。というのも、男の子向けの服のデザインは、成長するにつれてスポーツ系やヒーローものなどに偏りがちで、おしゃれな服の選択肢が少ないんです。
その点、モイモルンでは襟付きのセットアップなど、他社にはない少し上品でかしこまったデザインも豊富に揃えています。「モイモルンを着せると、周りのママ友から『おしゃれだね』と言ってもらえる」というブランド価値が、男の子を持つ親御様から高く評価されています。

――デザインや商品開発は韓国で行われているとのことですが、日本市場へアジャストさせるローカライズのプロセスについてもお聞かせください。
商品の基本デザインや開発はすべて韓国のデザイナーチームが行っています。シーズンごとにサンプルが上がってきた段階で私たち日本法人のチームが確認し、日本の気候や文化に合わせた調整をリクエストしています。
例えば韓国ではかわいいフード付きアウターが人気ですが、日本の保育園や幼稚園では安全上の理由から「フード禁止」のルールがあるケースも多いんです。そのため、「日本向けのものだけはフードを取り外せるようにして(またはなしにして)ほしい」といった要望を出し、生産が間に合うものはデザインを変更してもらっています。こういった細かなローカライズの積み重ねも、日本での支持につながっていると感じます。
――非常に興味深いのが、独自のアンバサダー施策である「キッズ店長」です。単なるインフルエンサーPRと何が違うのでしょうか?
「キッズ店長」は各店舗に1組ずつ、モイモルンの洋服を着て魅力を発信してくださる親子を任命する制度です。任期は春夏と秋冬の半年ごとに分かれており、月に1回以上は担当店舗に来店いただき、洋服を着た様子を撮影して親御様のInstagramで発信していただいています。加えて、近くに店舗がないお客様向けに「EC店長」という枠も2名設けています。
もともとはブランド全体で数十名の「アンバサダー」を募集していたのですが、それだけでは他社との違いを出しにくいと感じていました。そこで、店舗のスタッフとお客様がより密にコミュニケーションを取れる仕組みを作りたいと考え、各店舗に1人ずつ配置する「キッズ店長」という形に進化させたんです。
――キッズ店長はInstagramで募集されているとのことですが、応募の反響はいかがですか?
毎回、非常に多くの応募をいただいています。これは私なりの解釈ですが、これほど応募が集まるのは、「自分の子供を前に出したい、輝かせたい、SNSで記録に残したい」という強い思いを持つ親御様が多いからだと思います。さらに、インフルエンサーによる単なるPRとは異なり、キッズ店長には「大好きなブランドと密にやり取りをして、一緒に商品をアピールできる」という特別な体験価値があります。とくに百貨店などにある店舗のキッズ店長は、おじい様やおばあ様も一緒に来店されて、ご家族全体の素敵な思い出作りの場にもなっているようです。
――この共創施策は、実際の購買行動や売上(コンバージョン)に結びついていますか?
はい、明確につながっています。データを見ても、キッズ店長の投稿やそれを活用した広告からのEC流入・アクションが非常に多いですね。店舗では「キッズ店長が着ていたこのお洋服はありますか?」と問い合わせをいただくことも少なくありません。店舗スタッフが「今このアイテムを推したい」という要望をキッズ店長に伝え、それを着用して撮影・配信していただくというリアルタイムな連携も生まれており、良い相乗効果が生み出されています。

――子供服ビジネス構造上の課題である「サイズアウト(成長による顧客離脱)」には、どう対策しているのでしょうか?
そこはまさに、ブランドが日本に上陸して5、6年が経過した今、直面している大きな課題です。当時0歳だったお子様が5歳や6歳になり、110センチや120センチを超えてサイズアウトしていく時期を迎えています。「もっと大きいサイズを作ってほしい」というお声も多くいただいており、現在は一部商品を130・140サイズまで展開しております。
ただ、それと同時に私たちがもっとも強化したいと考えているのが、ギフト需要の開拓です。我が子がモイモルンを卒業した親御様たちに、「品質もデザインも間違いないから、友人や親戚の出産祝いにモイモルンを贈ろう」と思っていただけるブランドになりたい。そういった思いがあり、2025年から、「トレアド」という森の妖精たちがデザインされたかわいい専用ギフトボックスに入った、新生児向けのギフトセットを販売し始めました。価格帯も6,600から8,800円と、贈り物としてちょうど良い価格に設定しています。

ギフトボックス3点セット(ルモボタニカル柄コンビ肌着&ミトン&ハンカチ)
実はギフトというのは、「この服をあげたい」というより「予算に合わせて、見栄えのするセットを贈りたい」というニーズが強いんです。このようにアイテムを組み合わせてパッケージ化することで、お子様がいらっしゃらない方でも選びやすくなっています。今後は「出産祝いといえばモイモルン」という認知をさらに広げ、ギフトをきっかけに新たな会員様を獲得していくサイクルを作りたいですね。
――最後に、今後の展望を教えてください。
ブランドとして掲げる5年後、10年後のビジョンは、お客様の生活により深く溶け込む存在になることです。例えば子供向けの温泉施設やホテル、写真館といった別の業界とコラボレーションを通じて、「あの時の旅行で着ていたのはモイモルンだったね」と思い出に残るような体験を提供できたら面白いなと考えています。
また、個人的な興味でいうと、私はもともとヴィンテージや海外セレクトショップで働いていたこともあり、「ゼロから作り出す」ことよりも「すでにある良いものを、どうやってお客様に届けるか」を考えるのが好きなんです。最近は心理学に興味を持っていて、お客様の感情や心理を深く理解し、それをマーケティングにどう活かせるかを探求したいと思っています。今はAIが何でもやってくれる便利な時代ですが、だからこそ人間らしいアナログな思考や「考える力」を大切にしながら、お客様の心に寄り添うブランド体験を作り続けていきたいですね。
──「キッズ店長」という独自の共創モデルや、保育園のルールを踏まえた日本特有のニーズを汲み取ったローカライズなど、現場のスタッフとお客様がともにブランドを育てる手腕は非常に学びが多かったです。サイズアウトという構造課題を「ギフト」へ転換するLTV戦略も含め、モイモルンの今後のマーケティング展開に注目していきたいと思います。本日はありがとうございました!