※株式会社ENVYより寄稿いただいた内容を掲載しています。
マーケティング業務において、AIに企画や集客の案を作らせると、対象者の悩みやサービスの強みに合わせて、人の手による修正が発生するケースがあります。その修正理由が担当者のチャットに残るだけでは、別の担当者が次の案件で同じ手直しを繰り返しかねません。
本記事では、ウェビナーの企画・集客を例に、現場の修正をチームの知見へ変える運用を紹介します。何を記録し、誰が判断し、どの修正を次の仕事で使うか。マーケティングチームでAIを活用する際に決めておきたい点を、当社の実践から整理します。
目次
当社では以前から、ウェビナーの企画や集客の手順をマニュアルにまとめていました。それでも、経験の浅い担当者と経験豊富な担当者では、成果に差がありました。
今回着目したのは、参照できる過去事例や判断材料の違いです。経験豊富な担当者は、過去に反応の良かった企画やタイトル、集客経路を判断に使っています。その知見が本人の頭の中にあると、手順書だけではほかの担当者に共有しきれません。
担当者がAIへ渡す情報も、各自の経験によって変わります。そこで手順に加えて、過去の事例や判断材料をAIが共通して参照できるようにしました。
ここからは、具体的に運用設計の手順について解説します。
当社のデータベースには、過去に手がけたウェビナーの情報を蓄積しています。記録するのは、申し込み数や参加者数に加えて以下のような情報です。
配信先の属性やセグメント、訴求への反応、狙った対象者に届いたか、開催後の振り返りも関連づけて残しています。
過去事例を選ぶ際は、申し込み数の大きさよりも、今回の案件との条件の近さを確かめましょう。例えば同じ人事向けの企画でも、応募数を増やしたい企業と、応募後の連絡や面接日程の調整で困っている企業では扱うべき内容が異なります。「人事向け」とだけ記録すると、この違いが抜け落ちてしまうのです。
記録を整えるなら前者は「応募獲得」、後者は「応募後の対応」という課題まで残します。さらに選んだ企画の切り口や配信先、反応を結びつければ、何を狙い、どの条件で反応があったかを読み取りやすくなります。企画時の狙いと実際の結果は分けて記録し、狙った対象者に届いたかも振り返りましょう。
当社ではAIに過去事例の整理と案の作成を任せ、採用するかどうかは担当者が判断します。過去の反応が良くても、今回のお客様が提供できるサービスや、商談で伝えるべき内容に合うとは限らないためです。
確認するのは、主に次の3点です。
担当者が案を修正した場合は、修正箇所とその判断に至った理由を記録します。
今回も、前述の「人事向け企画」で考えてみましょう。応募後の連絡や日程調整に困っている企業が対象なのに、AIが「応募数を増やす方法」を提案したとします。この場合は、企画の中心を応募後の対応に変える判断になります。ただし、扱う方法はお客様が実際に提供できるサービスの範囲に合わせます。
記録する内容は、例えば以下の組み合わせです。
これなら、次の担当者も「どの条件を見て」「何を」「なぜ変えたのか」まで追いやすくなります。「もっと具体的に」とだけ指示する場合に比べて、確認すべき「ズレ」が明確になるのです。修正後の文言をコピーするのではなく、今回の対象者の課題と案の内容が一致しているかを判断する材料として使えます。

当社では、担当者がAIに出した修正指示を、必要に応じてチームの共通ルールに反映する仕組みを設けています。共通ルールの変更など、承認が必要なものを確認する役割はプロジェクトマネージャー(PM)が担います。
具体的な流れは次の通りです。
お客様固有の事情に合わせた修正は、現場の担当者が判断し、個別案件の中で扱います。
先ほどの例なら、「人事向けの企画は応募後の対応を扱う」と一律に決めると、応募獲得に困っている企業への提案が外れてしまいます。共通化の候補になるのは、「応募獲得と応募後の対応のどちらが課題かを確認し、企画の切り口を合わせる」という確認事項です。個別の修正内容から、ほかの案件にも使える判断を取り出すことが要点です。
自社で承認の仕組みを設ける際は、以下のような内容を確認しましょう。
条件の違いによる例外は残し、古いルールを置き換えるのか、新しい確認事項を加えるのかを決めます。

当社で把握している数字にも、以前と現在で変化が見られました。以下は、当社における概数です。
企画品質の確認には、AIが自動採点し、人が最終確認する社内スコアを使用しています。採用するかどうかはスコアに加え、今回の案件に合う内容かを担当者が確認して判断します。
経験の浅い担当者のスコアは、以前の60点台に対し、現在は初回提出で80点台後半です。経験豊富な担当者も、80点以上から90点以上になりました。
経験の浅い担当者の企画の差し戻し回数は、約4回から1回未満に減少しています。
ここでいう有効商談は、対象となる顧客がサービス内容や予算感を理解した上で、具体的な相談意思を持って臨む商談を指します。
有効商談化率は経験の浅い担当者で10〜15%程度から15〜20%程度になり、経験豊富な担当者の15〜20%程度という水準に近づきました。
自社で共通ルールを始める際は、まず対象業務を絞ります。企画の切り口を考える場面なのか、タイトルを確認する場面なのか。同じ修正が繰り返されている業務を選ぶと、何を共有するかを整理しやすくなります。
まず、「誰が何を記録するか」。以下のような情報を決めましょう。
案件の振り返りで記録するなら、次の企画を始める担当者がどこを読むかまで揃えておきます。
次に、「AIの案を誰が判断するか」。案件の担当者が、対象者やサービスとの適合性を確認する範囲を決めます。判断に必要な情報が不足している場合の確認先も明確にしておくと、根拠のない修正を共通ルールにしてしまうことを防げます。
そして、「共通ルールを誰が承認し、見直すか」。個別案件を修正する担当者と、全体のルールを変更する承認者を分類します。次の案件でルールを参照したあと、同じ修正が必要だったかを振り返り、理由の不足や適用範囲の広さが原因なら見直します。変更履歴や定期的な見直しは、組織の規模に合わせて検討しましょう。
まずは、直近1ヶ月に担当者がAIへ出した修正指示から、繰り返されているものを集めてみてください。修正の理由を確認し、ほかの案件でも使える判断を共通ルールの候補にするところから始められます。
ウェビナーの企画・集客に限らず、マーケティング業務で人が案を直した理由には、対象者やサービスについての判断が含まれます。それを次の担当者が使える形で残すことが、AIへの修正をチームの知見に変える第一歩です。
株式会社ENVYでは、のべ3,500回以上のウェビナー開催を支援してきました。企画・集客におけるAI導入や過去事例の参照から、担当者による確認、共通ルールへの反映までを行っています。